相死相愛
※刑事銀×犯罪者妙
暗い月夜の下の人気の無い路地裏に彼女は、いた
後ろに髪を束ね、右手に刃物
ここ最近世間を恐怖で騒がせていた張本人がそこにいた
彼女は俺の存在に気づいたようで真っ黒な目と交わった
彼女はにこ、と笑う
「刑事さん…お一人ですか?」
言葉は丁寧で優しく、顔立ちも美人なこの女はまさしく立っていれば人が自ら寄ってくるような人だろう
犯罪者だ、なんて思いもしないで
「刑事さん?」
「…ああ、一人だよ?ようやく見つけたよ。素直に捕まってくれるか?」
「ふふっ。嫌よ。」
悪戯に笑う彼女は切り裂き魔
女を切り裂きはしない
男のみを切り裂くのだ
とはいえ、人を殺したことは無い
重傷軽傷はあれど死にやったことは一度もない
「嫌って言われてもねえ…お前がやってることは犯罪だ。軽く重罪」
「軽いのか重いのか分からないわ、銀さん」
「名前呼ぶな、何で知ってる」
「長年追いかけられれば覚えます」
「…」
不服そうに睨むと「怖い顔」と言って微笑んだ
「ねえ銀さん」
「…なんだ」
「何で私が男の人を切っても殺さないか、分かる?」
「…知らねー、めんどくさいんじゃねーのか?」
彼女は「私は面倒くさがりじゃないわ」と吐き捨てた
「殺すために切ってるんじゃないの。愛してるの」
彼女はつらつらと語る
「愛してるの。でも、愛は形じゃないから見えやしない。切り裂いた傷跡が私からの愛なの」
「随分な狂愛だな」
「深く切り裂いたならそれくらい愛してるってことなの」
つまり重傷の人ほど彼女に愛されていると言うことか
おもしろくない
こんな気持ちを犯罪者に向けていいのかはいけないが、長年追っていれば気も変わる
少なからず彼女に惹かれているのは事実だった
不意に彼女が柔らかく笑う
「異性は誰だって大好き。もちろん貴方も。そしてね、私はあなたを一番、心の底から愛してるの。だから―…」
彼女の声色に少し背筋を凍らせた
「だから、あなたは私に切り裂かれて死んで」
少し離れたとこにいた彼女は素早く自分の目の前に現れた
「しまっ―…ッ!!」
至近距離で彼女の刃物で貫かれた
おかしい、彼女は人を殺すなんてしない筈
しかし自分が刺されたのは心臓に近い
急所は外したもののこれでは出欠多量で死ぬ。そして意識は朦朧としだす
彼女は不気味なくらい優しい笑顔だ
「今まで人を殺さなかったのは、どの人も貴方には劣ったの。だから一番の愛を渡すことをしたくなかったの」
だって、好きでもない人に告白するようなものだもの、と苦笑いしながら口を動かした
そして真っ直ぐと目線を俺に向けた
「…ねえ銀さん、私の愛を受け取って?」
視界が霞んで彼女に前のめりして倒れ込むと優しく抱き締められた
俺は、はあはあ、と苦し紛れに右手を懐にもっていく
最後の力を振り絞り彼女と目を合わす
そしてニヤリと笑って彼女を貫いた
バン、という音と共に
彼女は驚きで目を丸くしていた
「俺からの、愛だ…妙」
妙の恍惚の表情を見た後意識を手放した
相死相愛
その日以降、切り裂き魔事件は起こらなかった
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