恋せよ青年!
今日はいつもより騒がしい
それもそのはず
2月14日…いわゆるバレンタインデーだ
当然この3Zも例外ではなく
いつもよりお祭り気分だ
「あ、あのっ沖田くんっ!」
「…あーすいやせん、俺は好きな奴からしか貰わないんで」
隣にいる沖田は他クラスから来た女達をこっぴどくフっていた
「…好きな奴って?チャイナ娘か?」
「土方さんには関係ないでしょ」
沖田に少し睨まれてそう吐き捨てられる
まあそうだけど…、と促していると今度は沖田から質問される
「姉上から貰いやしたかィ?」
「…」
黙り込むと沖田はハッと鼻で笑う
「俺は貰いやしたぜィ♪一番に」
にやにや笑う沖田にムカついて沖田の頭を叩く
「ってーなァ!」
「好きな奴からしか貰わないんじゃねーのかよ」
「姉上は人として、家族として大好きでさァ」
「そうかい」
良かったね、と嫌味ったらしく言う
そして沖田のとなりをたって廊下に出る
「何処行くんでィ」
「便所」
本当は何処に向かうわけでもないが適当に返事する
その場にいればミツバから貰ったチョコを自慢されるのだろう
それが癪だから廊下に逃げれば───…
案の定、女どもに囲まれるのだった
はたから見りゃ羨ましい光景かもしれないが実際になってみろ、お前ら便所も楽に行けねェんだぞ
そう不満を心の中で言っていると囲まれた女達の外に愛しいアイツがいた
ミツバだ
バチリと目が合ったが、ミツバはこちらに気にもせず教室に入っていった
「ねえ土方くん!これ受け取ってよ!」
「私のも!!」
「私もー!」
「悪い、どいてくれ」
囲まれた中から這い出ようとしてもなかなか出られない
「ミツ―…」
声をあげてミツバを呼ぼうとしたが止めた
さっきのように気にも止められず、無視をされたらどうする
せっかくのバレンタインなのにそんな最悪の日になってしまうのは嫌だ
どうすることもできず囲まれた中をもがく
『あーあー…えっ?マイク入ってる?えーとぉ土方くん〜マヨラーの土方くん〜…職員室に来なさい。…あ、ダッシュで』
相変わらずムカつくが今回だけは銀八に感謝をし、女子の群れから出る
一体何の用だろう…
とにかく職員室に向かった
「遅い…ま、いいけど」
「…何のようスか」
職員室の椅子にもたれ、ジャンプを読みながら相づちを打つ先生を やっぱ嫌いだわ、と呆れつつ銀八を見る
「用って言う用はないよ」
「…じゃあ呼ぶんじゃねーよ」
「俺は土方くんが女子に囲まれて迷惑してると思って、助けてあげたんだけど?」
…嘘なのか本当なのか分からないが一応「…どうも」と言っておく
「ま、可愛い教え子のためならね。ところで、沖田姉から貰ったの?」
「…関係ねーだろ」
急に何だ、と怪しみながら銀八に目を向ける
「確かに関係ないんだけどさ…アイツ、今日好きな人にあげるんだってよ」
好きな人…!?
聞いてねーよ!
それが顔に出てたのか、銀八がにやにや笑う
「…何スか」
「べっつにぃ〜?なんでも張り切ってたなぁ…弟の沖田に知られないように作ったんだと」
それはもうとっても手の込んだものらしいよ。他の人のとは比べものにならないくらいに
「…」
なんだそれ
聞いてねェよ
ミツバに好きな人がいる
誰だそれ
「なんか屋上で渡すんだって」
「…へー。でも鍵がかかって…」
「ああ、それなら取りに来てたよ」
「そッスか…」
「ちなみに放課後に渡すらしいよ」
放課後…
今日は部活サボって行くしかねェな
そう決意していると目の前に銀色の鍵を出される
「屋上の合鍵。先回りしちゃえば?帰りに返せよ」
「…さんきゅ」
バッと鍵を引ったくり、職員室を出る
教室に戻ればミツバの顔が妙に赤くなっていた
近くに志村姉や、チャイナ娘がいたので所謂恋バナをしていたのだろう
ミツバの机の上には銀色の鍵
「…ミツバ」
「は、はい…?」
「…おはよ」
「お、はようございます」
それだけ交わすと俺は近藤さん達の群れに入る
さあ
問題は放課後に残っている
早く放課後になれ、と思う反面なるな、と思う自分がいた
そんなことをうだうだ悩んでも時間はやってくるわけで
志村弟の号令後、ぞろぞろとみんなが教室を出る
俺もその並みに乗っかり、周りの女に囲まれないようそそくさと教室を出る
ミツバはまだ志村姉と話していたので銀八に言われた通り、先回りする
「あれ?トシ、部活は?」
「サボる気ですかィ?」
「あとで行く!」
通りすがりに声を掛けられ一言答えて屋上に向かう
「…屋上に向かってんのか?」
「土方さん…ついに壊れたんじゃないですかィ?」
そんな会話を近藤たちがしていたのはまた別の話…
ガチャリと勢いよく屋上を開ける
相手の男は居ないようでホッとしつつ屋上の空気を吸う
いつも閉められていた屋上には入れるのはなんとも良い気分だ
と、落ち着いていられたのも束の間
屋上のドアノブが回り、ドアがガチャリと開く
「…と、しろ…さん…?」
「…よう」
ミツバはキョロキョロと辺りを見回して「お一人ですか?」と聞いてくる
呼び出した男でも探しているのだろうか
まだ誰も来ていないのでこくりと首を縦に振る
するとミツバはホッとして微笑む
「そ、でしたか…」
「…誰かと待ち合わせ?」
単刀直入に聞けばミツバは、?と首をかしげる
「それは私の台詞よ?…そよちゃんは?」
「徳川!?」
なぜ!?
「話が分かんないんだけど…?」
「え?だってお妙さんが…」
その時だった
ドアに人の気配
「だ、誰かしら…」
「…はめられたな」
え?とミツバは俺を見る
…上目遣いは止めてくれ
なんか照れる…
フイとミツバから視線を反らす
「あー…お前はなんで此処に来たんだ…?」
「そ、れは…あの…」
横目でミツバを見ると照れて俯いていた
「昨日お妙さんに…そよちゃんがここで十四郎さんに告白するって聞かされて…
だから、先回りして阻止したら?って提案されて…
屋上の合鍵をお妙さんが朝早くに借りたらしくて…貸して貰ったの…」
なるほど
そういや銀八は誰が鍵を取りに来たかは言ってなかったな…
くそっ…やられた
…待て
「なんで阻止…?」
「それは十四郎さんが好きだ、から…」
「…」
ミツバは自分の言ったことを思い出してか真っ赤になる
つられて俺も赤くなる
「…マジでか…」
「わっ忘れて!」
「忘れられるかよ」
逃げようとするミツバを後ろから抱き締める
「…俺はお前がここで好きな奴に告るって聞いて阻止しにきたんだよ」
この意味、わかる?と聞けばミツバはまたも赤くなる
「俺としては本命チョコ…ほしいんだけど」
ミツバは照れ笑いをしながら「好き、です」と呟いて俺にチョコをくれた
かわいくラッピングされて、きっと総悟のチョコよりも量がある
それが無性に嬉しくて「ありがとう」ともう一度強く抱き締めた
恋せよ青年!
あ、お返しは三倍返し、ですよね?
…志村姉から教えられたのか?
何でも一番大切な言葉らしいです
…期待しとけ、三倍返し
・銀八など周りに後押しされる二人を見たい
オマケ↓(なんとなく銀妙・沖神要素有り。おkな方はどうぞ)
↓
その頃ドアの裏では…
「うまくいきましたね」
「ああ…にしてもいつまで抱き締めあってんだ」
「良いじゃないアルか、二人とも結ばれたし」
「…ま、そうだな」
にまにま笑う三人はお妙、銀八、神楽である
「焦れったかったアルもんな」
「ふーん…面白くねェや」
「妬くな総悟。お似合いじゃないか」
「「「…」」」
くるりと横を見れば沖田と近藤がいた
「…なんでいんの」
「チャイナたちが何か企んでるのは分かってやしたんで」
「トシが部活をサボるなんて余程のことだから見に来た次第だ。お妙さん、俺たちも熱い抱擁をーぐげふっ」
お妙のパンチが近藤にめり込み、近藤が倒れる
「容赦ねーな」
「それほどでも」
にこりと微笑むと銀八は冷や汗を垂らす
「チャイナ、俺にチョコは?」
「ハァ!?知らないネ!…あ、余ったのならあるアルけど…」
沖田と神楽はいつの間にか青春真っ只中
「…ここもくっついちゃいますね」
なんだか置いてかれちゃった気分、とお妙は微笑む
「…俺もチョコ、ほしいんだけど?」
沖田の二の舞で言ってみればお妙はクスリと笑って俺を見る
「後で、いいですか?」
「じゃ、あの場所で」
ポン、とお妙の頭を触って階段を降りる
「銀ちゃん?どこ行くアルか?」
「職員室に戻るんだよ。お前らあんま邪魔してやるなよ?…後、神楽、先生をつけろ」
銀八はそう言うと階段を降りていき、見えなくなった
「…じゃ、私も。またね」
「?また明日アル!」
「さよならー」
その後はまた別の話なのだった―…
END
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