ヤキモチを妬く紅い顔 | ナノ




ヤキモチを妬く紅い顔




「今日は何時に終わる予定なんだ?」
「んー、一応17時に終わる予定」
「そうか。その後別の仕事がないなら一緒に帰ろう。
 俺も同じスタジオで18時に終わる予定なんだ」
「了解。じゃあ、行きイッチーの車に乗せてもらうわ」


俺たちの中で一番モデル業が多いのは恋。次点で一ノ瀬である。
今日もファッション誌の撮影があるようだ。

俺は同じスタジオで行われるが、次のドラマの取材を含めた雑誌の撮影である。

少し早目に行って恋の撮影を見学するのもいいだろう。
一ノ瀬も一緒だと言うし。

小さな楽しみを抱きつつ、予定より早めに部屋を出発した。





スタジオに着き、スタッフに尋ねれば同じグループということもあり
恋と一ノ瀬の撮影場所をすぐに案内していただけた。

そっとスタジオに入ればちょうど恋の撮影が行われていた。

セットの外で軽くメイクをなおされている一ノ瀬と目が合うと、
何故か少し焦ったような表情に変わった。

一ノ瀬が表情を崩すなんて、珍しい。

勿論、仕事とあれば様々な表現をする彼女だが、
日常はいわゆるポーカーフェイスである。

そんな一ノ瀬に疑問を持ちつつも、
セットに視線を戻すとまた別の撮影が始まるようだ。


「っ…!」


思わず声をあげそうになってしまった。

邪魔してはならない。
それでなくとも同じグループのメンバーがいるというだけで、
本来部外者なわけであるから。

しかし、声をあげずにはいられないような光景が目の前に広がる。

男性モデルと恋がかなり密着している。

設定は恋人、なのであろう。
そして夏に向けてのシーンであるためか、双方かなりの薄着で、露出もある。

一ノ瀬はこれを知っていたのだろう。

そういえば、彼女の衣装も夏を意識されている。
ただ、モデルのイメージなのだろう。
彼女の衣装は避暑地の令嬢と言えばいいのだろうか、真っ白なワンピースである。

恋のイメージは理解している。
下品にならない、色気の出し方。
恵まれたモデル体形を見せつけるようなタイトな服。

相手もそんな恋のイメージと同じものをもつモデル。
そのためかどうしても自分よりも恋の隣がしっくりくるように感じる。

そんな俺の心情を知らない恋はこちらに気づきもしないで、
様々な形で相手のモデルと絡んでいく。

わかっている。
これは仕事なのだ、と。

それは恋も、
そしてその相手のモデルもまた然りである。

不意に、ポケットに入れておいた携帯が震えた。
楽屋に戻らなければならない時間をセットしておいたものだ。

一ノ瀬の視線を感じつつも、自分の仕事に向かうしかなかった。





楽屋に戻ると、間もなくスタッフから声がかかり、
自分の仕事が行われるスタジオに案内された。

そこで、共演者の女優と取材、そして最後に撮影が行われる。

相手の女優は先ほどの一ノ瀬ような令嬢をドラマで演じている。
ドラマの宣伝ということもあり、その女優は演じる役のイメージの衣装や化粧をしている。
実際の彼女はサバサバした頼れる女性、という感じである。

インタビュー受けながら、その様子も撮影される。
今回のメインであるインタビューが終わると、一度休憩を挟み、
雑誌の表紙の撮影をして終了、というスケジュールである。

表紙の撮影に向け衣装の最終調整を受けながら時計を確認すると、
17時を少しすぎたところ。

順調に進んでいれば恋の仕事も終わるころだろう。

恋のことを考えるとどうしても先程の光景が頭をよぎる。


「聖川さん、お願いします」
「はいっ」


声をかけられ、セットに向かっている時にスタジオの端に
恋と一ノ瀬がいることに気が付いた。

一ノ瀬が俺が恋の撮影を見学したことを伝えたのだろうか。
恋がいることに気づき目が合うと、恋が嬉しそうな顔をした。

普段であれば自分も小さく微笑み返すところを、
先ほどの光景を思い出し、思わず視線を反らしてしまった。

その瞬間に、後悔し再び視線を戻すと、明らかに傷ついた表情。
そして隣の一ノ瀬には酷く冷たい目で睨まれた。

自分が情けない。
あんなこと。しかも仕事で嫉妬をするなんて。

表紙のみであるため差ほど時間もかからず終了。

最終チェックが行われ、解散となった。
撮影中も2人はいたが、辺りを見回すといなくなっていた。

自分自身に嫌気がさし、ため息をついて挨拶をしながらスタジオを出た。



恋はどこにいるのだろうか。
捜すにしてもまずは着替えねばならない。

重い足取りで楽屋に戻ったが、そこに恋はいない。
手早く着替え、何か連絡がないかと携帯を確認すると一ノ瀬からのメール。

そこには
恋が帰ろうとしたのを止め一緒に近くのカフェにいること。
撮影前のあの態度は酷いということが書かれていた。

全くその通りである。
恋を引き留めてくれた一ノ瀬に感謝しつつ、指定されたカフェに向った。





「あとは2人で話して下さい。恋、明日も撮影ですからね。早く泣きやみなさい」
「やだ…!イッチーと帰るっ」
「嫌、ではありません。私も音也と待ち合わせがあるんです。
 それでは、聖川さん。恋のこと頼みましたよ。ちなみに明日は10時から今日と同じ場所です」
「ああ、ありがとう」


自分の飲んでいたコーヒー代を置いていこうとするのを止め、一ノ瀬を見送った。
恋は居づらそうに視線を漂わせている。


「恋…」
「仕方ないじゃない。あれは仕事なんだから…」
「…わかっている」
「あたしだって、あんなの、したくてしてるわけじゃないんだから…」


俺があの撮影を見ていたこと等、一ノ瀬と話をしたのだろう。
恋が悪いわけでないのに。


「あんたが見に来てくれた、って嬉しかったから、あたしも見に行ったの」
「…そうか」
「そこで、あんなことされるなんて」
「悪かったと思っている」


自分自身が恥ずかしくなってくる。

なんであんな幼稚なことをしてしまったのだろう。
なんて自分は子供なんだろう。


「…ふっ」
「え…?」


さっきまで半泣きだった恋に、笑われ、た?


「あんた、顔赤いよ…、あれでしょ、あんなことに、とか思って恥ずかしくなっちゃったんでしょ」
「…!!」
「もういいわよ。嫉妬、してくれたんでしょ。あたしって愛されてるっ」
「なっ…!」
「そんな、真斗も好きよ。可愛くてっ」


図星、だ。
自分のことには鈍感なくせに、たまに観察眼の鋭さを発揮する。


「お、お前も目が真っ赤だぞ…!」
「…泣かせたの誰よぉ」
「それは…!」
「でも、目、反らされたは結構傷ついたんだからね」
「…すまなかった」
「明日、あんた仕事は?」
「ドラマの撮影が、昼から」
「じゃあ、あたしのこと送ってね。あと朝ごはん!あ、今日の夕飯も…」


あとね、あとね。と次々に要求してくる。
一緒に風呂に入るだの、マッサージしてほしいなど、どれも可愛い要求なのだが。

いくら店の隅とは言え、いつまでもここにいては何もできない。

機嫌もよくなった恋を車に乗せ、自分のマンションに向かう。


「あ、明日の撮影。またあのモデルと一緒なんだよね」
「…!」
「また見に来てもいーよ」
「いや…遠慮しておく」
「えー。また嫉妬する真斗が見れらると思ったのに」
「これ以上嫉妬させたら何するかわからないぞ」
「え」


自分から煽っておいて。
俺の一言に固まる恋が愛おしい。


だが、しかし。


今宵はお姫様の仰せのままに。



END


お題サイトにてタイトルをお借りしました。

配布元:Cubus

サイト内では「ヤキモチを"焼く"…」となっていますが、
規約に従い「ヤキモチを"妬く"…」にさせていただきました。
相変わらず終わり方がわかりません。ENDが迷子。


20120705

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