春はすぐそこ
「頭ばどこ行った?」
「むっ陸奥さん!坂本さんならおりょうちゃんに会いに行くと―…」
陸奥を目の前に固まっていた下っぱの男はそこまで言うとさらに固まり、さああ…と血の気を引く
何故なら目の前の陸奥の殺気が痛いほど分かったからだ
「あいつ…仕事ばサボって…ふぐり蹴飛ばさなあかんぜよ」
「ち、地球に行きますか…?」
「当たり前ぜよ」
そうして陸奥は地球に向かうのだった―…
「おっりょうちゃあぁ―…」
「はああぁ!!!!」
坂本はおりょうにダイブし抱き締めようとするが、おりょうのお妙直伝の対処法の一つのアッパーにより、坂本は倒れる
「やるじゃない、おりょう」
「ありがと、お妙」
そう二人で坂本を見下ろすと坂本はムクリと起き出す
そしてまたもおりょうに抱きつこうとする
「まだまだぜよ!おりょうちゃあ…」
カチリ
なんだこの嫌な音は、と坂本は頭の後ろからの音に集中する
振り向かなくても分かったようで
「…む、陸奥…?」
「正解じゃき。死ね」
「ちょっ、ちょっと待つきに!」
ぐるりと陸奥の方を向き、急いでピストルを奪う
「チッ…冗談じゃき」
「今、舌打ちの音が聞こえたぜよ」
いつもどおりのポーカーフェイスにやや殺気が交じりあう
「仕事の部下と更に店の女ば困らせるのは止めとおせ」
「はい」
陸奥にものすごい勢いで凄まれ、青ざめる坂本
陸奥は顎で店を出るように指示すると坂本は素直に店を出た
「営業妨害をして悪かったぜよ、これでチャラにしてくれとおせ」
店のボーイに多額のお金を渡す
「こんな大金…」
「どうせあのくるくるパーの使い道のない金じゃき。心配せんでもよか」
まだ悩んでいるようだったので返される前に陸奥は店を出た
「陸奥…怒っとるか?」
キャバクラすまいるから少し歩いてから坂本は苦笑いしながら陸奥を覗き込む
「仕事ほっぽってキャバクラに行ってることなんて気にしてないし、怒ってないきに。」
いや、怒ってんじゃん
坂本はその言葉を飲み込んだ
「どうせ行くなら仕事が終わってからにしてほしいもんじゃき」
「陸奥はどうして俺がこんなことしてるか分かってないき」
陸奥はハ?と隣にいる坂本を見る
「おりょうちゃんに会いに行くためじゃなか?」
「違うぜよ。陸奥―」
坂本に不意に引き寄せられ、胸板に顔を押し付ける体勢になる
「陸奥に気にかけてもらいたかったからじゃき」
「!?」
「好きな女に自分の事ばかり考えてもらいたかったからじゃき」
遠回しではなくはっきりと
『好きな女』
陸奥は顔を胸板に押し付けられていて良かった、と思う
今の自分の顔はいつものポーカーフェイスが崩れて赤くなっているだろうから
「…頭…」
「…何じゃき」
よくよく考えればここは公衆の面前
「はなせ!」
ぐぐっと坂本の胸板を押すが、坂本に引き寄せられる
「頭!?」
「駄目きに。今、わしの顔を陸奥に見られるわけにはいかんぜよ」
その言いぐさからどうやら坂本も赤面の様子
陸奥はその様子が何故だか同じ心境のようで嬉しくなる
病気なのだろうか
さっきから心臓の音が鳴り止まない
春はすぐそこ
頭ァ…さすがにそろそろ退くきに
まだだめじゃき…
…退けエェ!!
ぐふあっちょっ、ふぐりモロ…
※真面目に陸奥さんと接する坂本さんを(真剣告白など)
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