大丈夫、問題ない
「おねーちゃんっ!もう朝ですよ?」
おねーちゃん…?
ぼやけた視界に見えたのは隊服を着た総悟だった。
総悟は優しげな声と穏やかな表情で此方を向いていた。只でさえ俺のことを嫌っている総悟がこんな顔を見せるとは…。いつものSっ気がある表情は全く感じさせない彼に嬉しさより不気味な感情が押し寄せた。
「まだ寝てるんですかィ?俺の方が先に起きるなんて…体調でも崩しやしたか…?」
未だぼうっとしていた俺に総悟は心配そうに見つめてきた。
よく分からないが体調の有無を知らせるべく声を出す。
「いや、大丈夫……ん?」
「そうですか。でも、体調が悪いなら言ってくださいね」
「あ、ちょっ…えー…っと…」
「?」
おかしい。おかしいぞ…?
ここには俺と総悟しかいない、筈。なのに何故ミツバの声が…ていうかどうしてミツバが俺の言葉を代弁してる…。いや、もうなんか分かった。
何で俺がミツバになっている…?
起き上がり、すぐ目に入ったのは白く細い腕に指。頬に当たる髪の毛…
体を触るのには抵抗があるのでしないが、見た感じこれは……
驚きは勿論だがそれより冷や汗が伝う。
とりあえず総悟にバレるのは色々厄介だ。幸い何も感づかれていない様子…。このまま総悟を追い出して俺の体──いや、ミツバと接触しなくては。
「そういえば、」
何かを思い出したような総悟の呟きに耳を傾ける。
「今日はあのヤローも起きてねぇな…」
あのヤローって俺か!
ギラリと光る総悟の瞳にいつも以上に焦りが募る。
このままだと恐らく「ちょっと土方起こしてきやす」って俺の部屋に行って俺の体に抜刀…。十中八九俺の体にはミツバがいるだろう。
これはまずい。
「ちょっと土方さん起こしてきやすね」
待てエエエェ!
口調こそ穏やかだが明らかに予想は当たっただろう。
急いで総悟の肩をつかむ。
「総…そーちゃん、私が起こしに行ってみるから、ね?お仕事に行ってきて」
そう苦笑いを向けると総悟は少し不機嫌な顔をしたが、「分かりやした」と大人しく従った。
流石ミツバ。
改めてミツバの強さに感心しつつ自室へ足を急がせる。
───…
ガラッと勢いよく部屋に入る。
躊躇なんてしている暇はない。この部屋にいなかったら非常に厄介だ。
「あ…」
「良かった…いたか…。」
俺の体…否、ミツバは苦笑いで座っていた。
とりあえず居ることにホッと胸を撫で下ろすが、この現状に頭を悩ませた。
「えーと…なんでこんなことになっているのかしら、ね…」
「うん…。俺も聞きたかった」
昨日はこれと言って何もしていない。
昨日は、っていうか別に何もしたことはまだ一切無いが…。
「お前、昨日何かした?」
「いえ…。…あっ!」
「何だ!?」
「そういえば昨日、神楽ちゃんから美味しいお菓子もらったんですよ。後で十四郎さんもいかが?」
「今なの?それ、今言うことなの?貰うけども」
真の抜けた会話に緊迫感がほどける。
はりつめた空気を和やかにさせるコイツはやはりただ者ではない。
俺の体なのに中身が違えばこうも違うのかと思うほどに、纏う雰囲気は優しかった。
逆に、今俺がいるミツバの体はきっとはりつめた堅苦しい雰囲気なのだろう。
「ええっと…私の部屋、行きましょうか。お菓子食べながら考えましょう」
「あ、おう…」
スッと流れるように、そして足早に歩くミツバの後を追うようについていく。
ミツバの部屋にて出されたお菓子はどこかの天人の物だろう。地球産ではないその不思議だが美味しい味に少々病み付きになる。
「なんで万事屋ん所のチャイナ娘から?」
「昨日お買い物の時に会ったの。何か福引きの当たりを引いたらしくてね」
それがこのお菓子で、チャイナ娘には要らないものだったのだろう。と容易に考えることができた。
「…で、別にそんな気はなかったんだけど酢昆布と交換しようって話になって……あ、あーっ!」
「?な、なんだ?」
さも今思い出したことがあったのか、声をあげるミツバに目を瞬きする。
ミツバは「分かった、かも」と苦笑いした。
福引きには続きがあり、チャイナ娘はお菓子と不思議な飴玉をくれたらしい。その飴玉もまた天人産で、「口に含みながら思った願いを一日叶えてくれる」というちょっと嬉しい飴玉。(余談だが大分値の張る物である)効果はお願い事をした次の日の一日間。
「で、入れ替わりをお願いした訳か」
「ご…ごめんなさい。ただ純粋に十四郎さんと変わってみたいって思ってみただけで…あんまり信じてなかったし…。変わってみたかったのはお仕事のことだったんだけど…」
しょぼんとした顔でうなだれるミツバ(見た目は俺だが…)に逆に罪悪感を感じてしまった。
ミツバが俺と変わりたいと思ったのは仕事の事で、きっと「変わりたい」ではなく「変わってあげたい」という労りの気持ちから来たものだろうとは長年見てきた女だからこそ分かる。
「いいよ、今日一日だけだしさ」
「…」
「もう吹っ切れた。いっそ楽しめばいんじゃね?今日はもう有休とってさ。
まあ、違和感はあるけど…いつも一緒に居られない分今日は一緒に居たらいいんじゃねえか?」
俺がそう笑うと項垂れていたミツバは顔を上げ、「ありがとう」とはにかんだ。
ああ、いいじゃねえか。こんな日も
大丈夫、問題ない
しっかり次の日元に戻りました。
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竜馬様に頂きましたネタを使わせていただきました。ありがとうございましたっ!
入れ替わりネタってややこしいけど面白いので好きです(笑)
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