つめたい部屋 | ナノ




つめたい部屋



「音也、なんですか、それは」
「え、レンだよー」


そんなことわかっています。

答えるのも無駄だと思いため息をつきながら自分のスペースへ。

寮の自室に帰ると同室の音也の他にレンがいた。
いること自体に疑問はない。
音也とも仲が良い。自分とも同じクラスであるのだから。


「なんで、レンが私のベッドで寝ているんですか」


問題はそこ。
音也はおそらく課題に取り組んでいるようだ。珍しい。
時間はまだ夕方、寝ていること自体おかしい。
具合が悪いのか。いや、だったらレンの場合自室にいるべきである。


「なんかねー。マサに追い出されたんだって」
「なぜですか」
「よくわかんない。寒い、バカ。とか言ってたけど」
「寒い…?」


季節は夏。
暑いならわかるが寒いは理解しがたい。

なおかつ、レンの同室者の聖川真斗は空調を強くしすぎる、ということはないだろう。
空調の効かせすぎは身体にあまりよくない。

室内着に着替え、レンの寝ているベッドに腰掛ける。
自分はとことんレンに甘いと思う。

これが音也であったら有無を言わさずベッドから放り出すであろう。


「レン」
「…イッチー」


寝ているというようりは、不貞腐れている、というところだろう。


「聖川さんに何をしたんですか」
「おいおい、それじゃあ俺が何かしたみたいじゃないか」
「大方そうでしょう」
「今回はアイツが悪い」


普段、問いただせば図星であることがわかるくらい態度に出る。
今日はそれがない、少し事情が違うのだろうか。


「では、話しなさい。何があったか」
「あいつがいつものように書道をしていたんだ」
「聖川さんの趣味ですからね」
「ああ、それはいいのさ。俺も墨の香りは嫌いじゃないしね」


レンの言い分はこうだ。

彼は作詞の際もキーワードを書に認めることもあり、
書き始めると割と周りが見えなくなることがあるそうで。

それはレン自身も知っていることであり、書道をしているときは
極力話かけたりせず、邪魔をしないよう気をつけている、と。


「俺も珍しく課題なんてやってさ、大人しくしてたわけよ」
「課題はいつもやりなさい」
「まぁまぁ、それは置いといて。気づいたら部屋が寒くて」
「はぁ…」
「室内温度を確認したら20度だよ?信じられる?」
「それは…。空調を消すなり、設定温度を変えればいい話では?」
「そうしたさ。でも少しするとまた下がっているんだ。どうも書いていると
 暑くなってしまうようでね。本人もそこまで温度が下がっていることに
 気が付いてないみたいなんだ」


レンが空調を消しては、聖川さんがまた設定を変え…。
それを何度がした後、聖川さんが「いい加減にしろ」とレンを追い出したようだ。


「くだらない…」
「そんなこと言わないでくれよ。大人しくしてる人間が20度は辛いよ」
「まぁ、そうですけど。で、なんで私のベッドに入っているんですか」
「んー。なんとなく。イッチーのことが好きだから?」
「冗談でもよしてください」


こんな会話、聖川さんに聞かれたら。
それでなくても、彼はかなり嫉妬深い。


「レーン。マサ来たよー」
「神宮寺。何をしている」


…どこから聞かれていたのか。
何も聞かれていないことを切に願う。

音也と共に部屋に入ってきた聖川さんはツカツカとこちらに歩んでくる。


「他人に迷惑をかけるんでない。ほら、部屋に戻るぞ」
「嫌だね」
「神宮寺」


聖川さんも原因がわかってないせいか、一方的にレンを責める形になっている。
お互い様ではあるが、少々気の毒にも思える。


「イッチー。今日、ここに泊めてくれないかい?」


レンからの突然の申し出にチラリと聖川さんに視線を移す。
先ほどまでの剣幕は消え、少々焦りが伺える。


「貴様、それが迷惑といっているんだ。帰るぞ!」
「嫌だ、ね。あんな寒い部屋に帰るもんか」
「…寒い?」


ああ、やはり気づいてなかったんですね。

先ほどから聖川さんには珍しく表情が次々と変わっていく。
そろそろこの騒動も終わらせてしまいたい。

音也の「レン泊ってくの?ねぇねぇ?」と騒ぎを助長しかねない。


「聖川さん。書くのは終わったんですか?」
「ああ。一十木が来た時にはすでに終えていた」
「空調は?」
「空調…?部屋を出るときには切るだろう」
「わかりました。レン、もう大丈夫みたいですよ。
 あなたが書くのに熱中して知らず知らずのうちに設定温度を下げていたようです」


レンが部屋を出た原因を伝えると、聖川さんは納得した様子で頷き、
ベッドに寝ているレンに視線を合わせるように、しゃがみこんだ。


「それは…悪かったな」
「あ、いや…俺も言えばよかったし…」
「寒いなら寒いと言ってくれればよかったものの」
「お前、書いてるときは何言っても聞いてくれないの、わかってる?」
「いや、聴いているぞ。だが、基本的にお前の言ってることは無駄なことが多い」
「ちょ、それ仮にも恋人に言う台詞?」
「次からはちゃんと申し出てくれ、いくらでも俺が暖めてやろう」
「真斗…」

「あなたたち!仲直りしたならとっとと部屋に戻って下さい!」


放っておいたら私のベッドで何をされるかわからない。
聖川さんも真面目だからこそ、言葉がストレートでこちらが恥ずかしくなる。


「じゃあね、イッチー。いろいろサンキュ」
「面倒をかけたな。すまなかった」
「…いいえ。仲直りできたようで幸いです」


手でも繋ぎそうな甘い空気をまといながら2人は部屋を出ていく。


この御曹司組にはいつも振り回されているような気がします。


「トキヤー!」


2人を見送ると後ろから音也に抱きつかれる。
さっきまで割と大人しくしていたと思えば…。


「レンたちラブラブだったねー」
「…そうですね」
「俺たちも負けずとラブラブしよう!」



今日は疲れました。

もう好きにしてください。




END


真斗の行為は自分の行為。
私も書道をやっていて、特に大きな作品を書くときは暑くなって
室温を下げてしまい、書き終えて選定などをしているとその寒さに吃驚します。
トキヤとレンが仲良いのが好き。ちょっとだけ音トキ。

20120704


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