first kiss
彼が戦に出てからどれくらいたったろうか…
彼がいない日々は辛い
心配で心配で眠れない日だってあった
けれどようやく戦も終わったようで
「お嬢様、今日はご機嫌ですね」
付き人に言われ、顔を少し赤らめる
「…よ、ようやく戦が終わったんだもの。清々しいわ」
「そうでございましたか。私はてっきり…」
「?」
わからなくて問いただしてみれば「恋をしているのかと」と返された
「!!!?」
「どこの坊ちゃまを好いておられるのですか?」
それなりに釣り合いのとれた方のでしょう?、と決めつけられ、苦笑いをする
どちらかと言えば不釣り合い…よね…
父から反対されたらどうしようか、と少し困ったものだ
「あ、」
窓から外を見れば軍人が帰ってきていたのが分かった
急いで外に出る
春の日は暖かく、着物のせいで暑い
外にいる軍人をくまなく見たが彼はいない
「ど、して…?」
ゾクリと不安が襲った
戦死…?
嘘よ、落ち着いて私!
彼が居そうなところ…
「―…桜!」
彼と別れたあの高原を思いだし、動きにくい着物を纏って向かう
後ろから「お待ちください」と声が聞こえたが気にしない
急いで彼が居ることを信じて向かう
村から離れた高原
そよ風が柔らかく、気持ちいい
あの夜とは大違いな雰囲気
そこを見渡せば一人の軍人が、桜を眺めていた
誰か、なんて分かる
「十四郎さんっ!!」
少し声を張り上げると彼が振り向いた
服には多少血の跡と砂埃、顔にはかすり傷
「お嬢様…」
駆け寄って抱き締める
「良かった!…心配しました」
「お嬢様、服が汚れ―…」
「不安だった…本当に…」
涙ぐむ目を堪える
服を心配していた十四郎さんだったが、私が強く抱き締めれば彼も私を抱き締めた
「ただいま…ミツバ」
「お帰りなさい…」
ざあっと桜が舞い上がる
「綺麗…」
「だな…」
腕を離して距離を少し離すと「生きて帰ってきたわけだし…」と躊躇いがちに言う十四郎さん
「言わなきゃ、な…」
「ふえ……あ!」
そう言えば…生きて帰ってきたら告ってくれるとか…
途端にお互いの顔が赤くなるのが分かる
「あ、でも前に一応言ったから…別に今更…」
「!?だっダメ!…です。あれは…無効ですよ!私、覚えてません!!」
「いや、無効ですよって言ってる時点で覚えてるじゃん」
「…忘れました」
なかなか渋る十四郎さんをじっと見つめると「わあったよ!!」と赤くなった
「その、だな……ミツバ」
「は、はい」
心臓がどくどくと高まる
「す、好きだ…こんな俺でよければ…あれだ…お、おおお…お付き合いを…」
真っ赤になって話す十四郎さんをくすっと笑うと「なんだよ」と返される
「こちらこそ、…お願いします」
暫く沈黙ができて俯いていると
ヒラリと桜が頭に乗った
「…前もあったな。こんなこと」
桜に好かれてんじゃねえ?と十四郎さんは笑いながら花びらをとる
十四郎さんのとった花びらは、手を離せば柔らかい風と何処かに行ってしまった
「ありがとうございま、す…」
…近ッ!!!!!!
ふと目線を少し上げれば十四郎さんって…
近すぎるでしょ!!!?
十四郎さんも同じ気持ちなのか、赤く染まる
どうしよう…
しようと思えばキスなんて余裕なくらいの近さ
ってコレ、そういう感じなのでは…!?
え、どうしよう…
目、瞑ればいいのかな?
無になればいいのかな!?
どくどくと更に高まる心臓
破裂寸前だ
あ、でも前にされたっけ…?
確か口塞がれたような…
あのとき、私どうしてた!?
ぐるぐると頭の中をぐちゃぐちゃにしていると、向こうも一緒なのか、止まったまま
「…えと…」
「は、はいっ!?」
いきなり呼ばれて声が裏返る
「き、キスしていい、か?」
「あ、はいっ…えっと…」
ああもう!
半ば自棄になって目を瞑る
十四郎さんに肩を掴まれ、近づいてきてるのが分かった
どくどく…
音、聞こえちゃってるんじゃないかってくらい激しい高鳴り…
ふわりと十四郎さんの匂いがして
ちょっと触れたような優しいキスをされて、唇を離される
ゆっくり目を開くと当たり前だけど目の前に十四郎さん
途端にかああ、と頬を染める
「本当に…初めてって感じですね」
「前に一応したけどな」
「あれをファーストキスと言っていいんですか」
ある意味、無理チューですよ、と注意すると十四郎さんは黙る
「…今日からたくさん、新しい思い出作ろうぜ」
彼が微笑む顔がとっても優しくて私も頷いて微笑んだ
first kiss
ただよ…お前の父上に許してもらえるか?
身分なんて壊してくれるのでは?
…。
…私が何とかします。ただ…
ただ?
弟については十四郎さんが何とかして頑張ってくださいね?
?おう
※大正パロの誓いと桜の続きで、幸せな二人のウブな初チュー
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