凍てついた貴方の世界
「銀さんっ!」
何をするわけでもなく街を歩いていると後ろから声をかけられる
ピクリと肩が震える
この愛しい声が誰かなんて見なくても分かる
「銀さんったら!」
シカトを決め込んで歩いていたら遂に追い付かれ、顔を覗かれる
「お妙じゃねーか、どうした」
「どうした…って…特にようはありませんが話しかけちゃいけませんか」
「そーゆー訳じゃねーけど…」
困る
正直、困るんだ
お前が愛しくて好きだからこそ
俺は近づかれる度に拒否をする
何故?
愛してるからだよ
「あのさ、お妙」
並んで歩くお妙に声をかける
お妙は「どうかしましたか?」と俺を見る
「もう…俺に近づかないでほしい」
冷たい口調で拒絶の一言を出す
お妙は固まっていたが少し顔を強ばらせてから作った笑いを見せる
「す、すいません…近すぎでしたね」
「違う、そうじゃなくて」
お妙も分かっているんだろう
「金輪際、俺に話しかけ―…」
「銀さん」
続きを言おうとしたら遮られる
「私は…嫌、よ。だって…貴方と居たいの!私は貴方が好―…」
「お妙!」
次は俺が遮る
その先は聞いてはいけない
聞いたら抑えられなくなる
駄目なんだよ
俺はお前と並んで歩いちゃいけない
お前と居ることは許されない
汚れたこの手でお前に触ることさえも
してはいけない
「その言葉は、俺に向ける言葉じゃねーよ。もっと良い奴を捕まえな。…玉の輿、狙うんだろ?」
笑顔を作ってお妙からス、と目を反らす
お妙はその場に立ち尽くし、俺はお妙をおいて歩き出す
これでいい
お前を苦しめないために考えたやり方なのだから
後悔?
してない…とは言い切れないが、これが一番お互いにとって、良い離れ方なんだ
するとまた後ろから、次はドドドと足音
そして目の前に来たのはまたしてもお妙
「な、にしてんだよ」
「…ッ最後まで言わせなさいよ!好きよ馬鹿!!」
なんて女だ
拍子抜けする
涙を堪えながら俺を見る
「おた…ぐげふっ!?」
顔面を拳で殴られる
お妙ははぁはぁ、と息継ぎしてから地面に座り込んだ俺を見下ろし、自分も座り込む
そして俺の胸ぐらをぐい、と引っ張る
「大馬鹿者よ、貴方は!」
まさか怒鳴られるとは思わなかった
「…んだよ、俺にはお前の隣にいる資格はねェんだよ」
まっすぐのアイツの目は後ろめたさが邪魔をして見ることができない
「資格って何よ!?そんなもの、存在しないわ!」
「あのなぁ…俺はお前を思ってああ言ったんだよ。お前がこれ以上傷つかないように…」
「もう傷つきまくりよ!馬鹿なんじゃないの!?告白もさせず、フラれて私を置いてって…もうズタズタよ!!」
少しずつお妙の目から涙が落ちる
「お前は俺の過去を知らない。俺はひどい奴だよ。」
小さい頃から人を殺し続けてきた
「俺はこの手でお前を触りたくない。汚れるぞ」
数多の血を浴びてきた身体
一番汚いのは刀を握って人を斬っていたこの手
お妙は俺の胸ぐらから手を離す
そして俺の手に触れ、それを自分の頬に当てる
「!?」
「汚くなんかない。過去はどうあれ、今のこの手はたくさんの人を護ってきた温かい手よ」
こんなものじゃ私は汚れない
瞳を潤ませながら微笑むお妙
「…貴方の許せないものがまだあるのなら私が許すから…自分を責めないで」
お妙の頬を伝う涙が手に触れる
冷たいはずのそれが温かく感じた
俺は立ち上がり、そしてお妙を引き寄せる
「…お妙」
「はい」
「ありがと、な」
少し照れ臭くて口を尖らせつつ微笑むと、お妙も目を赤くしながら笑う
「あと、お妙」
「何ですか?」
「告白の返事、なんだけど」
「…別に脈アリなんて期待してないので、フってくれて良いですよ」
にこ、と笑うお妙を抱き寄せる
「なんでそーなるんだよ。お前が俺を許してくれるんだろ?…なら、躊躇いなんかねーんだよ」
お妙の耳元で好きだ、と囁けばお妙はまた涙を流す
「…いつもは泣かないくせに」
そう言って頬をつねるとお妙は口をへの字にしつつも赤くなり、微笑む
それにつられて俺も笑った
凍てついた貴方の世界
凍りついた世界にいるのなら
私が温めて溶かしてあげるから
※お妙さんを想って身を引く銀時(土ミツ的銀妙)
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