癖になりそう
「どうしよう…」
手に持っている所謂ラブレターを眺めてため息を吐く
いつもなら「彼氏がいるから」と言いたいところだけれど…
「神楽ー」
そんなことを考えていると後ろから声がかかる
「!なっ何アルか!?」
「なんだ今後ろに隠したのは」
「なんでもないアルよ」
担任兼私の彼氏はなんとも納得のいかない顔をして
「放課後、国語準備室な」
とのこと
…なんでそんなに自然なんだよ
私はついさっき見てしまったんだよ
図書室のカーテンからこぼれる光をバックに先生と月詠先生が抱き合っていたのを
なんで抱き合っていたの?
私に飽きてしまったの?
そんなことを考えて不安が頭の中を駆け巡っていた
けれどさっきの自然な態度…
正直、不安は消えた
むしろ怒りが沸々と沸き上がる
彼女とは違う女と抱き合っていたくせに
もういいや
放課後、国語準備室に行って別れればいいんだ!
そうすればこんな気持ち、忘れられる
そしてこのラブレターの人と付き合おう
半ばやけになってそう意気込んで今日最後の授業を迎えた
授業が終わり、挨拶をした後、先生が教室から出ていく
国語準備室に向かったのだろう
私も後を追おうとしたが
「あのっ神楽さん」
80%の確率で多分ラブレターの人だと確信する
私は時々こういうのをすっぽかすことがある
主に先生に止められるか、本気で自分が忘れているかのどちらかで
だからそれを見越した上で私を呼び止めたのだろう
「あの…返事を聞かせてくれませんか…?」
「えっ」
今ここで!?
廊下を歩くたくさんの生徒がチラチラ見てくるのがわかった
「…」
なんで私は黙っているんだ
さっき決めただろう
先生と別れてこの人と付き合うって
「神楽さん…」
「あ…私は」
「失礼しますヨー…!?」
2回ほどノックしてガラリと国語準備室の扉を開ける
すると目の前に飛び込んできたのは先生
正式には近すぎて目の前には先生の胸板
何やら今からどこかに行こうとしていたらしい
月詠先生のところにでも行くのだろうか
「…遅すぎ」
「は?」
確かに少しだけ時間をかけてしまったがたかが15分程度じゃないか
そもそも私はここに来ることを了承していないのに
「…で、何アルか」
「…告白、どうしたんだ」
知ってたんだ…
「…関係ないアル」
「関係あるだろ」
「どうし―…」
中途半端なところで先生の唇によって封鎖された
「…」
「…何怒ってんの」
「…」
「黙ってちゃわかんねーだろ」
先生はそう言うと指で私の頬に触れる
先生の指は濡れていた
どうやら私は泣いていたようだ
「…別れる」
掠れた声で先生に呟く
「…なんで」
俺のことが嫌いになった?と付け加える先生
ふるふると首を横に振る
「じゃあなんで」
「せん、せが月詠先生と抱き合ってたの、見た」
先生は「ああ、」と思い出したように返事をする
「勘違いしてるようだがあれは―…」
「え?」
どうやら先生の言い分はこうだ
図書室で本を取ろうとしていた月詠先生だが高さがあってなかなか取れなかったらしい
けど、気が強い月詠先生だから無理矢理にでも本を取ろうとしてぐらつき、倒れかけたところを先生が支えたらしい
その体勢が抱き合っていたような体勢だったのだろう
「なっ…嘘アル!」
「嘘じゃねーよ」
だってそれじゃあ私はただ勘違いして妬きもち妬いただけじゃないか
「妬きもち妬かれたのは嬉しかったけどまさか別れるなんて言われるたあな」
そう言って先生は安堵したようなため息をついて私を抱きしめる
「…でもだって…勘違いさせるような体勢をしていた方が悪いアル」
「ああ、そうだな」
笑いながらごめん、と謝る先生
なんだか負けた気がしてムッとする
だから仕返しに先生の頬にキスをする
先生は目が点だ
「…もう勘違いさせるなヨ」
「ん、気を付ける。神楽ちゃんてば積極的〜」
「なっうるさいネ!」
「じゃあ仲直りのちゅー、しちゃう?」
「いいおっさんがちゅーとかキモいんだヨ」
そんな憎まれ口を叩きながらも先生の首に腕をかける
そしてちゅっと言うリップ音と同時に唇を離す
「…甘いアル」
「さっきチョコ食べながら待ってたもんな…」
そしてもう一度
今度は少し深く
癖になりそう
糖分よりも甘くて好きかも
私も嫌いな訳じゃないネ
おまけ↓
「ところで神楽」
抱きしめられながら先生に耳元で声かけられる
「何アルか?」
「告白、どうしたの?」
「ああ」と返事をうつ
「断ったアルよ」
どうやら先生はほっとしたようにため息を吐いて私を強く抱きしめる
「…よかった…」
「…私はあなたよりも大好きな人がいるから、どうやっても貴方の思いは私の奥に届くことはないよって言ったアル」
先生は「マジでか」と呟いてさらに私を強く抱きしめる
きっと先生は照れているんだろう
「先生、大好き」
「…バーカ、俺の方が愛してる」
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