実に不可解
太陽が傾き、室内はほんのり赤っぽいオレンジ色に染まりだす
私は椅子に座って、何をするわけでもなく地に着かない足をぶらぶらと動かす
「ほらよ」
コトッと目の前の机にマグカップが乗る
シンプルな柄
カップの中は真っ黒な液体…つまりコーヒーが入っていた
今いるこの部屋は所謂理科室だ
科学薬品や大きなビーカー、黒板には何やら暗号のように数字が並んでいる
そんな部屋には似合わないマグカップ
なのに何故あるんだって?私が無理言って置かせてもらっているのだ
「教授…」
「あ?」
「教授もマグカップ使いましょうよ。」
教授は「はあ?」と言いながらコーヒーを飲み干す
透明な、ビーカーに入ったコーヒーを
ドラマで理系教授がコーヒーをビーカーで飲んでいるのは見たことあったが、実際のそれを見ると驚きや感動も生まれる、が…
やっぱりコップで飲んでほしいものだ
「これが普通だ」
「普通はコップです」
「…コップだよ、これ」
「ビーカーでしょ」
もう、と小さく愚痴をこぼす
「教授知らないでしょ、変人って言われてるんですよ?」
「学者はみな、変人だ」
「その発言、学者の大半を敵に回したと思います」
「はいはい。…」
教授は素っ気ない返事を返してから研究に没頭し出したようで会話が終了する
つまらないなあ、なんてまだ残っているコーヒーを見ながら思う
今日は一緒に帰ろうって誘ってくれたの教授なのに…
その辺りで察してほしいが私と教授──土方十四郎は所謂恋仲だ
もちろん、周りには内緒にしなくてはならない
だからそこまで恋人らしいことをしたことはない
まあ、教授だからというのもあるが…
まったく…
教授を見ると真剣に研究に取り組んでる様子
くそう…かっこいいなあ…
「…ミツバ、見すぎ。気が散る。やめろ」
私の視線に気づいた教授は少し顔を赤くして私を見る
「…教授、私の心情察してください」
「…?」
「…私帰っちゃいますよ?」
つん、とそっぽを向いてやる
だって教授が悪いと思うもの
誘っといて待ちぼうけにさせるなんて彼氏…男としてどーなのよ
む、と頬を若干膨らます
「…ミツバ、」
「何です───…」
少し顔を上げて教授を見ると不覚にも…キス、された
唇が離れ、目をぱちくりさせながら状況を掴む
途端に顔がほんのり熱くなる
「教じゅ…ッん…」
何するんですかと聞く前にまた口を塞がれる
次は深く、少し激しく…
舌が口内を刺激する
「んんっ…ふ、…」
しん、と静まり返る室内に何とも卑猥な声がこだまして
しかもそれが自分の声で恥ずかしさが込み上げてくる
「っは…」
ようやく離された唇で少し荒く息を吸う
いきなり何するんですか、とかいって怒りたい気持ちはやまやまだが、それと同時にもう少し先に進みたい衝動が抑えきれそうにない
「顔、真っ赤」
「…だ、れのせいですか」
「俺か…じゃあ帰りますか?」
「…」
「顔赤らめて上目遣いすんな。抑えられなくなるから」
「…私、教授の家行きたい」
って言ったらどうする、と小さく付け足すと教授は驚いた表情を見せるも悪戯っ子のような笑みを見せる
「手を出さない、つもりが無いって言ったら?」
「…構わないですよ?」
にこ、と微笑み返すと手を引かれる
「…お前といると変な気持ちにさせられるよ、いつも」
「それを恋って言うんじゃないですか?」
「そうかい、なら恋ってやつは」
実に不可解
解明できるものじゃないから楽しいんじゃないですか?
※・大人の色気漂う土ミツ
・教授×学生
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