紡ぐのは
銀→妙
「飽きない人ね…」
「まあな」
はあ、と俺の座ってる横でため息つくのはこの志村邸に住んでいるお妙だ
お妙はコトッとお茶とお菓子を出すと「好きにしてくださいな」ともてなしを放棄した
まあ、最近はそんな感じだ
それがいいのか悪いのかと聞かれると微妙なところだが
「んじゃ、遠慮なく」
何食わぬ顔でお茶菓子の饅頭を手に取り一口頬張った
無音が室内を包む
重たい空気
こんなことなら何か話題を持ってくれば良かったと自分の考えの無さに少し反省する
いや、用事ならつい先週からあると言えばあるのだ
ただ、タイミングが掴めない
会話の無い今、話すのは正直おかしい話なわけで
息苦しさをお茶と一緒に飲み込んだ
「銀さん?」
「…」
「銀さんってばっ!」
「うぇっ!?ハイッッ!」
ダンッと勢いよく机に振り落とされたお妙の手に肩をビクリとさせながら返事する
「最近どうしたんですか?ストーカー?」
「俺をゴリラや雌豚と一緒にすんな」
「じゃあどうしたんですか?」
「…えー、と」
まじまじ見るな
今のタイミングなら言えるのでは?
いや、心の準備がアアァ!!
「ぎっ銀さんっ!?大丈夫ですか!?」
「き、ききっ気にすんな」
「気にしますよ!顔が真っ赤…」
「うぉいっ!何で顔近づけて…」
「熱かどうか確かめるのよ!」
もしや額を重ね合わせて計るアレをやる気か!?
そんなん意味ねーから!
むしろ悪化だから!
「ん〜…あらっ!?どんどん熱く…」
「誰のせいだよ」
「誰のせいですか?」
なんだコイツ
超が付くほどの天然かよ
真顔で俺を見るお妙の額をコツンと小突く
お妙は何するんですか、と額を擦りながら少し膨れっ面をする
そういう顔は反則だっての
「銀さ…」
「なあ、これからキスがしたいっていったらさせてくれる?」
「………は?」
ん?
自分でも何言ってんだと思考を疑った
“好きです、付き合って”
を発するつもりだったのに…
え?キス?
何言っちゃってんの俺?
嫌な汗を流しながらもお妙を見定めると、お妙は固まっていて俺の視線と言葉をようやく理解したのか、かあっと頬を桃色に染める
「おた…」
「なっちょっ、何言ってるんですか!?き、キスッ!?そんな、あの…心の準備とかあるしっそれに…」
「…」
予想外だ
お妙のことだから「変なこと言ってんじゃねーよ、糞天パ」とか罵声と鉄拳を飛ばしてくるかと思えば…この恥じらいよう…
やっぱりゴリラ女も乙女なわけだ、と一人納得する
え、てか何?
この反応は期待していいのか?
まだ独り言のように話すお妙の話を遮ってお妙の頬に右手を近づけた
お妙はビクリとしながらもじっと俺を見つめていた
「…まあ、なんだ…俺の言いたい事ァ分かるだろ?」
告白の事も
今、何がしたいのかってことも
少しずつ距離を近づけていく
周りは静かで世界には俺とお妙しかいないかのようだ
しかし、唇が触れるか触れないかぐらいで「待って」と止められる
「あん?KYですかコノヤロー…」
「…私、好きとか言われてないし、返事もしてないわ」
「!…察しろよ!」
「むっ無理ですっ!!私、好きとか言ってくれない人とキスなんて嫌よ」
くそっ!
我に返りやがって!!
もう数センチの距離が憎いッ!
それでも真面目に告白、とか…
無理だろオォ!急に恥ずかしくなってきた!!
「…後少しでキスできたのによォ…」
「っだ、から!…はやく…好き、って言ってください!そうしたらキス―……!」
「え?」
お妙はしまった、と言うように口許をバッと手で覆った
…ふぅん?
「キス、お妙もしたかったんだ?」
「!そ、そんなこと…」
「…分ァったよ…一度しか言わねーからな」
紡ぐのはスキの二文字
その直後に
甘いキスで
返事を返された
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