名前を呼んで
コンコン、とノックを2回
失礼します、とやけに大きなドアを開ける
ドアの向こう側は廊下側の煌々とした明るさとは違って真っ暗
その中の大きなベッドに横たわる銀髪に近づく
「ご主人様、そろそろ起きてください」
「うーん…も、少し…」
ご主人様とは、この家の次期当主―坂田銀時
「もう少しって、もう昼になってしまいますよ?」
「…いんだよ」
「そういう態度に出ますか。それなら―…」
締め切ったカーテンをバッと開ける
部屋とは逆の暖かな光が差し込んで眩しい
そして更に布団をガバッとめくる
これをやられれば誰だって起きざるを得ない
「あー…くそっ…」
ムクリと起きたご主人様は不機嫌な顔つき
「おはようございます、ご主人様」
「何がおはようございます、だ…ったく…」
「起きました?」
「起きたよ!ほんとにもうっ!」
「では、今日の予定を―…」
そこまで言うとご主人様に待った、と手をかざされる
「朝からそーゆーのは無しの方向で」
「もうすぐ昼ですが?」
「…起きてからいきなりそーゆーのは無しにして。飯は?」
「和食テイストのフルコースです」
ご主人様は「そりゃいいな」とクローゼットを開ける
その光景をじっと見つめているとご主人様は此方を見る
「…着替えるけど…居たきゃ居てもいいけどさ」
その言葉を聞き、一気に体が熱を帯びる
「で、出ます!!」
急いで廊下に出て、バンッとドアを閉める
部屋の中からくっくっ、と笑い声が聞こえ恥ずかしくなる
しばらくして部屋からご主人様が出てくる
「待っててくれたんだ、お待たせ」
「ご主人様に仕える身ですから」
我ながら可愛くない
待ってたのは彼と一緒に居たかったからではないか
「…そう」
ご主人様は冷たく言い放す
そして先に歩くご主人様の数歩後ろをついていく
ご主人様はまたしても苛立っている様子
意を決して声をかける
「あの、ご主人様っ何か怒って…」
「ねえ、俺のこと呼んで」
は?
今、呼んだじゃない
「ご主人様…?」
「そーじゃなくて…名前」
「な…どうして…?」
ずっと足を止めなかったご主人様が足を止め、私に寄る
「俺の名前で呼んでよ」
「よ、呼べるわけないじゃない、ですか」
あなたに仕える身である私が
ご主人様の名を呼ぶなんて出来やしない
だって身分が違うもの
近づくご主人様に後退りをしているとついに後ろの壁にぶつかる
「どうして呼べないんだよ」
「どうしてって…身分が違いすぎます」
ご主人様は更に苛立つ
「っ関係ねェだろ!身分なんて!」
ダンッと壁を叩くご主人様にビクリと肩を震わせる
「…俺はお前が好きだ」
予想外だ
まさかそんなことを言われるとは
「ご主人様なんか止めて名前で呼んでくれ、お妙」
まるですがるかのように私を囲う
「な…そんなこと言われても…」
嬉しいが、困る
頭を混乱させていると更に質問をされる
「お妙は俺が嫌いか?」
名前で呼ばれるごとに心臓が高鳴る
「…そ、その聞き方は狡い…です」
合わせられた目を反らす
「俺は狡い男だからね」
にっ、と笑うご主人様を横目で見やる
そしてご主人様は私から少し離れる
「身分は無しで、考えてみてよ」
真剣な表情でそういわれつい目が離せなかった
「ご主じ…」
「銀時」
「…」
「とりあえず名前だけは呼んでもらいたいから。」
ご主人様は、またもニッと笑って歩いていった
顔を赤くさせ、しばらくじっとしている私を置いて
名前を呼んで
ぎ、銀と…銀さん
よし、これなら言えそうだ!
※主人とメイドパロ
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