足の大きさが違う | ナノ




足の大きさが違う





「ギャッ!」


我ながら色気のない声

でも、ベランダで転びそうになったら
誰だってこうなるって


「どうした!」
「…転びそうになっただけよ」
「まったく…少しは落ち着いたらどうだ」


うるさいわね、
しょうがないでしょ、
ベランダのクロックスが大きすぎたんだから


「珍しく洗濯をすると言ったのは自分だろう」


あたしだって、
たまにはそれくらいするわよ


「それはっ…!あんたが!」


真斗が指を怪我したから

大したことはないみたいだけど
家事にも支障ないって言ってたけど

いつも任せっぱなしだし
料理は出来ないし、
掃除も苦手だけど、

洗濯なら…
大半を機械がこなしてくれる洗濯ならあたしにもできる

それで、
洗濯が終わった衣類を干すためベランダに出た

あたりまえだけど、
ベランダにあたしが履くものはない
だって普段立ち入らないから

洗濯を干しながら思う

同棲しているわけだから、
この部屋にはお互いのモノがある

まず、玄関
あたしのモノがほとんどだけどお互いの靴、傘、
各々のキーホルダーのついた部屋のカギ

洗面台、バスルーム
それぞれの洗顔料、ワックス、ブラシやヘアアイロン
シャンプー、コンディショナー、洗顔フォーム、ボディソープ
タオル、スポンジ、その他もろもろ

キッチンには
それぞれの食器
真斗の割烹着
今はほとんど出場機会のない1人暮らしの時のあたしのエプロン

挙げだしたらきりがない
何度も言うけど、当たり前、

一緒に暮らしているのだから
共存しているのだから

でも、
ここは?

ベランダ、には、

あたしのものがない

だからあたしは真斗のサンダルを履いている
大きな、真斗のサンダル

そして、躓いた
そして、そのことが何故かひっかかった


「恋」


部屋の中に戻っていた真斗が、こちらに来る
手には、クロックス?


「これは…」
「おまえのものだ」
「なんで?」
「引越しの荷物に見当たらなかったからな」


お前、1人暮らしの時はどうしてたんだ、と問われる

1人暮らしの時は…めんどくさくて
全部、クリーニングに任せていた
あと、たまに真斗に


「しかし、一向におまえがベランダに出る機会がなくてな、完全に忘れていた」
「あ、そ…」
「今、転びそうになったのを見て思い出したんだ」


タグを外し、足元に置かれる
履きかえろ、と手を差し出され素直に従う


「これでもう転ばないだろう。では、続きを頼んだぞ。俺は茶を用意しておく」


新品で、まだ少し硬いクロックス
小さく笑って残りの洗濯物を干してしまう


「おわったー」
「ご苦労だったな」


抜け目ないなぁ
そして、相変わらずマメな奴だ

自分の為に緑茶
あたしのために紅茶を淹れている

ふぅ、と一息ついて、
先ほどまでいたベランダに目をやる


「ふふっ」
「どうした、いきなり笑って」
「なんでもなーい」


紺色にならぶ、小さなオレンジ
あそこもやっと、2人の空間になったんだ



END

[さみしがり屋に贈る五題]
配布元:Kiss To Cry


20120711

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