知ってたよ
※月→銀妙
「はーい、新聞なら要りませ―…あ」
「あ、えと…ここって万事…」
万事屋を訪ねればポニーテールの美人さんが出てきた
彼女はにこりと笑い、「月詠さんですよね」と言う
「ちょっと待っててくださいな」
「あ、いやわっちはこれを…」
今朝日輪に渡されたお茶菓子を届けに来ただけ、それだけなのに…
た、確かに奴に会いたくないわけではないが…
そうこう考えているうちにポニーテールの彼女は「銀さーん」と奴を呼んでいた
「はいはい…おっ月詠じゃねーか」
気だるげな格好は変わらず、奴が現れた
どうした?と聞かれ、ずいっとお菓子を差し出す
「…え?」
「ひっ日輪が…いつもお世話になってるからと…」
吃りながら奴に押し付ける
「良かったですね、銀さん」
すると銀時の隣にいたポニーテールの美人がにこにこと笑う
「ああ、お前の暗黒物質を食わずにすむと思えへぶぁ!!」
「月詠さん、一緒に食べませんか?ささっ、上がってくださいな」
一見おとなしそうな彼女は銀時の顔面を殴っていた
「いや、わっちは…」
「そーそー。お妙、ようやく久々に二人きりになれたんだかグハッ!!」
彼女はお妙と言うようだ
お妙さんはまたも銀時の鳩尾を殴る
「人前で変なこと、言わないで頂けます?」
「いや!?どこも変じゃなかっぐふぉ!!」
「さ、月詠さん、どうぞ上がって」
「あ…わっちはこれから用事がありんす…」
「…そう…。…じゃ、私はお菓子をおいてきますね」
お妙さんはまた来てくださいね、と微笑んで万事屋に入っていった
玄関には鳩尾をさすり、いてて、と呟く銀時
「大丈夫か?」と聞くと「大丈夫に見えますか」と答える銀時
だが、それほど怒ってなどいなかった
酷い女だな、と言おうとした言葉は出なかった
「…彼女か?」
あれだけ妻のように動く人が恋人ではない筈がない
けれど心のどこかで期待していた
しかし、期待とは裏腹に銀時は照れ臭そうに頭をかいて頷いた
「まあ、な」
聞きたくなかった
恋人ではないかもしれないという淡い期待は裏切られた
「…そうか」
今、わっちは笑えているだろうか
その後も少しだけ話をしたが、内容なんて覚えていない
ただ、涙をこらえるのに必死だった
「―…ッ」
部屋について電気もつけず、その場に座り込んだ
そしてようやく溢れていた涙が頬を伝う
「っ…ふ…」
暗い部屋の中は自分の嗚咽だけが響いていた
知ってたよ
主がわっちを恋愛対象としてみてないことぐらい
ただの戦友としか思われてないくらい
わかってた
それでも気づきたくなかったんじゃ
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