ある日の1日
登校中に、リムジンから降りる跡部を見つけ、声をかける美麗。
『景吾!おはよう。』
「あぁ。」
『朝練は?』
「今日は休みだ。つーかマネージャーなのになんで知らねーんだよ。」
『まだ始めたばっかりだもん。…あ!おーい若ー!』
すました顔で言ってのける美麗は前方に日吉を発見しスルリと跡部から離れた。
『若!おはよ!』
「…おはようございます。」
短く挨拶を返しただけで、日吉はスタスタ行ってしまう。それを美麗は追いかける。
『若、今日も相変わらずキノコね!最高よ!』
「嬉しくないですね。」
『褒めてるのよ?』
「嫌がらせとしか思えないんですが。てゆーかあっち行って下さい。跡部さんが寂しそうです。」
ちらりと後ろを振り返れば、日吉の言う通り心なしか寂しそうな跡部。なんでだよ、と思いつつも、仕方なく日吉から離れる。
日吉は美麗が後ろを向いた隙に校舎へ入っていった。
「お前、日吉に相当嫌われてんな。」
『は?違うわよ。アレはね、照れてるだけよ!』
「アレが照れてるように見えんなら今すぐ眼科行け。俺が腕のいい医師紹介してやる。」
『間に合ってるわ!』
美麗はふと跡部を見上げてみる。
『(…なんか嬉しそう。)』
跡部は先程とは打って変わり、なんだか嬉しそうな表情をしていた。
『ねぇ景吾。アンタなんで嬉しそうなの?さっきは寂しそうだったし…』
「!?き、気のせいだ!俺様が寂しがるわけねーだろが!」
慌てる跡部が可愛く思った美麗は、小さく笑いながらピトッと跡部に引っ付いた。
「…なんだよ。」
『別に?ただこうしたかっただけよ。』
「……フン」
二人の間にほんわか甘い空気が流れたが、それは後ろからやってきた者にぶち壊された。
「あかァァん!!」
叫びながら二人の間に割り込むのは忍足だ。
「朝っぱらから何いちゃついてんねん許さへんで!!」
『うっさいわね』
「あかん!俺の美麗ちゃんが……あぐっ!!」
言い終わる前に、忍足にボディブローが入る。綺麗に決まったボディブローに、忍足はパタリと倒れる。
『景吾。早く行こう。』
「……あぁ。樺地!忍足を頼んだ。」
「ウス。」
実はずっと跡部の隣にいた樺地は短く返事をすると、倒れた忍足を担いだ。
『樺地、それゴミ捨て場に捨てなさい。いらないから。燃えるゴミだからね!』
「ウ………」
思わず“ウス”と言いそうになった樺地は戸惑った末忍足を保健室へ運んだ。
何事もなくホームルームを終わらせ、授業が開始する。一限目は国語だ。
『……ねぇ。』
「アーン?」
『暇。』
「今授業中だぞ。暇なわけあるか。」
『暇。』
「授業聞いてろ。」
『ひーまー!!』
「だから授業中だっつってんだろ!!」
『暇なの!!』
「しつけーんだよテメェ!!」
『だってつまらないんだもん!!!』
「先生に失礼だろーが!!」
『景吾はつまらなくないの!?』
「つまらねーよ!!」
「「「………(酷い)」」」
授業が開始してから30分経った時、突然教室に響いた跡部と美麗の大きな声。授業中なのに周りを気遣う素振りもなく、失礼極まりない言葉を平然と口にする二人に、「…つまらなくてゴメンナサイ…」と先生は泣きながら呟いたのだった。
二限目は英語。
「えー…じゃあこの英文を…跡部!読んでくれ。」
「フッ…」
指名された跡部はガタッと席を立ち、自信満々に両手を掲げると、「キーング!キーング!」「キーング!キーング!!」一斉にキングコールが始まった。
「まだまだァ!!」
「キーング!キーング!!」
「キーング!キーング!!」
「もっとだ!!」
「キーング!キーング!!」
「キーング!キーング!キングー!!!」
パチン!
跡部が指をパチンと鳴らすと先程のキングコールは一瞬で止み、しん、と静まり返る。
「俺様の美声に酔いな!」
『早く読めよ。』
指名されてから数分経っても一向に読まない跡部に美麗はイライラしながら白けた目を向けた。
満足した跡部がようやく読もうとしたが、タイミングよくチャイムが鳴ってしまい、授業は終わりを告げた。
「……じゃあ今日はここまで。」
何事もなかったかのように終わった授業。
跡部は指を鳴らした時のままのポーズで固まっていた。
「………」
『景吾…』
美麗は跡部の肩にポンと手を起き、一言。
『どんまい。』
「……」