選択
薄暗い路地裏
湿った空気と血の匂い
はあはあと息が上がる
「君もお侍さん?」
にこにこした奴は俺の後ろにいる神楽と同じ髪色に瞳
「何なんでィお前…」
睨みを利かせると「恐い恐い」と笑う
「そこの出来損ないのお兄ちゃんだよ」
ね、神楽 と兄を名乗る男は笑う
「ッ…総悟…逃げるアル」
血だらけの神楽が息を荒げながら言う
「お前に指図されるのはごめんでさァ…チャイナの兄貴ねェ…」
「君、神楽の恋人?やめた方がいいよ〜?何せ夜兎だもの」
傷つけられるだけだよ、とけらけら笑うソイツに刀を振りかざす
が、スッと避けられてしまった
「君に用はないから。神楽に用があるんだよ」
お兄ちゃんにはむかう妹は殺さないとね、と俺を退けて、神楽に近寄る
神楽がビクリと震えるのがすぐに分かった
「じゃあね」
「―…ッ」
降り下ろされた手はガンッとコンクリートを叩き割った
「…何なのお侍さん」
邪魔しないでよ、と笑顔の仮面は外れない
「一応警察なんでねィ…人が殺られかけてんのは見逃せねえや」
「総、悟…」
間一髪で神楽を自身に引き寄せたはいいが、これでは戦えない
神楽が自力で立てていないのだから仕方ないことだが
「じゃ、殺さないとね…君も」
ゆらりと笑いながら近づいてきて、手を振り上げる
せめて神楽だけは―…!!
神楽の自信で頭を覆い隠す
ギュッと目を瞑っていたが、痛みはおろか、触られた感覚さえもない
おそるおそる目を開けると奴は手を下ろしていた
「人を守るなんて…やっぱり侍はわかんないなぁ…戦うかと思えば守ったり…」
いいよ、見逃してあげる
くるっと俺に背中を向ける
「…どういうつもりでィ」
「やっぱりお侍さんは好きだよ。君はあの銀髪のお兄さんの次に殺してあげるから」
待っててね、と笑う
銀髪…?ああ、旦那か…
そのまま去るかと思えば、またこちらを向く
「神楽、確かまだ14だからね?ロリコンに気を付けて」
「んな!?」
奴はそう言ってその場を去っていった
抱いていた神楽が口を動かす
「そ、ご…」
「…何でィ」
「ありがとうネ」
白い肌に鮮血が鮮やかに映っていて、大丈夫か、と問いただせばうなずかれる
「傷口はほとんど塞がってるアルよ」
だから心配しないで、と神楽に頬を撫でられる
「また…俺が守るから」
「…うん。ありがとう」
ふにゃりと笑う神楽
でもその顔は兄を恋しく思っている顔でもあって
兄を殺してしまえば酷く傷ついてしまうかもしれない
次、またあの男に会うときは、俺を殺しに来るとき
その時、俺はどうしたらいいんだろうか
暫くはその場を動けなかった
選択
君が優先してくれるのはどちらなのだろうか
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