あたたかい温もり
夜のしん、とした雰囲気は時々不気味だ
不安な感情に駆られる
「ん…」
寝覚めが悪い
体の節々が痛くて敵わない
横を見れば紅桜の時と同様にお妙がいた
「…起きましたか?大丈夫ですか?」
お妙は眠そうな目を擦りながら俺を見る
「大丈夫…」
「そう…
貴方が夜遅くに新ちゃんと神楽ちゃんと一緒に来るときは決まって驚かされてばかりね」
お妙は少し顔を下に下げる
分からないがきっと顔を歪めているんだろう
頭を撫でて不安を取り消そうと思ったが、お妙の頭に触れる数センチ手前で手が止まる
何故か不安が俺にも流れ込む
俺はお妙に触っていいんだろうか
この手は散々人を殺して血に染めてきた汚れた手
血の浸食は進む
この体自体が穢れている
「…銀さん?」
空白から先に声を出したのはお妙だ
一時停止のように固まっている俺を不思議そうに見る
「いや…いつも悪いな」
「…悪いと思ってるなら…」
何かぼそぼそと言っているが、声が小さくて聞こえない
「お妙…?」
「悪いと思ってるならもう無茶しないで下さい…」
嗚咽が夜の空気に良く響く
「…お妙…悪―…」
「分かってます。ただ、言いたかっただけ…」
本音を言ってもなお報われない、とはなんと悲しいことだろう
「お前って強いよな」
「…どこがです?私は猿飛さんや月詠さんみたいにあなたの側では戦えない」
ただ待つだけの無力な女、お妙はポツリとそう呟く
「待つだけ、って一緒に戦ってる奴よりスゲーと思うよ」
死ぬかもしれないのに死なないと信じて待つなんて、並の女なら泣き崩れて待てないと思う
必死で引き留めるだろう
「お前は信じてくれる
だから俺もそれに応えようと必ず生きて帰ってやるって思えるんだよ」
お妙は瞳を震わせて俺を見つめる
「俺に力をくれるのはお前だよ」
驚いた
まさかお妙から抱きしめられるとは思わなかった
「…怪我人が偉そうに言わないで下さい」
口調こそ強気だが肩は小刻みに震えていた
「…ありがとな」
お妙の背中に手を回す
体の痛みは分からない
麻痺してるのか?
まあ、今は好都合だ
入れられる範囲の力でお妙を抱きしめる
今だけは少しの邪魔だって許さない
あたたかい温もり
この温もりを味わっていいのは俺だけ
俺以外には絶対にさせない
※怪我や風邪で弱っている銀さんを看病するお妙さん
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