志望動機:…
カリカリ…
ひたすら聞こえるのはシャーペンの走る音。
只今家庭教師をしているミツバの前方には教え子である土方。
まあ、「家庭教師」と言われてはいるが実際のところ、お金で雇われているわけでは無い。
彼とは幼馴染みで家族同士仲がいい。
そこで「家庭教師」をしてやってくれと言うお願いを出され、…今に至る。
言わば「勉強を見てくれる年上の幼馴染み」だ。
そして只今その「勉強を見てくれる年上の幼馴染み」は目の前で熱心に勉強をする彼に、ふう…と溜め息を漏らした。
──まあ、高校3年生だしね…
受験シーズン真っ只中の彼の様子を机に頬杖して眺める。
彼の家庭教師になったのは彼が高校2年生の春。元から真面目な顔つきではあったが今よりはまだ堅くない、砕けた感じだった。
月日が経つのは早い。
たった一年、去れど一年。
彼は成長していた。今は将来行きたい進学先に向けて前向きに勉強をし続けている。
──昔は勉強よりスポーツ大好きな所謂スポーツバカだったのに…
そんな昔の思い出を掘り返して小さく笑う。
その様子に気づいたのか、ずっと下を向いて勉強していた彼の顔が上がる。
「…いきなり何だよ…?」
「ふふっ…ごめんなさい、昔とは考えられないほどに真剣だったから」
「うっせ…」
「気に障った?」
「別に…。つーかコレ、教えてよ」
どうやら顔をあげた理由は一つではなかったようだ。
「ああ…ここはさっきやったこれを代入して…」
自分なりに分かりやすく説明してみると、毎度のことながら彼とは相性が合うらしくすぐに通じてくれた。
そしてまた冒頭に戻る。
途端に静かになる彼の部屋は至ってシンプルなデザインで辺りを見渡してもこれといった目新しいものは見つからない。
正直、退屈なのが本音だ。
別にこういう時間が嫌なわけではない。むしろ好きな方だ。
しかし、こうも長時間はりつめた空気にいるのはつまらないし苦しい。
これが受験生──…
自分自身がそれに気付くことはないが、「そういう時」は少なからず私にもあったのだろう。
「…なあ、」
「ん?」
また質問かと思い身を乗り出して彼の手元を見る。
「問題じゃなくて…ただごく個人として聞きたいことがあるんだけど…」
シャーペンを置き、真剣な眼差しで見つめてくる彼にドキッとして座り方を正す。
「どうぞ」と言うと彼は少し躊躇って口を開いた。
「あー…彼氏、いる?」
余りにも拍子抜けだった。
予想外の質問に暫し固まるが頭で理解した瞬時に顔が火照った。
「今は、いないよ…」
そういうと彼は顔を緩ませ、安堵した様子を見せる。
そう言うのは反則とは言わないか?
勘違いしてしまいそうだ。
「もう、」と下を向いて拗ねたような行動に出るとなんとなく笑われてるような雰囲気が伝わる。
「ばか…。」
「何でだよ?」
「勘違いさせるような顔、しないでよ。女たらし!」
「は?女たらしじゃねーよ」
「つーか、」と言葉を紡ぎながら彼は勉強道具をしまいだす。
気づけば勉強時間は過ぎていた。
あ、今日は夕食作らなきゃ!と自分のやることを思いだし、出していたペンケースを片付ける。
「俺が受けるとこ、知ってるよな?」
「私と同じ大学でしょ?」
前触れもなく聞いてきた彼に当たり前のように答える。
同じ大学だからこそ尚更勉強を教えているのだ。そもそもたった一人の進学先を忘れるわけがない。
「俺がそこに行く志望動機…考えろよ…」
「勉強面とか就職率が安定してるから?」
「まあ、それもだけど」
なかなか煮えきらない相槌に「何なのよ」と問いただしながら彼の部屋を出て玄関へ向かう。
「お前」
「…え?」
玄関のドアに手をかけたその時、いきなりの発言に動きが止まる。
何が?何て?
目を瞬きさせていると「だから」と荒っぽい声で言葉が発せられた。
「お前と一緒の大学が良かったの!」
「え…」
志望動機:…
つまり、告白です。
・パロで家庭教師ミツバ(大学院生一年)と高3土方
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