虜になるのはいつから?
「いい加減にしてください。いっつも酔いつぶれて帰ってきたり仕事もしないでそれに―…」
マシンガントークとはこの事か
お妙は万事屋に来て早々に小言を話す
少しムカつくが、正論だし玄関で潰れてた俺をソファーまで運んでくれたわけだから一応感謝はしてる
「全く…だらしない」
「悪かったね」
嫌みったらしく言ってやれば呆れたように溜め息をつかれた
いかん
機嫌を損ねてしまった…
いつぶちギレられ殴られるか分からない、と少し顔を青くして機嫌を直す方法はないかと考える
考えに考え付いた結果―…
「お妙さん」
「…なんですか?」
「甘味でも食べに行きませんか?俺の奢りで」
丁度給料が入っているのが救いだ
お妙はぱあっと顔を明るくさせ「ほんとですか?」と聞いてくる
「ああ…少し高いのも許してやらァ」
今回だけだがな、と念押しをしてお妙を見る
お妙は「ありがとうございます」と笑顔だ
どこか行きたいところがあったのだろう
よく分からないがこうやってコロコロ表情を変えるお妙はやっぱり大人びて見えていても若い女だ、と思う
「なんか―…妹みてーだな。コロコロ表情変えたり何だかんだで近くにいたり…」
その一言が和やかなムードをぶち壊したのか、お妙は固まった
何かいけないことを言ってしまったのだろうか、しかし何がいけないのか分からない
お妙?と俯いているお妙の顔を覗きこむように見るとムスッとした顔と泣きそうな顔が入り交じっているような顔をしていた
「…妹、ですか…」
あ、こんな天パが兄なんてふざけんな、みたいな?
傷つくわあ…
ちょっ!?まてまて!!
「何で泣いてんの!?」
目の前のお妙は泣いていた
精一杯こらえてる様子はあるがこれは誰が見たって泣いてるよ!
だって涙が零れてるもの!!
やっべ…そんなに俺の妹って喩えはダメだったのか
こんなときどうすりゃいいんだ…?
だめだ
どうすりゃいいか分からねえ…自分がモテない理由、分かった気がするぜ
99%は天パのせいだがな!
「お妙…」
「私は…こんな天パのお兄さんなんて要らないわ」
やっぱりそう来ると思いましたアアァ!!
「ほんと悪かったって!喩えだよ!な!?…俺にこんないい女が妹って勿体ねーもんな。ほんとごめん」
いつものギャグ調とは訳が違う
マジ泣きのお妙にいつもの調子で話すことは俺にとっては難しい
誠心誠意謝り続けるしかない、と頭を下げる
まだ泣いてるだろうか、と下げてた頭をあげ、ちらりとお妙の顔を見てみる
お妙の涙は止まっていて、そして次は顔をほんのり赤く染めていた
「え…?」
何で照れているのか分からず首をかしげる
「…何なの、ムカつくっ!今のもただ鈍いから言っただけなんでしょ…」
「はい?」
「銀さんの一言一言で私は振り回されっぱなしなのよ」
「…??」
口調は怒っているが表情は照れて焦っている
一体どうしたというんだ
「お、妙さん?」
「…きです」
俯いたお妙から細々とした小さな声が聞こえ、聞き返すと次は顔を上げ、さっきより力強く声を出した
黒い瞳が真っ直ぐ視線を紡ぐ
「銀さん、が好きです!」
はあ、はあ、と脱力なのか息を吐くお妙
俺に至っては今の言葉を呆然と受け取ったまま固まっていた
そんなことはお構いなしにお妙は続ける
「た、とえ一人の女と見られてなくっても…好きなんです」
再び涙をポロッと流すお妙
俺が黙っているのを見てか、「ごめんなさい」と謝る
「迷惑ですよね…銀さんにとったら良くて妹止まりだもの…恋愛対象じゃないことくらい、わかってました」
「―…ッ」
何か言わなきゃ、しかし言葉が出てこなかった
お妙はそれを見て苦笑した
「無理、しないでください…ありがとう、ございます。…私、帰りますね」
そろそろと、それでも早歩きで玄関まで行くお妙
よく分からないが頭が考えるより先に体が動いていた
「お妙っ!!」
ガシッとお妙の腕を掴んだ
お妙は下を向いて俯いたまま微動だにしない
「俺さ、あんま…そういうの疎くって…その…だから、恋愛対象とか見てなかった…」
…ってトドメ刺してるだけじゃねーか!
お妙も更に不機嫌でもっと泣きそうな顔をしだしたよ!?
ヤバイヤバイッ
そーじゃなくて!!
「だから、あー…その…俺も少なくともお前のことは他の女より特に大事でだな…妹とかじゃなく…あれ?何かわかんなくなってきた。
……つまり、保留にさせてください」
じと目で俺を見ていたお妙はしばらく無言で少しだけ笑った
「…銀さんらしいわ…」
「うっせ……あー…てことでよろしく、な」
「こちらこそ」
そう言ってニコッと微笑むお妙
あれ?不覚にもドキッとしちまったよ…?
照れと焦りで自分の着流しをお妙の顔に当て、お妙の涙を拭うふりして目を隠した
今の俺の顔を見せないために
虜になるのはいつから?
いや、もうすでになっている?
※銀さんに妹みたいと言われショックを受けるお妙さん→耐えられず告白
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