足りない
「十四郎さん」
「ん?」
「お仕事…大変ですね…」
彼は真選組の副長だからやっぱり仕事の量は多い
そんなことはわかってる
分かっているし、困らせちゃいけないのも重々承知
けれど構ってほしいと思う自分がいる
仕事の邪魔をして話しかけるなんて迷惑この上ないのに反省しない私がいる
「…終わった」
「はやいですね」
でも本当は終わってないでしょう?
だってまだ机の上にたくさんの書類…とそちらに目を向ける
「…ああ、そっちはまた後で。今からは休憩」
だから気にすんな、と時々見せる笑顔で言うものだからついつい目を背ける
「ミツバ」
「なんですか?」
「こっち来い」
振り向きざまに、そう言われ私は十四郎さんの足の間に割って入って、十四郎さんに後ろから抱き締められる形になる
「…好きだよ」
「!?何ですか、いきなり…」
耳元で囁かれ顔から火が出そうになる
そんな中パニックになっている私を十四郎さんが笑うので少しムッとすると頬をつままれる
「怒んなバーカ」
「…なんかいつもの十四郎さんじゃないみたい」
いつもよりドキドキさせられている気がしてたまらない
「十四郎さん」
「ん?」
「す…す…」
仕返そうと思ったが何せ顔が近く改めて言うのは照れる
「す?」
聞き直され尚更恥ずかしくなる
「す…す…す、ごく近いです」
すると十四郎さんは笑いを堪えている
そして十四郎さんの手が頬に触れる
「熱い」
「ーっ」
カーッと顔が赤くなったのが自分でわかった
そして引き寄せられふわりと唇を重ねる
「…っは…」
ようやく唇が離れる
「お前って、息止めてるよな〜」
「っ…し、指摘しないでくださいっ!」
まだ酸欠で少しぼーっとしてしまう
「だから怒んなって」
そう言って額にキスをされる
「さて、と…仕事すっかな」
あ、私、邪魔だ
十四郎さんは私を足に挟んでいるのだから
…どかなくちゃ
でも、それは惜しいと思う自分がいた
「…ない」
「?何か言ったか?」
「足りない、です」
そう、足りないの
まだ少し意識はもうろうとしていてもそう思ってしまうの
もっと、もっと
「今のキスだけじゃ足りないの」
それだけじゃ満たされない
どこか満足できないの
いつから欲張りになってしまったんだろう
それは意識が定まってきても思うことで
「…十四郎さん」
これ以上いたらおかしくなってしまいそう
変なこといってごめんなさい、と謝ってそそくさと部屋から出る
どこか満たされない心のまま―――
足りない
…アイツは誘ってんのか!?仕事に集中できねえ!!
×