もう泣いてしまえばいいのに | ナノ




「真斗が帰ってこない」


突然訪れた恋は俯きながら小さく呟いた。


1.もう泣いてしまえばいいのに


「喧嘩でもしたんですか」
「・・・違う」


そのまま帰すわけにもいかず、部屋にあがらせソファに座る。
いつもはベタベタとくっついてくる恋が自分の手を組んだまま。


「仕事は・・・」
「いま、地方での撮影とか、ない」


仕事に関してはすぐに否定できた。
全てではないにしろ、グループでの活動もあるため長期ロケやドラマなど継続的な仕事に関してはある程度の情報共有はしている。

恋のいう通り聖川さんはいま長期的に家を空けるような仕事はない。
とはいえここ最近はグループでの仕事はないためお互いに連絡を取らない限り会う機会はほとんどない状態である。


「連絡はとってないんですか」
「メールすれば、返ってくる。電話も出る。でも、一言二言で終わっちゃう」
「そうですか」


この2人はいま同棲している。
家柄のこともあり一時はお互いに寄せ付けない状態が続いていたけれど、その溝も埋まり近々入籍するに至っている。

聖川さんに限って心変わりだとか、浮気だとか、そんな可能性は皆無でしょうけど。
不器用な人だから。

恋は恋で、ネガティブというか。
仕事での堂々とした姿が嘘のように、実際はかなりメンタル面は弱い。


「あたし、何もした記憶ない、のに」


いくら考えても、私自身も何も思いつかない。
気の利いた言葉もかけられずに、ただ恋の手を握ることしかできずにいる。


「ただいまー」
「・・・イッキ?」
「ええ、あの・・・つい先日から一緒に暮らしていて・・・」


私のではない靴があることに気づいたのか
「誰かきてるのー」なんて間延びした声が聞こえる


「トキヤただいまーって、恋来てたんだ」
「・・・うん。おかえり、かな。イッキ」
「おかえりなさい、音也」


音也の脱いだジャケットを受け取ろうと立ち上がると、そっと手で制止された


「恋、なんかあったの?」


音也の直接的な質問に恋は言葉を詰まらせている
恋の正面に座った音也は小さく落ち着いた声で話す


「・・・言いたくないなら、言わなくてもいいよ」
「・・・っ」
「でも、言葉にできないなら、何でもいいから出しちゃわないと、壊れちゃうよ」
「・・・イッキ」


そういえば、恋は泣いていない
今まで喧嘩したと訴えてくるときはすぐに泣いていたのに

本当に辛いとき本音をなかなか吐かない恋
今回はそれだけ思い詰めていたということなのか
こんなになるまで、私のところに来るまで一人でどれだけ悩んでいたのか・・・


「恋はさ、いつも周りの事よく見ててくれて、俺が凹んでる時とかご飯誘ってくれたり、話聞いてくれたりしてくれるじゃん。そのお返しってわけでもないけど、俺にもたまには頼ってよ」
「・・・ふっ、なによそれ」
「たまにはカッコつけさせてって言ってんの」


不意に立ち上がった音也が私に小さく耳打ちをしてから恋を抱きしめた


「俺じゃマサの代わりになれないけど、恋の涙とか全部かくしてあげる。だから、全部吐き出しちゃいな」


「それくらいじゃ嫌いになんてならないよ」という音也の声をきっかけに恋の泣き声が部屋に響いた

言葉にならない恋の声に音也は「うん、うん」と静かに相づちをうっている
先ほどの音也の言葉は「ちょっと、ごめんね」だった

普段は年少組で子供みたいな音也が今はすごく頼もしい
施設で育ったためか面倒見が良くて、何もできなかった私とは全然違う


「トキヤ・・・恋、寝ちゃった」


「どうしよう」って表情
さっきまでの大人な音也はどこにいってしまったんだろう
小さく笑ってしまう


「寝かせてあげましょう」


そのままソファに寝かせて、ブランケットをかけてやる
涙のあとの残る寝顔を見つめながら、入れ直した紅茶を啜る


「どうやら聖川さんが家に帰ってこないみたいなんです」
「マサが・・・?」
「ええ、私は聖川さんに会ってないのでよくわからないのですが・・・」
「俺、明日マサと仕事一緒だからちょっと聞いてみるよ。あんまり人の問題に首突っ込みたくないけど、あれじゃ恋が保たないと思う。明日、恋の仕事って・・・」


マネージャーさんに確認すれば恋は午後からドラマの撮影ということ
そのスタジオは音也も同じなので、一緒に行くことができる


「それじゃあ、恋のことよろしくね」
「え・・・」
「この部屋、3人は寝られないし」
「音也・・・」


さっきみたいに恋が泣いてしまったら、どうしていいかわからない
今でこそ音也との関係に少しずつ安定した心構えでいられるが、私もきっと恋と似ている
なんとなく私の気持ちも不安定になっている気がする


「そんな顔しないで。俺、前の部屋にいるから、同じマンションでしょ。何かあれば呼んで。すぐ行くから。夜までいるし、朝起きたらこっちくるから」
「・・・わかりました」
「だって、俺トキヤの作ってくれる朝ご飯じゃなきゃ力出ないもん」


音也の一言で気持ちが軽くなっていく

恋、大丈夫ですよ
何かあれば、私も。
こんなに頼もしくなった音也もいますから


END


無理矢理 音トキ出したらよくわからなくなった。

久しぶりすぎた。

けい

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