片隅に在る光
「ぎ、銀さん!大変です!!」
勢いよく万事屋の戸を開けたのはここで働くツッコミ担当新八
「いや!そんなのどーでもいいから!!銀さん、大変なんです」
「あー?つか戸はもう少し丁寧に扱え。もうすぐ壊れそうなんだから。…で、何が?お前が?お前の頭がか?」
「銀ちゃん、頭じゃないアル。眼鏡アル」
「いや、意味分かんないから!!そーじゃなくて」
「「?」」
「姉上が事故に遭って…病院で…意識がまだ……ってあれ!?銀さん!?」
「事故に、ってとこでもういなくなったアルよ」
玄関を見れば戸はすでに壊れてしまったようだ
「…テンパりすぎでしょ」
「天パだけにナ」
「…」
「お妙!お妙はどこだっ!?」
銀時は病院の医師に怒鳴るように聞く
「うるせー!ここが病院ってわかんねーのか!」
「いや、アンタもうるさい。お妙…ああ、志村さんね」
院長に部屋を聞き出して静かに部屋に入る
「お妙…?」
「身内の方ですか?ついさっき、意識は戻りましたよ」
中に居た看護師はそう言うと部屋から出ていった
お妙はこちらを見ず、ぼうっと窓を見ていた
ガラリ!
追い付いた新八と神楽も部屋に入る
「あ、姉上!!」
「姉御オォ!!」
「ちょ、テメーら…」
2人はお妙に近づく
がやはりお妙の反応が不自然だ
まるで初めて見る顔に驚いて―…
「姉、上…?」
「姉御?」
さすがに二人とも気づいたのかお妙の顔を伺う
「えっと…
あなたたち…誰…?」
部屋の空気が固まる
「え…何言っ…
嘘でしょ…?僕ですよ?弟の新八…」
「あ、ねご…?嘘…神楽アルよ!?忘れたふりアルか?も、もう…心配したアルよ」
作り笑いで補っているが二人ともパニックになっているのだろう
そして、お妙も
何がなんなのか、把握しきれていないのだろう
目が泳いでいる
「…新八、神楽。…落ち着け」
「お、落ち着いてられません!だって、姉上が…」
「新八!!」
声を張り上げると新八が黙る
神楽はフルフルと震えながら銀時を見据える
「新八ィ医者呼べ。」
新八は頷くと部屋を出た
「あ、の…」
お妙がおずおずと声を出し、二人でお妙を見やる
「どうしたアルか?具合悪いアルか!?」
「いえ…それより…あの…」
「何アルか?はっきり言ってほしいアル」
神楽が真剣にお妙を見ると、お妙も決心したかのように神楽を見、下を指す
「下?」
床にはこれといった物は無い
ベッドの下か、と二人で覗きこむ
「「「…」」」
「あ…よ、よう万事…」
「「何してんだテメーはアアァ!!!!」」
神楽、銀時の声と足蹴りによって人物はベッド下から転がって出てくる
「ちょっとシリアスチックだったのに何でいんだよ!?」
「ゴリラストーカー、まじキモいアル!しばらく私に近づかないで!ってか空気嫁!」
「KY!」
「出てくんじゃないアル!!」
「帰れバカ」
「そこまで言わなくてもいいんじゃないのオオォ!!!?」
二人に罵倒され、半泣きになりながら叫ぶゴリラ―またの名を近藤勲
「で、なんだテメー。何でいんの」
「フッお妙さん居るところに勲あり!万事屋、お前とお妙さんを二人きりにはさせん!」
「いや、神楽いるから二人きりじゃねーし」
「バカアルな…状況見るアル、KYゴリラ」
「う、うるさいうるさい!!と、とにかく!お妙さんに近づくな!!」
「銀さん!先生呼んできました!!…て、近藤さん?」
「おお!我が義弟の新八くんよ」
「誰が義弟ですか」
とりあえず新八も部屋に入り騒がしくなるなか、先生の話を聞く
「あー…記憶喪失ですね。前(原作)にもあったアレです」
「手抜きな説明だな。なんだよ(原作)って」
「ふりがなだ」
「漢字に漢字でふりがなふってどうすんですか」
新八の冷静な突っ込みをスルーして話を戻す
「ま、気長に戻るのを待つしかないでしょ。日常生活に支障はないから入院はしなくてもいいよ?」
医師に言われたその日にお妙は退院し、志村家に戻った
「ここ…が、私の家…」
「そうですよ。僕と姉上の二人で住んでます」
「親…は?」
「親は…」
新八が黙り込んだのを見て、お妙は「ごめんなさい」と謝る
「新八…今日は泊まっていってくぜ。飯、作るわ」
「銀さん…でも…悪いですよ」
「姉御と居たいだけアル。お前の心配なんかしてないネ」
神楽と銀時は新八の横を通り、志村家にあがる
「じゃあ、ここは俺も…」
バタン
「はは…なんなのかな…俺って」
外には涙を流す近藤がたたずんでいたという…
一方志村家はしん、としていた
「こ、この魚、おいしいアル!!流石銀ちゃん!」
「お、おう!だろ!?」
「あ、姉上はどうですか?」
「あ、美味しいです」
微笑むものの、どこか他人行儀なやりとりが歯痒い
「まるで…銀ちゃんの時と一緒アルな」
神楽の呟きにそうだったのか、と納得する銀時
神楽と新八が眠りについた頃、銀時は部屋の中から縁側にいるお妙の方を向き、声をかけた
「お妙」
「!…は、い…」
「あーその、なんだ…記憶がないから怖いのは分かるよ」
だから、これ以上近づかないから話、しないか?
銀時の言葉にお妙は頷いた
「銀時…さん、ですよね。私…何も思い出せなくて…
私のこと…教えてくれませんか…?」
寝なくていいのか、と聞くと「逆に眠れません」と返される
ふう、とため息をついて俺に背を向け月を見ているだろうお妙に話す
「お前には銀さんって呼ばれてたよ」
「銀、さん…」
「新八のことは新ちゃん。神楽は神楽ちゃん。
お前は皆から好かれてて、男には言い寄られ、女には慕われて…」
「…幸せ者なんですね」
「いや、当然って言ってたと思う」
まあ、と笑うお妙
つられて銀時も笑う
「初めて出会ったとき、お前すげーから。走ってる俺の原付に乗ってきて俺、フルボッコだよ」
「そんなことしたんですか!」
「ゴリラ女だったね。
…でも芯は通ってるまっすぐな女だよ」
するとお妙は少しだけ銀時を見て目があった瞬間に反らした
「っぎ、銀と…銀さんって…私の何なんですか…?」
銀時の体が強張った
何だろうな、部下の姉?
それは何か違う
いや、合ってるんだけど…
実質、周りからは色々言われているものの、そういう特別な関係ではない、と思われる
ただ
「…お前、の…お前のことが好き…なのかもな」
「は!?」
「はっ!?いや、違ッ!!」
何を口走ってんだ!
いや、でもそうなのかも知れねェ…
って、何で感情より先に言葉が!?
銀時は一人、自問自答を頭の中で巡らせていた
「銀時さ…銀さん…?」
「なあ…お前の中に俺は居る?」
ドクン、とお妙の心臓が跳ねた
銀時は「ま、お前んなかには居るわけないか…」と辛そうで悲しげな笑顔をした
「銀時さっ…」
「寝るわ。お前も早く寝ろよ」
お妙は一人、心臓が跳ねた理由を考えていた
そのまま次の日
お妙の記憶は戻っていない
「新八く…新ちゃん」
「姉上…無理、しなくていいですよ」
「姉御…」
パンパン、と手を叩く音
音を出したのは銀時だった
「朝から止めようや。忘れられてるならこれから忘れられないように接すりゃいいだろ」
銀時の話に納得して、朝食を囲む
「おっ妙さあぁグゲファ!!!」
庭から出てきた近藤に銀時の一撃が決まる
「な、何しやがる万事屋!!」
「記憶の無い女に向かって抱きつこうとすんな!!」
近藤は最もらしいことを言われ、黙る
「…あの…銀、さん」
「ん?」
「彼は?昨日もいた…」
「!!俺はお妙さん、貴方の旦ぬぁぶっ!!」
再び銀時の拳が鳩尾に入る
「捏造すんなボケ!!」
「だ、旦那…」
「姉御、気にすることは無いアル。アイツは姉御の奴隷、ゴリラ勲」
「ご、ゴリラ勲…」
「違うから!!神楽ちゃん、それも捏造させちゃってるからね!?姉上がこんがらがっちゃうから!!」
神楽と新八も混じりあう
「いずれ、旦那になるゴリラ勲こと近藤勲です。な、我が義弟よ」
「義弟じゃないし!捏造すんなッつってんだろォがアアァ!」
「ってか近藤!お前何で居るアルかアァ!?」
新八、神楽によってボコられる近藤
いつの間にか銀時とお妙は蚊帳の外で暴れている三人を眺めていた
「…近藤勲。お前に惚れて、ストーカーしてる奴だよ」
「…あの、サラリと言ってますけどストーカーを放置していていいんですかね。警察に連絡…」
「アイツが警察だもの」
「…この国はどうなってしまうのかしら…」
「さあな」
その光景をぼうっと見物して、机においてあったお茶を縁側で啜る
銀時はお妙から少し離れた位置に座るが、お妙が近づいてくる
「…怖くねぇの?」
「何だか…銀、さんは…怖くないです。むしろ安心するんです」
何でかしら、なんて首をかしげるお妙に銀時の心臓が跳ねた
「き、期待させるようなこと言うんじゃねーよ」
「期待?」
「…無自覚め…」
鈍いのは記憶がなくても一緒なんだなぁ、としみじみ思った
「銀、さん」
「ん?」
「記憶の無い私は嫌いですか」
素直に驚くだけだった
「は?いきなり何?」
「記憶を失う前の私は分からないけど…今の私は貴方が…好き、かもしれない…です」
まさかの展開に驚く銀時
「マジで…か
嬉しいよ、ありがとな」
「!」
「でも、ごめん」
お妙の嬉しさに満ちた表情は悲しげな表情に変わる
「正直、今のお前は大人しくて、優しいとこも、芯がまっすぐしてるのもあって、完璧な女だよ」
「…なら、どうして」
「やっぱり、記憶のあるお妙が好きなんだよ。凶暴でゴリラ女のお前が好きなんだ」
我ながら趣味悪ィな、などと呟いてる銀時
お妙はドクンと鳴った心臓を押さえる
「!?お妙!?」
前屈みになったお妙を銀時が肩を持って支える
それに気づいたのか新八、神楽、近藤も近づく
「姉上!?」
「姉御!?大丈夫アルか!?」
「お妙さん!?」
「お妙!しっかりしろ!!」
ドクン、ドクン
お妙は一瞬力が抜けたように銀時にもたれ、そしてパッと目を開ける
「お妙…?」
「ぎ、んさん…?新ちゃんに神楽ちゃん…ゴリ、近藤さんまで…」
お妙は周りを見渡してどうしたのよ、と?マークを浮かべる
「あ、ねうえ…記憶が…」
「姉御!私が誰か分かるアルか!?」
「え?ええ、神楽ちゃん、でしょ。私の大好きな友達」
「姉御オォ!!」
銀時はお妙の肩から手を離す
神楽はお妙に抱きつく
「銀さん、これは一体…」
「覚えてねーの?」
「…うっすら…夢みたいな感じなものなら…」
「ま、それでいいんじゃねェの?」
お妙はよく分からない、と言いたそうな顔をしたが、まあいいか、と微笑む
「お妙すあぁん!!良かったでグハアァ!!!?」
お妙に抱きつこうとした近藤はお妙によって制裁される
そんな何時もの日常が戻ったわけで
片隅に在る光
妙(うっすら覚えてるのは銀さんのことばかりなのは何でかしら…)
銀(あれ?てことは告白は無しってこと!?マジかよ!!)
※本誌パロ 記憶喪失ネタ
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