エッセンスは、 | ナノ




エッセンスは、




今日の仕事はST☆RISHで雑誌のグラビアページの撮影。
楽屋は6人一緒か、男女別で2部屋。
今日は男共のスケジュールの都合で女3人だけらしい。


「あー!もう、うるさいわねっ!大丈夫って言ってるでしょ!!」

「そ、れはっ…あんたが…!…なんでもない}


指定された楽屋の前に来ると外からでも聞こえる大きな声。
この声は…恋?

珍しい。
割と恋は感情を表に出さない。
トキヤみたいに常にポーカーフェイス、ってわけではないんだけど。
こんな風に声をあげたり、騒いだり。そういうことをしない。

誰と話しているんだろう。
この楽屋に来るのは、恋、トキヤ、そして自分だ。
トキヤ…は、ないな。
そもそも恋がこんなに感情を露わにする相手は決まっている。

電話でもしてるのか。
だったら、まだ入らない方がいいのかもしれない。


「何をしているんですか?」
「あ、トキヤ。おはよー」
「おはようございます。入らないのですか?」
「んー。なんか恋が」


電話してるみたいなんだ、という声は扉の開く音に遮られた。
勢いよく開けられた扉からは先ほどまで声を荒げていた恋が顔を出す。


「あ…2人ともおはよ」
「はよ。おまえ、でけぇ声で話してたみたいだけど」
「なんでもないよ、おチビちゃん。ちょっとトイレ行ってくるね」


ポンっと俺の帽子を叩いて恋は楽屋から出て行った。
開けられたままの部室にトキヤと2人で入る。

楽屋には恋のバッグが無造作に置かれている。
そのバッグからはゼリー飲料が落ちそうになっていた。

同じグループでも各々の仕事を全て把握しているわけじゃない。
…食事する時間もなかったのかな。


「全く恋は…いつもきちんと整理しなさいと言っているのに」
「あはは…トキヤ相変わらず恋の母親みたいだな」
「私は年上の子供を持った覚えはありませんよ」


そんなこと言いながらも恋のバッグを整えている。
さっき見つけたゼリー飲料にトキヤは顔を顰めていた。


「はぁ…」


大きなため息をつきながら、恋が楽屋に戻ってくる。
その手には携帯が握り締められている。


「恋、これはどういうことですか」
「なによイッチー。そんな怖い顔して」
「はぁ…。あなたここ数日まともに食事をしていますか」


あれ、なんかトキヤ機嫌悪い?
いや、機嫌悪いっつうか。ちょっと悲し気?
怒っているというか、叱っているというか。
恋もトキヤの怒る理由がわかっているのかバツの悪そうな顔をしている。


「やだな、イッチー。ちゃん、と。してるよ」
「そうですか。ではこれは何ですか」


トキヤの手にはさっき恋のバッグから零れそうになっていたゼリー。
そんなに目くじら立てて怒ることかな。
俺だって、仕事詰まってて時間ないときとか飲むし。


「それは、前の仕事がおしてて時間がなかったんだよ」
「その言い訳は先日も聞きました。そしてあなたは今日、仕事はこれだけのはずです」


トキヤは全部知ってるってことね。
きっと、恋がちゃんと食事をしていないことも。

あれ…そういえば。


「なぁ、恋」
「なに?」


…邪魔して悪かったな。睨まないでくれよ、トキヤ。

改めて、恋の顔をしっかり見る。
やっぱり。変わらず綺麗な顔をしているけど。


「ここ、ニキビできてる」


恋の顎の一部を指して教えてやる。

何事も本気でないというか、適当に見える恋だけど、
自分の魅せ方を知っている。自分のメンテナンスは怠らない。

それなのに、ニキビなんて珍しい。
近づいてみればいつもより肌の調子も悪そう。


「恋。だから言ったでしょう。生活リズムに気をつけなさいと!」
「うわっ…ごめんってイッチー」
「私に謝る必要はありません。私たちは人から見られる仕事をしているのですよ」


あー。こりゃ恋は言い返せないな。
トキヤの言ってることは正しくだし。


「聖川さんが長期ロケで不在だからと言ってこれでは困ります」
「べっ、別にあいつは…!」
「関係なくないでしょう?基本的に食事は聖川さんが管理しているみたいですし」
「そうだけど…」


そうか…。
聖川がいないせいで食事を身近で管理する人間がいない。
そして、きっと元々夜型の恋は聖川と生活をすることで、
必然的にそれが改善されていたんだろう。


「それで、聖川さんはいつまで不在なんですか」
「今日…」
「そうですか」


それではしっかり身体を整えなさい。とトキヤは優しく微笑む。
あー、だから母親って言われんだよ。


「恋。とりあえず、これ飲んどけ」
「…っと。ありがと、翔」


自分のバッグからビタミン剤を恋に渡す。
ま、気休め程度だけどな。

恋とトキヤの言いあいも終わって、
あとはスタッフさんかの指示を待つだけ。

俺は携帯を取り出してメールを確認。
恋はさっきまでの言い合いがうそのようにトキヤに甘えている。
結局トキヤは恋に甘い。恋がくっつくのを甘んじて受け入れている。

コンコンッ
と、鳴り響くノックの音に「はい」と返事をする。

スタッフさんかな。
「離れなさい」と言われ恋は膨れながらトキヤから離れる。


「聖川っ!」
「みんな、おはよう。今しがたこちらに着いてな」


聖川はロケ先での撮影が終了し、最終調整でこのスタジオに来たらしい。
恋は…あ、動きとまってる。
トキヤは、うん、嬉しそうというか、安心したように表情を緩めている。

「まだ時間はあるのか」と問う聖川に
スタッフさんの指示を待っているということを伝えると、恋の方へ歩み寄る。


「恋、ただいま」
「え、あ…あんたここ楽屋…!」
「そんなことわかっている。ん…おまえ…」


トキヤの腕にしがみつく恋の顔をのぞきこんで…あ、そこは。


「ニキビが出来ている」
「う…」


あーあ。
あんなストレートに普通言わねぇだろ。
しかも恋人に。ああ、恋人だから言うのか?


「おまえ、あれだけ生活には気をつけろと言っただろう!」
「う…うるさいわね!あんたがいないからいけないんでしょう!」
「ロケに行く前に準備していっただろう」


そこまでやってやってんの?
すげぇな、聖川。

2人の言い合いに油をさすようにトキヤがさっきのゼリーを聖川に差し出す。
さすがにちょっと恋がかわいそうになってきた。


「あなた、聖川さんにそこまでしてもらっておいてコレなんですか」
「それは…」
「足りなかったとは言わせないぞ」
「だって」
「なんだ、理由があるなら言ってみろ」


恋、正座しちゃってるよ。
トキヤと聖川は恋を見下すように立ってるし。
こええ…。

恋は完全に俯いてしまってる。
まぁそうだよな、俺だってその2人に囲まれたらなんも出来ないわ。


「だって…」


キッと、2人を見上げる、恋。
あ…泣いてる。


「あたしが1人でご飯食べるの嫌いだって知ってるでしょ…!」
「恋…」
「最初は、あんたが用意してくれたの、食べてたわよ
 でも、そんなの余計、さ…寂しいじゃない!あんたがいないのに
 食べてるものはあんたの作る料理の味がするんだもの…!!」


おお…言い切った。
すげえ惚気聞いた気分。

トキヤ固まってるし。
聖川は…赤くなって固まってる。


「恋。わかった、今度聖川が長く家を空けるときは俺ん家来いよ!」
「おチビ…」
「聖川とかトキヤ程うまくねぇけど、一応料理できるし!」
「ふふっ…ありがと、おチビちゃん」


固まっている2人を置いて、恋はキレイに笑う。
目の端に溜っている涙を指で拭ってやる。


「れ、恋」
「なによ」
「今日はお前の好きなものを振舞おう。何がいいか決めてくれ」


まぁ、あんなこと言われちゃ、たまんないよな。恋人だし。
恋も嬉しそう…じゃない?


「今日はおチビちゃん家行く」
「なっ…」
「いやいや、おまえ。しばらく会ってないんだろ?今日は2人で過ごせよ」
「いやー」


ぎゅう、と恋に抱きしめられる。
苦しいっつうの!お前、自分の胸、凶器だって気づけ、よ!


「トキヤ!助けてっ…」
「はぁ…恋、翔から離れなさい。息が止まります」
「あ、ごめんね。おチビちゃん」
「あー!死ぬかと思った!」


ていうか、スタッフさん、まだ?
まぁ今来られても固まった聖川がいて困るだろうけど。


「恋…」
「…わかったわよ。じゃあ、家で翔とトキヤも一緒に食べる」
「……一ノ瀬、来栖の都合を考えろ」
「俺らこれで終わりだぜー」


じゃあ、決定ね!

楽屋から飛び出て来た時や
2人に問い詰められていた時の顔なんかと全然違う

いつも雑誌の撮影で見せる色っぽい、大人っぽいのとも違う

子供みたいな無邪気な可愛い笑顔で恋は言った

あんまり詳しくは知らないけど、
家族といろいろ会ったって恋は言ってた。

だから、1人の食事が嫌いなのだろうか。
…好きな人なんていないだろうけど。


「真斗、今日はみんなでお鍋する」
「わかった。では、買い物をして帰るから家で待っててくれ」
「…あ」
「どうした?」


そろそろ、スタッフさんも来るだろうし、
自分の楽屋に帰る、という聖川のジャケットを恋が掴む。


「えっと…買い物。一緒に行く…」
「…ふっ。わかった。では仕事が終わったら連絡してくれ」


聖川は軽く恋の額に口づけを落として楽屋から出て行った。

今度は恋が真っ赤になっている。
年上だけど、可愛いな。


「恋、いい加減涙を拭きなさい。いつ撮影になってもおかしくないんですよ」
「わかってるわよっ!」



楽しい食事の為に はやく仕事終わらせねぇとな!



END


恋は基本干物女だと思う。


20120710


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