宣戦布告
※月→銀八(→)←妙
お弁当が終わって最高に眠い5時間の数学の授業中、何気なく窓の外を見る
外は体育の授業の幅跳びや走り込みをしてたり、賑やかそうだ
風に落ち葉が舞っていたり、鳥が空をくの字で並んで渡っている
反対の棟を見ると廊下を歩く先生が見えて何やら話している
あれって…、とその二人を見れば一人は3Z担任の銀髪天然パーマ、坂田銀八と新人教師のクールビューティー月詠先生だ
何話してるんだろう…
別にいつもなら担任が誰といたって気にならないけど…
何やら楽しそう…?
他の先生といるときと違う雰囲気だ
「ねえ、あれって銀八と月詠先生じゃない?」
「ほんとだ〜なんかさ」
お似合いじゃない?
ボソボソと聞こえてくる会話にズキッと胸が痛む
お似合い
確かにそうかもしれない
私が銀八先生を好いているのを知っている神楽ちゃんはチラチラとこちらを見る
不安そうに見てくる神楽ちゃんに大丈夫、と笑いかけておく
数学の授業は終わって休み時間
「銀八先生と月詠先生かあ…」
「なんか悔しい!!」
「でもなんかお互い仲良いよね」
クラスの一部は銀八先生の話で持ちきりだ
「姉御〜…」
「大丈夫、よ」
「あらお妙さん、いつになく弱気じゃない」
机の前に来たのは猿飛さん
「…何?猿飛さん」
「貴方がそんなに弱気だと調子狂うわ」
「…近いわ、離れろ雌豚が」
顔が近づいていたのでとっさに毒舌を吐く
すると貴方じゃ感じないわ、などと訳のわからないことを言い出す
「…で?結局何なのよ」
「月詠先生と居たからって何よ、ただ話してただけでしょ」
気にする必要なんか無いのよ、と強気な口調で言われる
その言葉が一番心に響いたなんて言わないけど…
「…あり、がとう」
「勘違いしないでよ?私は先生を譲る気なんか無いわ、ただライバルがいなくなるなんて面白くないじゃない」
そう言い残すと猿飛さんは私の前から去っていった
「…さっちゃん流の慰めかたアルな」
「そうね…」
少しだけ元気が出た
それが猿飛さんのお陰なんて言いたくないけれど
チャイムが鳴る
今日最後の授業だ、頑張ろうと意気込む
「じゃ、授業始めんぞ〜」
気だるい声、声の行方を見るといたのは
「銀八…先、生…?」
あれ?
今から国語だったっけ
「あのー何で先生が居るんですか?今から全蔵先生の社会…」
「シャラップ!ぱっつあん、全蔵先生は先程死んだ」
「いや、ぱっつあんじゃねーし。なんだよ死んだって」
「厳密に言えば俺が投げたジャンプが全蔵先生の尻にクリティカルヒットしたってとこだ」
「あんた…何でジャンプ投げてんですか」
「ちょっとイラついてよ…」
「イラついたからって」
しばし弟と先生のコントが始まる
全蔵先生…
痔、大丈夫なんだろうか…
「て、ことで今から国語だ」
どうやら考え事をしているうちに国語の授業になったらしい
ま、いつものようにだらけているけれど
ようやく授業が終わる
私は先生と月詠先生の関係がチラついて仕方がなかった
先生が教室の扉に手をかける
そこでくるりと私の方を向く先生
「志村姉〜放課後、今日の授業のプリントまとめて持ってきて」
「…人をパシリにするなんてそれでも先生ですか」
「まままま、んな冷たいこと言うなよ」
「全く…どこに持ってけばいいんですか?」
「国語準備室」
「またか…あなたって人は…」
「よろしく!今日もかわいいよ志村姉!」
「いい加減にしろ!自分で持ってけクソ天パ!」
「わかった!!ハーゲン3個!」
「何がわかったんですか?ハーゲン10個に決まってるでしょう!」
「姉上、訂正するとこ間違ってませんか?」
弟に冷静なツッコミをされて、この会話は終わった
放課後
結局私は先生の言いつけ通りプリントをまとめ、国語準備室へ向かう
準備室のドアをノックするが返事がない
「先生…?」
ドアは開いていた
でも先生はいなかった
「どこいってるのよ」
もう、と悪態をつきながら先生がよく使っている机にプリントを乗せる
どうしようか…
先生が来るのを待っていようか、と思い先生がよく座っている椅子に座る
しばらくしてガラリと準備室のドアが開く
「先生、どこいって…た…」
言葉は止まる
いたのは月詠先生だった
「銀ぱ―…」
向こうも私を見て話が止まる
「あ、月詠先生…」
「志村…妙?」
「はい。…あれ?何で私の名前―…」
月詠先生は私のクラスを受け持っていないはず
「あー…まあいろいろと聞いておったから…」
「?」
月詠先生は私をじっと見る
「そうか…主が…」
「何が…ですか?」
「あ、いや…」
会話が途切れる
どうしようこの状況…
廊下で銀八先生と何話してたか聞いてみようか
いやいや、なんで私がそんなことを!!
「あの…月詠先生」
「ん?」
「あ、大したことじゃないんですけど!あの…ぎ、銀八先生と仲…良いですよね」
月詠先生は目をぱちくりさせると「そうかの…」と呟く
「まあ…悪くはないな。なんだ、銀八が好きなのか?」
「そ、れは…」
ビクリと肩が揺れる
月詠先生はフッと微笑む
「別に咎めるつもりはありんせん。」
「…不毛…ですよね」
「別にそうも思ってない。わっちは女として聞きたかっただけでありんす」
月詠先生は
いや、女じゃないか…、と呟く。そして
「ライバルとして」
と訂正を入れる
「主も廊下でわっちらが話していたのは見たんじゃろう?」
「…は、い」
「何を話してたか聞きたいか?」
その問いかけに困った
頷けばいいはずなのに
躊躇った
困惑していると月詠先生は呆れたような顔をして笑う
「躊躇うことなんかありんせん」
「え?」
「深い話なんぞしておらん。ただの他愛ない話じゃ」
「そ、ですか」
「今、ホッとしたじゃろう」
み、見透かされてる!?
けらけら笑う月詠先生を見つめる
「主、思ってることをあまり顔に出さないと聞いてたんじゃが…銀八のことだからか?」
思ってることを顔に出しすぎ、と指摘され顔を覆う
「そんなはずは…」
「…ま、話が横道にそれたがとりあえずわっちは銀八を諦めるつもりはない。今も、これからも」
「わ、私もありません!」
「…そうか」
話の区切りがいい頃に国語準備室のドアが開く
「…お?志村姉に月詠じゃねーか。何してんの」
「あ、私はプリントを」
「主に用があったのじゃが…」
「お、志村姉あんがとよ。月詠、用って何だ?」
「大したことじゃありんせん。じゃ、わっちはこれで。」
月詠先生は銀八先生とすれ違いにドアに手をやる
ドアを開けて再度私を見る
「話せてよかったでありんす」
「…こっちこそ…」
月詠先生は気をつけて帰れよ、と言うと国語準備室を出た
「何があったの」
「先生には秘密です。」
「よくわかんねーけど…お茶、飲んでく?」
「いえ、帰ります」
先生は口を尖らせてあっそ、と言う
「気をつけて帰れよ」
「はい。また明日」
そう言って私も国語準備室を出ていった
宣戦布告
私たちの戦いは始まった
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