マネージャー就任
「オイお前ら!集合だ!」


ある日の部活中、跡部は突然レギュラー達を部室に集めた。


「なんか用事か?」
「練習したいんですけど。」
「まぁ待て。」


不満を漏らす部員達を落ち着かせ、本題に入る。


「見ての通り、ウチの部は人数が多い。マネージャーを取ろうにも真面目に働かねェ奴ばかりで話にならなかった。」
「そうやなぁ…」
「だが今年も合宿などいろいろある、となるとやはりマネージャーが必要なんだよ。そこでだ!俺様が選んだマネージャーを連れて来た!」
「え?連れて来たんですか?」
「あぁ。……だが逃げた。」
「「「はぁ!?」」」
「逃げたってどーゆー事だよ!」
「お前まさか無理矢理じゃねーだろうな。」
「あーん?うるせェよ。逃げられたけどもうじき来んだろ。」
「逃げた奴が戻ってくるかい。」
「フン…」



跡部以外が呆れたように肩を竦めた時、ガチャリと部室のドアが開いた。


「「「「え!?」」」」


そして入って来た人物に目を丸くさせた。


『…なんで私が…』


ぶつくさと不満を口にし、不機嫌オーラを放ちまくる女子には見覚えがある。


「え…み、美麗ちゃん?」

忍足はずり落ちた丸眼鏡を直しもせず、ポカンとした顔のまま名前を呼んだ。
部室に現れたのは学園一の美女、跡部の幼馴染みにして女帝と騒がれている雪比奈美麗だった。


「な、なんで美麗が!?」
「まさかマネージャーってコイツ!?」
「あぁ。オイ美麗。」
『何?』
「逃げるなってあれほど釘さしただろーが」
『うっさいわね!だいたい私いいって言ってないじゃない!!無理矢理連れて来られて逃げない方がおかしいわ!!』
「お前に拒否権はねェんだよ!!」
『ふざけんなこのホクロバカ!!』
「なんだと!?」



恒例の喧嘩がレギュラー陣の前で始まってしまい、忍足達はまたか、と呆れた視線を投げる。


「わぁ!これがあの有名な喧嘩ですか…初めて見ました!」
「…つーか一回逃げたんだよな?」
「…ホントに戻ってきたぜ。」
「…相変わらず綺麗な足しとるなぁ…」
「…侑士キモい。」


2年生は美麗と面識はないため、生でみる喧嘩に興奮気味の鳳と騒々しい、と耳を塞ぐ日吉と反応は様々だ。



「まぁそーいう事だ。」
『どーゆー事。』
「黙れ。今日からコイツはレギュラー専属マネージャーだ!みんな知ってるだろうが一応自己紹介しとけ。」
『………』
「オイ。」
『私マネージャーやるなんて言ってない。』
「…わかった、最高級のキノコ買ってやる」
『喜んでやらせていただきまーす!』
「(単細胞め)」
「「き、キノコ?」」


キノコと聞いて目の色が変わり、態度が急変した美麗を見て、困惑する2年生二人。


『3年の雪比奈美麗。好きなものは辛いものとキノコ。嫌いなものは忍足。よろしく。』
「まって名指し!?」

簡潔な自己紹介を済ませると、次はレギュラーメンバーの自己紹介に移る。が、3年軍は顔見知り、それなりに仲がいいため紹介は必要ない。


「二年の鳳長太郎です。よろしくお願いします、雪比奈先輩!」
『あー、亮から聞いてるわ。よろしく。長太郎って呼んでいい?』
「はいもちろん!」


人懐っこそうな子だな、と。
美麗は小さく笑った。


「二年、日吉若。」
『……!』


そしてもう一人の2年生、日吉を見た瞬間美麗の目が変わる。好きなものを発見した時の、嬉しそうな表情に日吉は「え?」と固まる。


『キノコ!』
「は?……ちょっ…なんですか!?」
『キノコだキノコ!!』
「すいません殴っていいですか?」

「落ち着け日吉!」
「美麗は大のキノコ好きだからな…キノコ見たら目の色が変わる」
「俺はキノコじゃありません。」
『私こんなキノコ初めて見たわ。なんていう種類かしら?』
「……先輩、さっきも言いましたが俺はキノコじゃありません。」
『え!?違うの!?』
「何本気で驚いてるんですか?マジで殴りますよ。



こぶしを固める日吉は怒りのあまり、震えている。
キッと美麗を睨むが、全然堪えておらず。


『まぁいいわ。よろしくねキノ……若。』
「今キノコって言いかけましたよね?」
『樺地は知ってるからいいわ。ね。』
「ウス」
「……(なんだこの人。)」


華麗に無視された日吉は少し落ち込むもすぐに持ち直す。


「よろしく頼むぜ美麗。」
『仕方ないわね。やってあげるわよ。』


腕を組み、めんどくさそうに呟く美麗はマネージャーを引き受けたことをこのあとすぐに後悔することになる。


to be continued...


あとがき→
prev * 6/208 * next