他人は他人
「は、お見合い?」
歌舞伎町の見回りの仕事をしてる真っ最中に土方は携帯電話で話している
「副長?」
土方と一緒にパトロールしている山崎が首をかしげて土方を眺めると土方はどうやらあせっているようだ
土方が普段使わない多少の敬語から相手は自分より目上の人のようだ
「悪いが俺には一応彼女…ハア!?もう決定しちゃってる!?おいおいとっつあん……!?明日!?さすがに急すぎだろ!」
どうやら相手はとっつあんこと松平片栗虎のようだ
何やら明日に迫ったお見合いを勝手に決められ相手の顔さえも知らずにお見合いすることになるようだ
かわいそうに、山崎はそう心の中で呟く
副長には沖田隊長の姉、ミツバさんがいるというのに
果たして副長はどうするんだろうか
山崎はその日のほとんどをそのことについて考えていたのだった───
お見合い当日───
土方は松平と共に相手より早くお見合い会場に着いていた
「…とっつあん、せめて写真見せろ」
「いや、ここまで来たら本人見ればいいだろ?大丈夫、美人な黒髪だよ。トシと釣り合うほど素敵な女だから」
「…」
んなこと言われてもなあ…
するとどうやら相手方が来たようでとっつあんが立ち上がる
「すいません、お待たせしちゃいました?…ほら、お妙!」
お妙…?
なんか聞いたことあるような名前だな…
「…志村妙と言います。」
…
…
…んん!?
目線を彼女に合わせるとうっすら苦笑いをしている黒髪美人のポニーテール───そう、近藤の想い人である志村妙が立っていた
土方が呆然と立ち尽くしていると妙も相手のことに気づいたのか、驚きの表情を浮かべていた
「ひ、土方さん!?」
「…やっぱ、お妙さんか…」
「何、二人とも知り合い?じゃあ丁度いい。あとは若い者たちに任せるとするわ。じゃあな、トシ」
「ってオイ!!もう二人きりにすんの!?」
「だって知り合いじゃん」
「……………分かったよ」
ジロリと睨まれ渋々了解するととっつあんは土方に背を向け「じゃあな」と手を振っていった
どうせキャバクラだろうな…いいのかアレが上司で、と土方は小さくため息を吐く
「…えーと…土方さん」
「…はい」
「とりあえず…散歩でも…?」
お妙の提案により、二人で庭を散歩することになるのだった
それにしても、とお妙は小さくしかめっ面をする
実はお妙も土方同様のお見合いの誘われ方をされていたのだ
昨日「そろそろ恋人とかいると思って」と友達に言われ、相手の写真を見ることなく今日になってしまったのだ
ていうか、私にも一応恋人がいるんですけど
確かに友達にそこまで口外したことはないので知ってる人だってごく少人数
この際恋人がいると言って断れば良かったのだろうが、もう何週も前に決定されていたと言われてしまえば相手に申し訳無い
仕方なくお見合い会場に足を運んだのだ
「まさか土方さんが相手だなんてね」
「いきなり顔さえも知らないままお見合いさせられたんだよ」
「私と同じですね」
ふふ、とお妙は土方に笑顔を向ける
不意打ちじゃないか、と土方はお妙から目を背ける
お妙の見せた笑顔がミツバとだぶったのだ
あの優しくて穏やかな笑顔が…
土方は頭でそれを理解した瞬時、顔が熱くなるのを自分でも理解した
「土方さん?」
「…何でもねえ。」
「?おかしな人…」
…
……
………会話が終わってしまった、と気まずさが二人を包む
一番辛いパターンだ
何か話題はないかと土方はうーんと頭を抱える
もちろん、お妙も気まずさから抜け出したいがため、話題を作ろうと頭をフル回転させる
「あ、ねえ土方さ──…きゃあ!?」
「!」
お妙は、ようやく話題を考え付き土方に話しかけようとした時、小石に足をとられつまづいてしまったのだ
盛大に転ける、そうわかってお妙はギュッと目を瞑る
ドサッという音が耳に響く
だがお妙に痛みは感じられなかった
代わりに少し温かく、とびきり柔らかくも堅くもない、そんな何かに包まれていた
「!土方、さん…」
お妙が恐る恐る目を開ければ自分の下に土方の顔がある
そこで自分を包んでいたのは土方だったと気づき、驚きと心配の表情になる
「お前、勢いよすぎ。俺まで倒れるたぁな」
土方は「よっと、」と上半身を起こし、いまだ自分の上に乗っているお妙の頭をぽん、と撫でる
「怪我は?」
「ない、です」
「そうか…良かった」
「!」
不覚にもドキリと心臓が跳ね上がる
さりげない優しさや自分より相手を思うその気持ちが自分の恋人───銀時に似ていて──…
「?お妙、さん?どうかしたか?」
「えっ!?あ、ごめんなさい、考え事しちゃって…あ、今退きます」
お妙はすいません、と謝りながら立ち上がる
土方もそれに倣って立ち上がり下を向いているお妙の顔を覗き込む
「なあ、やっぱり怪我とかしたんじゃ…」
「違います。そうじゃなくて…」
かああ、と顔を赤く染めるお妙を見て土方もそれが移ったのか顔を赤らめる
「あーその、なんだ…何か食べる?」
「え…?」
「お見合いはとりあえずお開きっていうか…もともと俺らのなかじゃ始まりもしてねーけど」
「そうですね」
「じゃ、喫茶店でも入るか。奢るから」
「…」
「お妙さん?」
「!…あ、いえ…」
銀さんの口からは奢る、なんて言葉は出ないなあ
だってあの人、万年金欠だもの
出てきたら奇跡だわ
やっぱりこの人と銀さんは別人だわ
ていうか本当、どこが好きなのかしら
…でもやっぱり、銀さんのことが好きなんだろうなあ
言葉や理屈じゃ言い表せないけど、
とりあえず言えるとしたら、どんなに銀さんに似ている土方さんでも私には駄目なんだ
銀さんじゃなくちゃ、駄目
お妙はそんなことをふわふわ考えながらクスリと笑う
「何だァ?いきなり笑って」
「いえ、どこか値段が高くて美味しい喫茶店あったかしらって」
「むしり取る気か!?!?」
さらりと言ってのけるお妙にツッコミを入れ、タバコを取りだし火を着ける
ああ、やっぱ違うわ
あの柔らかな笑顔や少し抜けていたりときどき表す気遣いはすごく似ていた
前々から根っこはミツバと同じとは思っていたけれど
もちろん、予想通りだったけれど
「違うよなァ」
「?何がです?」
「普通奢るって言われたら安い物を考えるだろ」
土方はそう言ってフー、と煙を吐く
お妙はクスッと笑みをこぼし、「さて、どこにいきましょうね」とすでに決められているであろう喫茶店へと歩き出した
他人は他人
だって、やっぱり違う人
・銀妙土ミツ前提でひょんなことから土方と妙がお見合い!?で、お互いの想い人に似てる見合い相手を見て改めて自分の想いを自覚する
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