機嫌が悪かった理由
ただただぶらり、歌舞伎町を歩いていた。
特に仕事はないし、家にいたってしょうがない。
特に何も考えず歩いていた。
本当に久しぶりに彼女を見つけた。
目の前にいるお妙はきっと俺に気づいていないのだろう。食材を選んでいるようで全くこっちを向く素振りがない。
───なるほど、今日の夕飯は煮物か…。もちろん新八が作るんだろうな
今日はごちになります、とすでに決定事項と考えてお妙に近づく。
が、途中で足が止まった。
別になんでもないんだけど…なんだろうか、あんまり長い間会ってない気がして…だな。あれ、いつも何て声かけてたっけ?いや、普通に声かけてたよな。普通にさ!気軽にこう…あー…。
…。
普通って何だっけ?
やばい!何か訳わかんなくなってきた!!え、何、どーしたらいいの!?
ごちゃごちゃ考えが巡ってその名の通り頭を抱える。
完全に今の俺は変な人だ。ていうか不審者レベルか…?いやいや…。
「何してるんですか、銀さん」
「チッ。うっせーな、考え事してんだよ!」
「え?何、その口の効き方。いつからそんなにお偉くなったのかしら?」
「す、すみませんおねーさん。考え事をですね、していたんです。だから胸ぐらをつかむのをやめてください」
気づかない内にお妙は近くにいたようで。
先ほどの発言からお察しの通り、胸ぐらを掴まれた。
お妙はしばらく胸ぐらを掴んでいたが気が済んだのか、すっと手を離した。
俺はといえば苦しかったと言わんばかりに喉をさすり、お妙に目を向ける。
「…なんだか久しぶりじゃないですか」
「ここんとこ忙しかったからな」
「…ふうん。そうですか」
何やら納得いかないような、不満たっぷりの返事に反射的に少し背筋を伸ばした。
「何?」
意を決して口を開く。
この気まずい雰囲気は苦手だ。得意な人もそんなにいないと思うけど。
お妙はしばらく黙っていたが、呟くように口を動かした。
「どーせ女の人と何かしてたんじゃないですか?いやらしい」
それだけ言うと顔をしかめっ面させてお妙は自宅へ歩き出した。
「…は?」
怒っている…?よくわからないその態度に頭には疑問符ばかりが羅列する。
だが機嫌を損ねたのならしょうがない。なけなしの小遣いを出して一個だけ、一個だけハーゲンをかってやろう。
渋々コンビニに入り、アイスを手に取る。
ついでに自分の分のアイスも買おう。あ、新八と神楽も何かいるか…?
「すいませーん、」
一通り買うものを持ってレジへと運んだ。
*******
「もしもーし!だァれかー!新八君いるぅ!?…お妙ー?」
志村邸の前で我ながら大きな声を出したと思いながら家の中の人を呼ぶ。
「あ、今お妙さんならいないぞ」
「そうか、なんで当たり前にお前が出てくんだゴリラ」
さも家の住人のように出てきたのは真選組局長兼お妙のストーカー、ゴリラこと近藤勲だった。
その態度に何だかイラッとしてゴリラに向かって足蹴りする。
「てめっ、近藤さんに何しやがる」
「…えっ」
意外だった。俺がぶっ飛ばしたゴリラ近藤の横から副長のマヨ方が出てくるとは…。
「おい誰だマヨ方って。土方だコラ」
「心の中にツッコミを入れないでもらえますぅ?つか、なんでいんの」
なんだか分からないがイライラがハンパない。何なの、いつの間に真選組と仲良くなってんのアイツ。
別にいいけどさ、こんなニコ中マヨラーと仲良くなってもアレだよ、不健康まっしぐらだよ?ただちょーーーっとだけ顔がいいからって留守番させるとかどーなの?騙されてるとか考えないの?何、そんなにこいつを信頼しちゃってんの?
「…うざいなお前」
「ああっ!?」
「留守番じゃねーから、近藤さん連れて帰れって呼ばれたんだよ」
「あ、そ。じゃあ早く帰ってくんない」
「帰るつもりだったが気が変わった。テメー
に留守番させるなら俺が留守番しとく。何か危ない」
「は!?何が危ないって?言っとくけど俺のが志村家の信頼厚いからね!おまえなんかよりずっと信頼されてんだからな!」
「なんだよ、つっかかってくんなァ…。なんで俺に敵意むき出しなんだよ腐れ天パ」
「剥き出してないし!勘違いすんなバカ、マヨネーズバカ」
「マヨネーズバカにしたな、今殺す。ここで殺したらぁ!!」
「上等だコラアアァ!」
「うるさい」
ドオオオォン!!!!!
同時にバズーカが発射される。
口げんかに熱くなりすぎていて忘れていた。ゴリラ、マヨときたらあと一人いるだろ。
あのサディストが。
************
「あら、何で人の屍がニ体、ゴリラが一体あるのかしら」
「お帰りなせぇ姐さん」
「留守番ありがとうございました沖田さん。じゃあ屍持って帰ってもらえます?…その白髪天パは置いて」
「分かりやした。…姐さんの人気っぷりに嫉妬してやしたぜィその白髪天パ」
主に土方にですけどね、沖田は付け足すようにつぶやいて近藤を背負い「山崎、そのマヨネーズ運べ」と言うと先を歩いた。そしてどこからともなく地味が特徴の山崎が現れ、土方を背負った。
お妙はその状況をぽかんと見送る。
「あの、ゴリラ、マヨ、サドときたら地味もいるって旦那に言っておいてください」
と山崎からの伝言もお妙はぽかんとしたまま聞き流した。
真選組が去り、銀時の方を向く。
「…嫉妬って何よ」
お妙の顔はしかめっ面…ではなく、少し顔を紅潮させて恥じらいを見せた顔をしていた。
ふと銀時の手元に視線を落とすとぎゅっとコンビニの袋が握られていた。
「もう…ご機嫌取り用のアイス、溶けちゃってますけど。しかも自分の分もあるじゃない…。これは新ちゃんで、こっちは神楽ちゃんかしら」
お妙は全く…、とため息をつく。
なんとなく把握ができたのだろう。
───夕飯一緒に食べる気ね、この男
まあ、今回はいいか…。
お妙は銀時の頬をぺしっと軽くたたく。
「さっさと起きてくださいな。」
お妙はそう一言残すと銀時の荷物を持ち、家に入っていった。
機嫌が悪かった理由
あなたが沢山の女の人と仲良くなってるのに嫉妬してたから、なんて教えてあげないけどね。
おまけ。
「姉上、ただいま」
「おかえりなさい新ちゃん。」
「あれ……銀さん?え、生きてるんですか?」
「生きてるわよ、多分。ところで新ちゃん、今日は銀さんたちも夕飯一緒だから神楽ちゃん呼んできてくれるかしら?私が夕飯作るから」
「えっ…いや、それは僕がやります!やりたいです!姉上が神楽ちゃん呼んできてください。きっと僕より姉上が呼んだ方が喜ぶと思うんで!!」
「あら、そう?じゃあ夕飯お願いね」
「はい!姉上!!」
end
×