美男美女の用事
※銀妙、沖神、土ミツが学生
この高校はいわゆる名門校。
毎年県大会出場のバスケ部やバレーに剣道…と部活では有名な強豪校として名が知れ渡り、更に有能な教師軍に優秀な生徒……
しかし、それだけではない。
もう一つ有名な話がある。
それは───…
「銀時くんっ!」
「土方くんっこっち向いて〜!」
「沖田くーん!」
「志村さんっおはようございますっ!」
「ああっ…ミツバさん!」
「神楽ちゃん!」
それは、この学校には美男美女が多いということ。
カリスマ的人気を誇る坂田銀時、強面だが美男で優しい土方十四郎、ドSで素直な性格の整った顔立ちをした沖田総悟。この三人を筆頭に男子は人気である。
一方の女子は、美人で気立てのよい姉御肌な志村妙、平成の大和撫子と言った完璧な才女の沖田ミツバ、明るく誰とでも隔てない神楽を筆頭に美女が勢揃いである。
他校にまでファンクラブが出来るほどの彼ら。
「おー…みんな手、振ってら」
そう言って銀時は普通に手を振り返す。その仕草により手を振られた辺りの女子たちの黄色い悲鳴が上がる。銀時はそれを「おもしれー」と笑う。
「やめろ、混乱起きるだろーが。つか、志村に止められてんじゃなかったか?」
「うっせ、妙の名字呼ぶな。もちろん名前も駄目な。…なんか手ェ振るなって言われてた気もしなくなくもなくも…あれ、どっちだっけ?ま、いいけど。つか、テメーはもっと愛想振り撒けよ」
土方ファンが悲しむだろーがと、じとっと土方を見る銀時に土方は「ほざけ」と一言銀時に呟いて無視する。
「姉上以外になんか愛想振り撒くか、ってことですかィ?キモウザ死ね土方」
「ああっ!?お前が死ね総悟!つーかテメーだって愛想振り撒かねーだろうが!神楽か?神楽を想ってるからだろ?」
「違います。こういうプレイでさァ。…つか、アイツは俺が何したって牽制とかしてこないんで…」
そんな口論をする中、騒ぎは収まらない。それどころか人はどんどん多くなるばかり。
そして彼ら美男の前方には校内の美女三人が現れる。
「おはようございます銀さん。相変わらず女の子に優しいのね」
そう笑顔を作りながら銀時に近づく志村妙。
「見てたのかよ…。悪かった、手を振るなって約束破って…」
「あら?ちょっとカマかけただけよ。へえ…約束破ったの…」
「た、妙ー…笑ってないよ、目が。ごめんって!」
ぎゃー!と上がる悲鳴は先程までの余裕を感じさせる銀時ではなく、切羽詰まった様子を出していた。
土方は、妙と銀時のコントとも言えるそれに「またか…」呆れた顔をする。
「飽きねーな、アイツら」
「でもあそこまで仲良しなのは羨ましいわ」
「…喧嘩とか、したいの?」
「そーじゃないわ。本音を言い合える仲って素敵じゃない?…私たちももちろん本音を言い合える仲だけど」
「俺はあんなに過激な付き合いじゃなくていい。今で満足」
「私だって今の私たちが一番満足できる関係よ」
ふふっと笑うミツバの柔らかい笑みに、二人の空気だけふんわりと和む雰囲気に早変わりする。
しかし、それをムスッと見ていたのは紛れもないミツバの弟である総悟だ。
「土方のヤロー…姉上から離れやがれ…」
「シスコンも大概にするヨロシ」
「何でィファザコンの奴が…」
「あん?後、お前この前女の子泣かせたダロ。あれほど泣かせるなって言ったのに…」
「告白されたのをフッただけでさァ。泣かせないようにって…それじゃあ付き合うしかないけど…いいのか?」
「うぐっ…それはまた別問題アルけど…とにかく女の子を泣かせるのは駄目ヨ」
「ったく、女の味方ばっかりしやがって…ヒーローかお前は」
「ヒーローは銀ちゃん、ヒロインは私アル。」
「…ごめん、ツッコミ方をどうしていいか正直分からん。」
仲睦まじい会話を馳せる美男美女…。
もうだんだんとお分かりだろうが、彼らは付き合っている。恋人たちなのだ。
銀時と妙の繰り広げる夫婦コントに双方のファンは悔しがりながら見守るのみ。妙に手を出せば銀時が黙っていない。人望の厚い彼を敵に回すことは死に値する。逆に銀時に手を出すことも不可能である。そもそも銀時が妙以外は眼中に無いのだ。
土方とミツバについてはあの相思相愛な熟年夫婦っぷりには誰一人とて割り込める隙はない。
特に土方には銀時同様、一途なためミツバしか眼中に無い。
逆にミツバは無抵抗で隙があるが、人に慕われやすく人望は厚い。そして何より彼女に手を出そうものなら彼氏である土方と弟である総悟にどんな制裁をされるものか…。
沖田と神楽は自他ともに認めるケンカップルで一番恋人らしい関係である。他二つのカップルより入り込める隙があるからかどちらも告白をされやすい。もちろん何だかんだラブラブな二人だから告白をしたとて報われはしないが。それに、神楽に告白をした人にはもれなく沖田からの制裁が加わるという…。
そんな三組カップルがこの学校で一番の人気者であり、学校の名が知れ渡っている有名な原因の一つである。
「銀さんは女好きですよね、本当に」
「んな事ァねーよ。俺が一番好きなのは妙だし」
「…なにそれ。この女ったらし」
む、としかめっ面する妙に銀時は頬を緩める。
(なに、この可愛い生き物!)
「悪かったよ。けど女たらしじゃねーし、そもそも妙以外は皆同じだろ?」
「何かそれはそれで失礼だわ。…でも嬉しいです、けど…」
「なんなのお前!」
銀時はそう叫びながら妙を引き寄せ、強く抱き締める。妙は困惑するが、彼女もまた、ぎゅっと銀時を抱き締めた。
その様子にきゃーきゃー騒ぐ女子たち。
そして銀時の「妙を好いている男達」への一睨みに男達は苦笑いして失恋を嫌々受け入れていたのだった。
「ところでみんな、今週の日曜日は空いてるかしら…?」
おずおずと声を出すミツバに、総悟は「空いてます!!」との即答し、神楽もそれに頷く。銀時、妙もまた空いてることを伝える。
その答えにミツバは「良かった」と声を漏らした。
「遊園地のチケットを友達から三枚貰ってたの。カップル一組に一枚だから丁度いいでしょ。…だから行かない?」
「おっ!いいね、行こう!!」
「確かに楽しそう。是非行きたいわ」
「私もたくさん遊びたいアル!な、サド!」
「もちろん行きまさァ」
その話にわいわい盛り上がるカップル達。
ミツバはその様子に微笑み、未だに喋らない土方の腕を組んだ。
「ふふっ。良かった」
「…あ、そ」
「何か怒ってます?」
「俺は聞かれてないんだが…?遊園地デートの話さえも聞いてねーし…。」
子供のようにムスッとしかめっ面する土方にミツバは呆れたように笑う。
そして絡めている腕に更に強く寄り添った。
「十四郎さんの事なら分かってるつもりだもの。デート、してくれるでしょ?」
若干不安そうな瞳を上目遣いで土方に見せるミツバ。彼女にとっては何の計算もないのだが、土方にとってそれは効果抜群であった。
(可愛すぎなんだよ、このやろ…!)
「そりゃ、するに決まってんだろ…。」
強面なその顔は崩れ、朱に染まった顔を隠すように土方は下を向く。
土方のその仕草を分かっているミツバは、くすくすと笑い出す。
「楽しみね、日曜日」
美男美女の用事
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