おとぎ話とは違う
「ミツバさんってお姫さまみたいね」
「え?」
放課後の教室で友達と二人で宿題をして、休憩中にいきなり言われたのが冒頭のそれだ
そうかしら、と聞けば友達は頷く
「だって、毎朝沖田くんと土方くんとその他もろもろの剣道部員を引き連れて学校に来てるじゃない」
「…まあそうだけど…。でもお姫さまって訳じゃ…」
「何言ってるのよ。イケメン男子に囲まれて登校なんてお姫さまみたいじゃない!」
羨ましい〜と騒ぐ友達
まあ悪い気分ではないけれど…
「私お姫さまって柄じゃないんだけど…」
友達はそう?と首を傾げる
「と言うかお姫さまと来たら王子様がいるわよね!」
友達はいきなり話を切り替えハイテンションになる
「おっ…王子様!?」
「その反応は!もしかしているの!?」
ギクリ
「…いな」
「いるんでしょ?」
「…」
言葉を遮られ いる、と断定される
「知らなかったわ…いつできたの?」
「…先週?」
「え!?」
そんなに最近なの!?と驚く友達にコクリと頷く
「え!?何、告られたの!?」
「ちょっ!声、大きい!!」
すぐに友達の声の大きさを指摘する
別に二人きりだから誰かに聞かれるなんてあり得ないだろうけど
もし誰かいたらと、心配になり、辺りを見回す
どうやらいないみたい
ホッと息をつく
「…で?どうなの」
「…こ、告られた…」
「!いいなぁ…で、どんな人?」
「どんなって…」
カッコ良くて、クールで、不器用で、無愛想で、でも優しくてモテ男で…
何を話したら良いか頭の中で考えていると、どんどん彼のことが浮き上がる
なんかもう切りがないくらい
どれだけ私はベタ惚れなんだ、と心の中で突っ込みを入れる
「ミツバさん?」
「えっあ、どんな人って言われると…」
「?」
「うん…と、
王子様では無いわね」
「え?」
「どちらかと言うと彼は王子様じゃなくて…」
また最後を言い終わる前に遮られる
「ミツバ」
ドキンと心臓が反応する
噂をすればなんとやら
とはこの事を意味するんだろう
「十四郎さん」
「土方くんじゃない」
「なんだ…てっきりミツバ一人で待ってんのかと」
ゼーハーと息を切らすところを見て部活後に走ってきてくれたんだろう
「もう…走って来なくたって良いのに」
そうクスクスと笑えば十四郎さんはムッと仏頂面をする
「待たせてんのに焦らずにいられっか!」
「へえ…土方くんが彼氏だったの」
ニヤニヤと笑う友達
やっぱりバレるのは少し恥ずかしいなと思いつつ照れ笑いをする
どうやら十四郎さんも照れているようだ
「お互い照れ屋さんね」
「うるせーよ。…ミツバ、帰ろうぜ」
「あ、はい」
そう返事をしながら鞄に用具を入れる
「あ…良かったら一緒に帰る?」
鞄を持って廊下に出る前に立ち止まりくるりと友達の方を向く
隣にいた十四郎さんは少し驚いたような顔つきを見せるとすぐに仏頂面に戻ってため息をつく
友達も始めは十四郎さんと同じように驚いた顔をしていたがクスクスと笑いをたてる
「遠慮するわ。邪魔者になりたくないもの」
「でも…」
「私も人を待ってるから放課後、教室に残ってるのよ」
今度はこっちが驚きだ
そんな話聞いたことない
「もしかして彼氏?」
友達は笑みをこぼすと「その話はまた今度」と言って私たちに早く帰りなさい、と言う
「…あー言ってることだし…帰るぞミツバ」
「…」
「…おいてく」
「えっ!?や、待って下さい!じゃ、じゃあまた明日ね!」
「ええ、バイバイ。」
バイバイをしっかり全部聞いたか聞かないかで十四郎さんを追う
「十四郎さん!待って下さい!」
いつもは出さない声の大きさで彼を呼べば彼はピタリと止まってこちらを向く
「…おせーよ馬鹿」
「あ、酷い」
ようやく追いつき、隣を歩く
「ん」
「え?」
十四郎さんに手を差し出され首を傾げる
「?荷物ぐらい自分で持てますよ」
そう言うと十四郎さんは小さく舌打ちをする
「確かに荷物もだけど」
しばらく十四郎さんはあー、とかうー、とか唸り続ける
「つまり!」
「!?」
急に大きな声になったので目を瞬きさせる
「手!」
「手…」
…ああ、そういうこと
「もう…手を繋ぎたいなら言ってくださいな」
笑いながら彼を見る
目を合わせない時点で真っ赤になっているのだろうと推測できた
「やっぱり十四郎さんは王子様って柄じゃないわね」
「?王子様?」
「どうやら私はお姫さまっぽいらしいの」
「辛い物好きのお姫さまなんていんのか?」
「あら酷い。」
「ま、姫っぽいのは認めるがな」
「私、姫っぽいかしら?」
そう笑うと十四郎さんも笑う
「じゃあ十四郎さんは王子様なの?」
「柄じゃねーよ。」
「そうよね。十四郎さんはどちらかと言うと…んー…」
「どちらかと言うと、何だよ」
「騎士…かしら」
「は !?騎士!?いや、んな英国的な…」
「本当は武士…な気がするけど。私が姫なら騎士なんじゃない?」
「なんだそりゃ…」
「いいじゃない。英国的なのも好きよ?」
「けどよ、姫と騎士ってどーよ。そんな恋愛話聞いたことねーぞ」
「じゃあ私たちが創ればいいんじゃない?」
そんな馬鹿なことを言うと、十四郎さんも「そうするか」と笑い、握っていた手を少し強く握られる
それに応えるように私も強く握ると目があってまた笑い合う
おとぎ話とは違う
お姫さまは
みんな優しい王子様に
恋をするけど
私が恋したのは
仏頂面の騎士様
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