不満距離感カウントダウン
ドタバタと助走をつけた足音が背後から聞こえる
足音は次第に大きくなり、それが誰なのか、予想がついてきた
「陸奥〜!好きじゃー!!」
「何じゃ…うわっ!」
後ろを振り向けばガバッと抱き締められた
身長差もあってか頭から全部包まれてしまい正直…苦しい
「死ね」
そう言ってガッとふぐりに蹴りを入れる
頭は「おおお…」とうずくまった
当然の報いだ、と小さく鼻で笑ってやる
「全く…変なことしとる暇あるなら仕事しろバカ頭」
「変なことって…わしはただおんしに愛の告白を…」
半泣き状態で自分を見上げてくる頭
多少の罪悪感があったりなかったり
けど謝る理由は見つからないしそんな気もないので踵を返して頭とは反対方向に歩みを進めた
こんな時、「ごめんね」とか、実は嬉しい感情とか…そんなかわいいことを表現できない自分に嫌になる
本当は抱きつかれるのも嫌ではない…むしろ温かくて側に頭がいるって分かると落ち着くし癒される
少し歩いてから今日はなぜか頭が気になってチラと後ろを向けば、丁度ため息をつきながら立ち上がる頭の姿があった
なんとも浮かない表情の頭を見たのは初めてだ
振り向かなければ良かったのに
振り向かなければこの心臓が締め付けられる感覚なんて知らずにいられたのに
頭はいつもあんな顔をしていたのだろうか
頭の言う愛の告白を軽くあしらっていたからだろうか
だってあんなの冗談にしか聞こえないじゃないか
それに本当は怖いんだ
この関係が崩れるのに、まだ私には度胸がない
気づけば足の向きは逆方向
頭の真正面で立っていた
「陸奥?」
自分の名前を呼んだ声はいつもの陽気で優しくて何故か落ち着く頭の声
何か
言いたいんだ
でも何を言えばいいのか分からない
プライドと性格が邪魔してかわいいことなんて言えないから
ぐっと口をキツく結ぶ
するとぽん、と頭を撫でられた
「よく分からんけ…けど大丈夫じゃき。そんな苦しそうな顔ば見せるな」
こっちが嫌な気分になる、と呟かれた
「あ、…頭っ…」
「仕事ばしてくるけ」
頭にあった大きくて優しい手がふわりと離れた
同時に頭は私の横を通りすぎる
何故かそれが寂しくなって
「頭ァ!」
つい大きな声を出して頭を呼んだ
頭はビクッと肩を震わせて此方を向き「?」を頭に浮かべていた
何してんだ?
何か言いたいことなんてあったのだろうか
体が勝手に動いた、と言うのはこれか
一人納得して何を言おうか焦る
「陸奥?」
待っている
何かを発しないと…
何か…
「お…」
「お?」
「おまんのこと…は、その…」
「??」
「おまんのこと…別に…嫌うとうない、から!」
我ながらかわいくないなぁ…
頭と目を合わせるのが何だか恥ずかしくなって視線を外した
「…陸奥」
「すまん…」
まだこの関係を壊すには度胸がない
言わなくても伝わったのか頭を見ると「そうか」と笑っていた
「分かったきに。陸奥がそこまで言ってくれただけで」
「頭…」
「けど、わしはいつものごとくアタックするけ」
覚悟しろ、と言わんばかりの表情を向けられいつもの頭が現れたと変な安心感と上から目線によって負けた気がしたので少し離れたところにいる頭に「仕事しろ、バカ頭」と罵倒してやった
不満距離感カウントダウン
この立ち位置を不満に思うのはあと―…
・そっけない陸奥にとうとう自信を無くす坂本に焦った陸奥が不器用ながら「おまんのこと嫌うとらん」みたいなツンデレ発揮
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