これで、おしまい。
※結野アナ離婚後
いつもと変わらない日差しに、変わらない部屋
いつもの日常が自分を包む
「クリステル様…」
「…あ、え?ご、ごめん、聞いてなかった」
外道丸は縁側に座っている私の隣に腰かけた
「いえ、名前を読んだだけでござんす」
「そう…」
「…晴明様を恨んでいるでござんすか?」
外道丸はそうポツリと独り言を呟くように声かけてきた
少し思考が止まったがいつもと何ら変わりない笑顔を作る
「…まさか。どうして?」
「だってクリステル様…さびしそうな顔してるでござんすよ」
真っ直ぐ向けられた目にドキッと心臓が鳴った
図星をつかれたようだ
いや、実際に図星をつかれたからそう感じたのだろう
作られた笑みを崩し、顔を緩ませればみるみる暗く沈んだ顔をし出しているのが自分でよく分かる
「なんでこんな顔…」
「……」
何でだろう
だって結婚を本当はしたくなかったのだから
離婚できたことに感謝しなきゃいけないのに…
「道満さまと生活してどうでござんしたか?」
「どうって…何もないわ」
本当に 何もなかった
愛を囁いたわけでも体を交えたわけでもない
彼のほうは体を交えたかったかもしれないが…
ただ、彼は優しかった
初めは何の感情もなかった
尻野道満───彼を好きになることはおろか、むしろ無関心だった
これといった仲でもなければ話が合うのかさえ分からない
でも彼が私をまるで割れ物を扱うような接し方をしてきたのは覚えている
必要以上に私には触らず、こちらから手を伸ばせば照れる
そんな可愛いところがあったことも覚えている
「クリステル様?」
「ごめん、考え事しちゃってた」
「いえ、ただ顔が綻んだから気にならないわけではないでござんすが」
「えっ!?」
バッと顔に手を当てる
何で綻んだのだろうか…
何だかそれが恥ずかしくなりコホン、と咳払いした
「とにかく結婚後の生活は何も起きなかったわ」
「そうでござんすか…でも、とても苦しかったわけでもないでござんすね」
「だって、」と外道丸はあまり表情を変えない顔を綻ばせた
「だって道満さまのこと考えて綻ばせたんじゃないでござんすか?」
「!」
「図星でござんすね?」
いつもの無表情は嘘のようにニヤニヤ笑う外道丸
少し顔が熱くなるのが分かったが知らんぷりをした
そして冷静を装うように深呼吸してから外道丸を見定める
「幸せじゃなかった、わけじゃないわ」
何だかんだ不器用ながらに優しい彼を嫌いになったことはない
もしかしたら少しずつ惹かれていったのも事実かもしれない
すると外道丸は「…じゃあ離婚なんてしなくて良かったんじゃ…」と少し下を向いた私の顔を覗き込むように首をかしげた
その問いに私は苦笑いを向けた
「いいえ。離婚すべきだったわよ。…だからお兄様を恨むことなんてないの」
何をされるにしても最後はすべて自分の意思なのだから
それにあの人はきっと分かってた
私がしぶしぶ結婚したことも
私達の中に愛がないことも
だから、これが正しいのだ
愛の無い二人に夫婦なんて鎖はいらないのだ
「クリステル、様」
「…あんまりしんみりするのは好きじゃないな…この話はこれで終わり」
───それでいいんですござんすか、と外道丸が本当に小さな声で呟いた気がして、「おわりよ」とまるで自分に言いかけるように呟いた
「さ、おかしでも食べない?」
立ち上がり、外道丸に言いかけると外道丸は少しだけ悲しそうな顔をしていたが吹っ切れたように微笑んだ
「──…はい、クリステル様」
これで、おしまい。
ただ言えるとすれば、本当は『愛』が芽生えかけていたのかもしれない
・道満×結野アナ
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