日常の変わり始め
※甘い毒針の続編です。
「で?」
「…はい?」
真向かいに立っている坂田君は「おいっ!」とツッコミを入れてきた。 校舎の廊下は移動教室だ何だと少し騒がしい。
そんな中、坂田君に呼び止められたのがここにいる理由だ。
正直、このあと私は授業があるし、坂田君といるのはなんとなく…私は気まずいので早くこの場を去りたい。
しかし、彼は何やら文句があるような顔で私の行く手を阻んでいる。
「…?あの、一体なんですか」
「先生俺さ、この前土方先生との約束って何か聞いたよね?」
「え、あ…はい」
「教えてあげるって言っておいて、…はぐらかされたよね、俺」
「…」
だって内緒にしてっていうのが約束なんだもの。言えるわけ無いでしょ。
一応「酔っぱらった時の酒癖の悪さを秘密にしておく約束をしただけ」と言っておいたんだけど…
嘘ではないし…。
「はぐらかした訳じゃないわ。だって一応本当のことよ」
「絶対酒のことだけじゃねえだろ!直感では恋愛がらみだと思います!」
「!?」
なにそれ!当たってるのが怖い!!!
「当たったな」
「…顔に出てた…?」
「ばっちりですね、先生」
いやな笑みを浮かべた坂田君は私と距離を縮める。
ーっなんで近づいてくるのよ!
だんだん顔が熱くなるのが分かる。その顔を見せないように顔の前に片腕をやり、もう片腕で距離をとる。
坂田君は、それが気に入らないのか少しムッとした表情をする。しかし、その腕の距離から無理矢理距離を縮めることはなかった。
それに少し安堵し、息を吐く。
いつの間にか、うるさかった廊下に人はほとんどいなくなり、静寂が周りを包んでいた。
ふと腕時計が目に入る。
…。
「坂田くんどいて!」
「あだっ!?」
少し勢いをつけて坂田君を突き飛ばす。
いきなりのことで…彼にとっては予想もつかないことでまばたきをしていた。
「時間見て!もう授業開始まで1分あるかないかよ!?さっさとクラスに戻る!私も授業あるんだから!ああぁ!校舎が遠い!!!急がなきゃ」
「あ、はい」
恐らく呆然としているであろう坂田君をおいて、廊下を小走りに去る。
坂田君と二人きりだった気まずさと嬉しさは一気に焦りに変わった。
「先生!絶対教えてもらうからな!!!」
階段を下りる時、上から坂田君の大声が聞こえた。
振り返ればニヤッと笑った坂田君がしばらく私を見て、その場を去った。
恐らく自分のクラスに戻ったのだろう。
私はといえば今なお鼓動が速まり、高鳴っている。
きっといきなりの大声に驚いたからだ、そうに決まってる…!
なぜか自分に言い聞かせなければならなかった。
でないとこの気持ちの理由が何なのか分からなくなってしまう。
ぎゅっと拳を握り、授業のあるクラスへ急いだ。
*******
ガラッ!
勢いよく教室のドアを開く。どうやら、先生はきていない。授業に間に合い、ホッとして席に着く。
「どこいってたのー?」と女子たちが口々に聞いてくるが、「内緒」と一言呟いてその場を過ごす。
「てっきり授業サボるのかと思ったわ」
となりの席でふふっと笑うミツバ。
「サボりませんー。土方君の授業はなんだかんだ面白いからな!」
「あなたが授業進行を阻んでるだけでしょ?」
「なんだ、怒ってんのか?」
「怒ってないわ。」
ミツバは笑顔でそう言うと前を向いた。
どうやら土方先生が来たようだ。
教室の戸が開くと同時に号令がかかる。
「銀さん」
「んー?」
ミツバに声をかけられ、顔は前を向いたまま返事をする。その体制はミツバも同様。
「なんだか楽しそうね」
「…ちょっと動いてみたら脈ありっぽかったんで、ね」
そう言って口角をあげる彼をミツバはちらっと横目で見て、「ふぅん?」と相づちを打った。
日常の変わり始め
To be Continued...?
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