水色の着物
「銀さんは、優しいわ」
「土方くんみたいに?」
「…そんなこと言ってないわ?思うのは勝手だけどね」
目の前にいる沖田くんの姉、ミツバはそう悪戯に笑っている
ここは歌舞伎町の繁華街
いつものごとく人はたくさんで
今は沖田くんと屯所に住んでいるミツバを、単に気まぐれで「散歩でも、」と誘ってみればこの通りだ
「銀さん、ちょっと着物選んでもらっていいですか?」
ミツバはそう言って淡い水色の着物とピンクの着物を見せてきた
ミツバは笑顔で返答を待っていた
どうせ土方くんに見せるためだろう
俺も正直ミツバのことを好いていると言うのに…
土方くんより先に出会っていたら何か違っていたのだろうか、とよく考えてしまうほどだ
「土方くんの好みは知らないからね」
嫌みったらしくミツバにいうとミツバは苦笑いをして「だから十四郎さんは関係ないって…」と呟いた
「もう…銀さんはどうして私を散歩に誘ってくれたんですか?」
「それは…」
ただ会いたくて
咄嗟に出そうになった言葉は音になることなく俺自身に飲み込まれた
いきなり何を言おうとしてるんだ俺は
今も尚言葉の続きを気になっているのかミツバは笑顔で真っ直ぐと俺を見る
……。
「!?」
ミツバの額を人差し指で軽く押す
そして「内緒」と一言
「〜〜…銀さっ」
「そっちの水色の着物」
「え?」
「着物、俺が選んでいいんだろ?だから水色の着物がいい」
お前に似合ってるから、と付け足す
ミツバははじめはキョトン、としてたもののそれを聞いてか少し顔を赤に染めて「もう…」と俯いた
何か気に障った?と聞いてみれば「いいえ、」と返された
「誉め言葉が嬉しかっただけ。ありがとうございます銀さん」
ミツバはふふっ、とはにかむと水色の着物を持ってレジに向かった
一方の俺はといえばその笑顔があんまりにも綺麗で可愛くて呆然と見とれてしまった
はっ、と我に返ってレジにいるミツバを追う
ミツバは丁度会計をしているとこだった
「…俺が払うから」
財布を取り出していたミツバを止めて自分の財布を取り出す
ミツバは「えっ、でも」と焦っていたがお構い無しだ
多少の痛手は構わない
そう思えるのはこいつだからだろう
支払いを終えて、着物の入った紙袋をミツバに渡すと「ありがとうございます」と大事そうに抱えた
「そんな大事そうに抱えんなよ。そこまで高くなかったし…もしかしたらお前の今来てる着物より安いんじゃね?」
「それはわからないけど…値段じゃないわ。銀さんからもらえたことが嬉しいのよ」
「…そりゃ、どーも…」
「あ、照れて」
「ません。顔も背けてないかんね!?寝違えたの!」
ミツバはくすくす、と笑っていた
「面白い人ね」
ある意味でプチデートの時間は呆気なく終わり、真選組屯所に着く
辺りは赤く染まっていた
「送ってくださってありがとう。楽しかったわ」
「俺もだ…ありがとな」
「では、また」とミツバは屯所に足を踏み入れた
「ミツバ!」
背中を向けていたミツバが振り返る
それは驚いた表情で
「…また、誘っていいか?」
ミツバは一息置くと優しい笑顔を浮かべた
「もちろんです。楽しみにしてます!!」
つられて俺も笑顔になって「じゃあ、またな」と一言返した
水色の着物
姉上、その着物は?
銀さんから…もらったの
何か旦那と似たような色合いでさァね
あら、ホントだわ
(…別にそんなこと旦那も考えてた訳じゃないだろーけど一応旦那も要注意人物だな…)
・銀→←ミツ
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