足枷は外れない
『…どこだ、ここ…』
辺りは死体で埋まっている
『どこ、だって?』
『誰だ!?』
どこからか聞こえてきた声を探す
が、どこにも見当たらない
『ここはお前がたくさんの人を殺してきた場所だろう?忘れたのか?』
『うるさい』
忘れてなんかいない、と小さな声で呟く
『なんだ、てっきり忘れたのかと思ってたよ』
『…なんで今、俺はここにいるんだ…』
ああきっとこれは夢なのか、と認識する
『夢?現実の間違いじゃないかい?』
ぞくり、耳元から聞こえた優しそうで冷たい声
『何言って…』
なんだ冷や汗が出てきやがった
『よく、自分を見てみたらどうだ?』
ハッとした
手には血痕
着物の白い服は誰かの血の痕が散りばめられている
耳にかかる少し長い銀髪
黒の鎧
木刀ではなく刀
『…嘘だろ…?』
この俺はまるで
『攘夷戦争をしていた頃の敵味方共に恐れられた白夜叉』
『!!』
どこからか聞こえてきた声に反応を見せると何やら笑い声が聞こえる
『正解だろう?』
『黙れ』
『可哀想だね』
『黙れって言ってンだろ』
『お前、独りだよ』
独り独り独り独り…
誰もいない
いるのは死体死体死体…
『お前は壊すことしかできないよ』
『やめろ』
『仲間だった奴はみんな死体だ』
『やめろ!』
どこにいるかも分からない相手に向かって怒鳴り、刀を自分の周りで振り回す
『お前は愚かだね。』
『黙れ!』
『そうやって馬鹿みたいに刀を振り回してると』
シュパッ
何かを切った感覚
『ほら、また大切な仲間を刺しちゃった』
『銀さ、ん…』
『銀ちゃ…』
崩れ落ちる二人
『新八!神楽!』
『可哀想だね』
しっかりと耳元から声が聞こえ、瞬時にとらえる
『お前…殺す!!』
捕まえた奴の顔は暗くてよく見えないが口元が笑っている
グサリ
捕まえた奴の腹に刀を刺し込む
腹からドクドクと血が流れ落ちる
『…これで終わりだ』
『どこまでも愚か者だよ、お前は』
『何言って…』
『切る奴の顔ぐらいしっかり見ないと。そして、そいつは無実かもしれない。確認はしないと、』
見えなかった奴の顔が見えてくる
『!?』
『大切な者と入れ替わってるかもしれないよ』
『銀、さ…ん』
『お妙!?』
ぐらりとお妙は崩れ落ちる
嘘だ
これは夢だ
覚めろ
早く覚めてくれ!
ギュッと目を瞑り、覚めろ、と念じる
『…一生一緒だよ、またね、俺』
最後にそう一言告げられる
次にを開いたときは見覚えのある万事屋の天井だった
「んだよ…驚かせやがって…」
「あら、気がついたんですね」
スッと襖が開き、出てきたのはお妙だった
「…お妙…」
「まだ意識が朦朧としてるのかしら…」
大丈夫ですか、と訪ねられ、ああ、と返事をする
「…なんで俺…」
「どうやら熱、みたいですよ?」
新ちゃんと神楽ちゃんが心配してたわ、と微笑みながら話すお妙
新八…神楽…
「二人は…!?」
「新ちゃんはライブ行ってます。神楽ちゃんは定春くん連れて、公園に行きましたよ」
「そ、そうか…」
「銀さん…一体どんな…」
お妙はそこまで言うと会話をやめてしまった
「?お妙…?」
「な、何でもないわ。冷や汗かいてますよ。」
タオル取ってきますね、と寝室から移動しようとするお妙の手を取り、強引に引っ張る
お妙はバランスを崩し、俺の上に倒れ込む
「きゃっ!?何を…」
「いいから!」
ギュッとお妙を抱き締める
しばらくは少し、抵抗していたお妙だが、だんだん大人しくなる
「…銀さん…?」
「夢で…良かった…」
そう呟くとお妙は少しだけ反応を示したがすぐに「そう」と返す
「…私にはどうにも出来ないわよね」
何か小さい声で言われ、「何だ?」と聞き返すが、「何でもありませんよ」と流される
その声は震えていたような気がした
足枷は外れない
今さら思えばそれは泣いてる証拠なのに
俺にはそんなこと考える余裕もなかった
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