踊り狂え
「土方くん、いつまで寝てんだコラ。お前の分のプリントを回収しなきゃいけないんだよ」
明るく、尚且つドスを利かせた声で土方の机の前に立つクラス委員長、志村妙は笑顔を作りつつも苛立ちが隠せないご様子。
教師に授業後にプリントを回収して職員室に届けてくれと頼まれ、妙はその回収をしていたのだ。もちろんすぐ終わるはずのことだ。
しかし、その予想は外れ、今に至る。
等の土方は未だに起きようとしない。このまま回収しないでおこうか、と頭に過るがそれはそれで嫌な気持ちになる。
お妙は小さくため息を吐いて、「起きろや!」と机を少し強く蹴った。
すると土方は不機嫌そうに起き、「ん、」と声を漏らしながら目を擦る。どうやらまだ寝起きで意識がハッキリしてないようなその行動に妙は不覚にも少し顔を緩めた。
───かわいいじゃない
「さっきの授業で使ったプリント、回収しなきゃいけないから」
「あ、…はいよ」
渡されたプリントを「どーも」と一言言って受け取る。
その際にお互いの指が触れ、妙はビクッと体を強ばらせた。対する土方は未だに眠そうな目をして欠伸をする。
妙はその様子に何だか腹が立ち机から出ている土方の足を踏んだ。
「った…何すんだ」
「べ、つ、にっ!」
「はあ?」
そっぽ向いた妙に土方は何なんだよ、と言葉を溢して机にうつ伏せになる。
妙はその様子をちらりと眺め、もう…、としかめっ面をした。
──私だけ意識して、バカみたい
もちろんのこと土方は妙の感情を知らない。妙の方もそれを言葉に出すことはなかなかしないでいた。
それは、告白をするのを恐れているのも一つの理由だが、もう一つの理由があった。
「ミツバさん、大丈夫!?」
クラスの女子の心配そうな声が教室に響き、目を向ける。
女子や男子の群れの真ん中に彼女、ミツバが座り込んでいた。
彼女は栗色の髪に白い肌、と言った美人で優しい女の子。そして病弱なのだ。
妙は、大丈夫だろうか、と野次馬の一人になろうとするも、やめた。
気が付けば先程寝ていた土方の席は空っぽ。ミツバの方に駆け寄っていたのは紛れもない土方自身だった。
いつもそうだ。
ミツバのことに対してはやることが早く、彼女の体調不良には必ず彼が付き添う。
それを何故なのか、聞いてみたところ「幼馴染みだし、放っとけない」と土方は愛おしそうに言っていたのを覚えている。
それは明らかに友情とは違うことは一目瞭然だった。
──だってあの目は、私が貴方を見ている目とそっくりだもの
妙は、自分の背後にいる土方とミツバに苛立ちを覚え、下唇を噛んだ。
「十四郎さん…大丈夫、心配しないで」
「ホントかよ」
「ほ、本当っ!…いつもありがとう。友達として、とても嬉しいわ」
それだけ聞いて妙は廊下に出た。土方の顔を見なくても分かる。
どうせ顔を少し歪めて苦笑い。私と一緒だろう。
だからだろうか…大好きな彼が傷ついている様子が嬉しいと思ってしまうのは
妙は陽気な足取りで職員室に向かった。
踊り狂え
どうせ報われないのだから
・妙→土→ミツ 学パロ
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