例え夢だったとしても
ある日、目が覚めたその場所はいつも見慣れた町並みと似ているが少し違う場所だった。
…どうなってやがる。
銀時は町を練り歩きながら辺りを見渡す。見覚えはある。
だが、違う。この歌舞伎町は“今”じゃない。この歌舞伎町は過去の記憶と重なるのだ。
まだ、ここにきて間もなかった頃の過去と…
「あ、そこ行くお嬢ちゃん!ちょっと聞きたいことがあるんだけ、ど」
自分の前を歩くおかっぱの小さな少女を呼び止めた。
聞きたいことがあったんだ。今は何年の何月何日?ここは歌舞伎町だよね?スナックお登勢って知ってる?よかったら案内してくんない?
しかし、開いていた口は音を発しなかった。
…こいつ…。
このおかっぱ頭の少女、どことなく顔立ちや目つき、髪質が本来銀時がいるべき時代のポニーテールゴリラ女ー志村妙に似ている。
しまった…。なんだか分からないがこれはよくないんじゃないか、知り合いと顔を合わせてしまって大丈夫なのだろうか。
焦り、無言になる銀時に志村妙似の少女は怪訝な顔で口を開く。
「あの…何か用ですか?」
「えっ!?あ、いや…あーっと、えっとお…」
しどろもどろになる銀時にさらに少女は目つきを鋭くさせる。
その目つきはやはりあの彼女のもので間違いないだろうと変な自信がわいてくる。
すると少女はまた口を動かした。やけに大人しめな声で言い放たれたそれに耳を疑う。
「あなたが私の後をつけていた人?」
「は?」
「しらばっくれないで。さっきから私の後ろについてきていた人なの?」
「は?いや、違うから!俺、ついさっきここに来た身だし、なんでお前をつけなきゃいけねーんだよ」
「…その言い方はなかなか複雑です」
先程の少し怖そうな顔とは打って変わって落ち着いた顔に戻っている。
それに安堵したの束の間。彼女の表情はまた変わった。次はどこか怯えたような顔だった。
どうした、顔が真っ青だぞ。なんて言う前に自分の後ろからの視線に気づく。
なんだ?誰かがじっとこちらを…いや、おそらく少女を見ている。
きっと今、後ろを見てはいけない。そんな気がして前にいる少女をみる。
心なしかふるえている…?
すぐに少女と同じ目線に座り込み、目線を自分に向ける。
はっと我に返ったような反応をする少女はぎゅっと手を握りしめて、ふるえを隠していた。
その動作でわかることは二つあった。この少女はストーカーにあってること。近藤なんかとは違う悪い意味でヤバイ奴なんだろう。そしてもうひとつ、こいつ…今ストーカーと目が合っていた…?
恐らくこのままこの少女を一人にしたら…
考えるより先に体が動く。
少女の手首を掴んで足早に歩く。
できるだけこの場を退散して話を聞こうー…
「いや…そんな余裕ねえな」
「ねえ!どこへ行くの…!?」
「お前、さっきの奴にいつからつけられてんだ?」
「えっ…わ、分かんない!少し前からだと思う。でも、顔見たのはさっきが初めて…!」
「へえ〜!知り合い!?」
「違うっ!知らない人…!」
「で、新ハとかは知ってんの?」
「えっ!?」
「ま、知らないか。お前、こーゆーの言う奴じゃねーもんな」
「…っねえ!さっきからどうして私のこと知ってー…」
かさり、
嫌な音に早歩きから走っていたその足が止まる。
いつの間にか着いた先は人通りの少ない薄暗い場所。
「ちょっと…危ないよ!逃げなきゃっ…!」
「何言ってんだよ。別に逃げてた訳じゃねーから。」
服の裾を引っ張る少女の手を優しく離す。
「ここでやっつけねーといけねーんだよ」
「!?何言って…」
「安心しろ、この万事屋銀さんに任せなさい」
「よろず、や?」
「ここで待ってろ。何かあったら叫べよ。」
さァて、ストーカー退治といきますか。
******
「ようお嬢ちゃん」
「あ、さっきの…万事屋さん」
「ん、撃退してやったぜ」
そう言うと少女から安堵のため息が漏れる。呆れたようなあの彼女と似た表情もしながら。
「あなたは何なんですか、一体…」
くすりと笑いながら言うその言葉に笑みが移る。
ー…ああ、俺が何でここにいるかわかったかも。
「ねえお嬢ちゃん、お前が気が強くて困ったことも誰にも何も言わない奴だってのは分かるがよ、こーゆーのは一人で抱え込むもんじゃねーよ?」
「!」
おかっぱの小さなその頭を優しく撫でる。その様子に驚いたのか少女は目を見張り、肩をビクつかせた。
「一応警察を呼んどいたから、気をつけて帰れよ」
そう言うと少女は少し悲しげな顔をする。
「あなたが送ってくれないの?」
「あー…俺はダメだ。」
「な、なんで?お礼をしたいから…もう少し一緒にいてくれませんか。一人は、嫌…」
今になって少女の目には水がたまってきた。
「悪いな、今は無理だ。近い将来ずっと同じ時間を一緒に過ごすから…な?また会おうぜ」
「よ、ろずやさ……」
あ…目がくらんできた。なん、で…………
「銀さん、ようやく起きましたか」
「んあ?」
昼の太陽が当たる縁側。
俺、ここで寝てたんだっけ……?
「お妙?」
「なんですか?寝ぼけてますか?」
なんだ…夢だったんだろう。
よく考えてタイムスリップとかありえないだろ。
横たわっていた体を起こしていつものように用意されているお茶とお菓子に手を出す。
その隣にはもちろんお妙が座っている。
例え夢だったとしても
ほら、約束したろ?近い将来ずっと同じ時間を過ごすって。
「ところで銀さん」
「なんだよ?」
「別にいいんですけどね、勝手に家にきて縁側で寝るなら一言ください。驚くでしょう。」
「……………………………………え?」
・銀さんがお妙さんの過去へタイムスリップして新八も知ら ないお妙さんの衝撃的な暗い過去を知ってしまい…
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