言い訳はこれにしようかな | ナノ




言い訳はこれにしようかな








うー、
やばいやばい

絶対、怒る

もう今更急いだってしかたないけど


「あー!もうっ」


家に帰ったって真斗はいない
だったら家にいても仕方ない
次の仕事関係者に誘われて食事に行った
1人の食事は苦手だ

仕事関係者との食事はよくあることで
真斗だって今まで経験してる
そして、あたしも

運が悪かった
としか言えない
その場にいた誰もがそう思うだろう

何人かの人が酷く酔っ払ってしまった
中には煙草を吸う人もいる

服が
酒臭いし、煙草臭い
でも、これに関してはセーフ
これだって珍しいわけではない


「でも、これはないわ…」


ひと目見ればわかる、
自分が着ていた服は大きく裂けている
ついでにタイツも

こんなことあるのか、ってくらい不運が重なった

酔っ払った1人が転びそうになって、
近くにいたあたしの方に手を伸ばした

けれど急なことにあたしはその手を掴むこともできず
その人が身に着けていたアクセサリーに服がひっかかる
重ね着をしていたため完全に下着が見える、という事態はなかったけど、
上に着ていた薄いシフォン素材の服は無残な姿に…

その衝撃で一緒に倒れてしまって
床に落ちていた何かに触れタイツも伝線

一瞬にして周りは静かになった
あたしを巻き込んだ人は一気に酔いが冷めたのか土下座する勢いで謝られた

弁償します!
と言われたが、時間が時間、服を売っている店なんて閉まっていた


タクシーでマンションの前まで送ってもらうことになった

真斗もいないし、1人なら問題なかった
でも、そのタクシーの中で真斗からの「帰宅した」というメールを確認してしまった


そして、今、エレベーターの中


もう、数秒で着いてしまう

事態を正直に話してもいいけど、あまりに偶然が重なりすぎて
信用してくれるだろうか

…信用してくれなきゃ困るんだけど

真斗に早く会いたくて急いだら転んだ、とか?

う、嘘じゃないけど!でも!
こんなこと言えるあたしじゃない

あああああ、もう、どうしよう

次の仕事の関係者と食事をしていて遅くなって
急いでて、転んだ!

間違ってない、これでいい


どうにかこうにか、一応答えを決めつけたところでエレベーターが到着
扉が開いた、エレベーターホールに…まさ、と

ちょっと、まだ心の準備できてな…!
怒られる…!


「遅いぞ、って…お前、それはどうした!」
「え…あ…、その…」
「早く部屋に行くぞ」


真斗が来ていた上着を肩にかけられ
抱きかかえられるように部屋に連れて行かれた


「何があったんだ」


部屋に着くとソファに座らされて、肩を掴まれた

そりゃ、こんな格好、いろいろ疑いたくなるよね
時間も時間だし


「とりあえず、風呂に入って、着替えてこい」
「うん…」


絶対呆れられた
人一倍真面目な真斗だ

強い酒とたばこの匂い
乱れた服

服はゴミ箱に投げ捨てた
憎い匂いをかき消すように髪と身体を洗う

泡を洗い流すために頭からシャワーを浴びる
全身に伝う温かさ


「う、わぁぁ…」


あたしも少しお酒も飲んだ
少しテンションが上がるくらいは酔っている

もう言い訳なんてどうでもいい
ただ、真斗に避けられるのが嫌で

お酒のせいかいつも以上に緩んだ涙腺

シャワーなのか、
涙なのかわからない

あたしはシャワールームで泣き崩れた



NEXT...その総てが、幸せだった


[さみしがり屋に贈る五題]
配布元:Kiss To Cry


20120711

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