一度目の逢瀬は二度目を恋しく
「桂!桂は何処だァ!!」
深夜の街には水色と白の着物を羽織った新撰組が怒鳴り声をあげ、灯りを煌々とつけて騒ぎ立てていた
「…全く…見つからないように逃げなさいよ」
部屋の電気を消した2階の窓から下を見下ろしながら後ろにいる桂小太郎に声をかける
「あれ、副長さん?随分な男前じゃない」
「顔が良ければいいのか?」
「そんなこと言った訳じゃないわ」
機嫌を害したのか桂はむ、と仏頂面をしていた
「ていうか、始めに見つかったのは一人か二人じゃないの?」
「そうだが?」
「斬れば良かったじゃないの」
桂は「は?」とぽかんと口を開けてしばらく目をぱちくりさせていた
そしてくっくっ、と堪えるように笑っていた
何がおかしいんだ、と首をかしげると「いや、」と一言
「君はいきなり物騒なことを言うね」
芸妓さんってもう少し大人しい人かと思っていたよ、と溢す桂
「…攘夷志士がヘタレとは思わなかったわ」
「ヘタレって…斬り合いは好きじゃないからな。予感がしたら逃げ隠れている。だから俺は今までも誰かを斬ったことはない!!」
「攘夷志士が偉そうに言う台詞?卑怯って言うんじゃない?」
「岩陰軍曹と言ってくれ」
「はいはい…ところでいつから追われてんの?」
服がずいぶんと汚れてるあたりかなり駆け回っていたのだろうかと思う
「正午からだな」
「まあまあ大変ね」
「うむ。だから…」
ぐう…とお腹の音がなる
「…私じゃないわよ?」
「分かってる。俺だ。」
改めてお腹が空いたと把握すると余計に空腹感が漂うようでまたもお腹の音が響く
「…幾松」
「はいはいっ!なんとなく来ることは分かってたからね…」
後ろにいる桂に近づき「手」と一言告げる
桂は両手を差し出した
真っ暗な中で、しっかり見えてるわけではないがうっすらと分かった桂の両手に包みを渡す
「…開けて食べなさいよ」
「あ、りがとう…」
「ただの握り飯しかないからね」
豪勢なものと思われてガッカリされるのは心外だからあらかじめ言う
しかし桂は特にガッカリせず、むしろ喜んでいるようだった
「幾松殿が作ってくれたのが嬉しいよ」
「別に…余り物だから」
「幾松殿が作ってくれたのは否定しないのだな」
一つ上手だった桂に完全に負け照れ隠しに「うるさい」と呟いた
電気をつけていなかったので顔を見られることが無いのが唯一の救いだ
「確信できてよかった」
「?何が?」
「橋の下に隠れていたときに持ってきてくれてた握り飯も幾松殿の手作りだったのだな」
「…」
「毎回、一年の賞味期限切れだとか半年前の売れ残り、ゴミ箱にあったと渡してくるから結構ビクビクしてたのだぞ」
「そりゃ失礼したわ」
いつだって清々しく爽やかな顔つきで握り飯を受け取っているのしか見ていないからそう考えていたことには驚いた
案外小心者かも、と次言うときはあまりふたんをかけさせないような言葉を選ぼうと反省した
「ごちそうさま」
新撰組の騒音がなくなったとほぼ同時に桂がそう呟いた
「ようやく行ってくれたか幕府の犬が…」
「探すのを諦めたのかしら…?」
「明日また新撰組がここに来るケースは高いな」
「…しばらく会えなくなるね」
どこか寂しさを覚える
桂は身支度をして私に近づいてきたのが分かった
暗くてはっきり映らなかった顔が今の私たちはしっかりと見えるほど近くにいた
「また…来る」
「…握り飯用意して待っててあげるわ」
それを聞いた桂はふ、と微笑んで反対側の扉を開いて部屋から出ていった
一度目の逢瀬は二度目を恋しく
次会うのはいつになるのか…
・桂幾 史実パロ
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