乗り過ごした一人
いつも通りの朝、いつも通り起きて、着替えて、いつも乗る時間の電車に乗る。
それが俺の変わらない過ごし方だ。
だから毎週月〜金曜はかったるい。
代わり映えの無い日常。
正直飽き飽きだ。
だいだい電車通学ってもっと夢があるだろ…。
女子も男子も考えるのはハプニングで恋が生まれちゃったりー…とか。
まあ、俺はそういうことがあってほしいと願った覚えはないし、現実はそんなのは滅多に起きないことを知っている。
そう、だからこの肩に触れる暖かい温もりはそういうものではない。
「…おい」
「…すぅ…」
「起きろエセチャイナ」
偶然座ることの出来た電車の椅子、そして偶然隣に居たのはクラスメイトのエセチャイナ娘──神楽だった。
いつもなら目があったその瞬間、喧嘩勃発でそれは辺りを破壊するほど。
しかし喧嘩は起きなかった。その理由は…察しの通り、神楽が寝ているからだ。
しかも天敵である俺の肩を借りて。
あまり起こす気はないけれどとりあえず声を掛けてみた。
その結果が、ついさっきのこと。眠りから覚める気配はないらしい。
どーすっかな…。
まあ停車駅になったら起こしてやるか…。
今だ眠り続ける神楽をチラッと見る。
口は空いていて実に気持ち良さそうだ。
まじまじ見る機会なんて初めてだ。
いつも喧嘩によって近くにいるが知らないことはやっぱり多い。
睫毛が長かったり、肌は色白で綺麗な桜色の唇がよく映える。
髪も細くて艶があって…
……。
俺は変態か!?
バッと神楽から目を離し、下を向く。
誰に見られたわけでもないのに今は顔を上げられない。
おそらく今の自分の顔は自分の思っている以上に赤くなっているんだろう。
手までも熱くなっていて気持ち悪い。
「ん…」
「!?」
起きたのかと硬直した体のまま神楽を見据える。
しかし彼女はまだ眠っているようで瞼はしっかり閉ざされていた。
なんだ、とホッとしたのも束の間。彼女の柔らかそうな唇から紡がれた言葉に心臓が抉られたように痛む。
「…銀、ちゃん…」
その声は優しくて、俺に向けては到底呼んでもらえないであろう声。
呼ばれた名前は俺にとって尊敬と嫉妬に値する…絶対敵わない人。
敵わないと分かっているから余計に悔しくてギリッと歯を食いしばる。
「この…クソチャイナ…」
停車駅───
今だ深い眠りにいる神楽を沖田は起こさないように退けて、ただ一人駅を降りた。
乗り過ごした一人
今だ彼女は夢の中…
「ん……好、きアル…バカサド…むにゃ」
一体どんな夢を見ているのか…
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