その優しさが甘い罠
「…」
「…」
「…お妙さん?さっきからガン飛ばしてますか?」
「いいえ、そういう訳じゃないわ」
パッと銀さんから目をそらす
そういう訳じゃない
ただ見ていないと
消えてしまいそうで…
「怖いんです」
貴方は戦うから
困っている人をほっとけない優しい人だから
血だらけで帰ってくるから
いつ私の前から消えてしまうか分からないから
「不安なの」
そう言うと彼は私を抱きよせる
「何が不安?」
「貴方が私の前から消えてしまうと思うと…」
どうしようもなく不安になる
私も一緒に戦えればいいのに…
でも私は戦えない
貴方の帰りを待つ人
「待ってるだけ…なんて…」
くやしい
涙が目を霞ませる
「…お妙」
「はい?」
「ごめんな」
不安にさせちまって…ごめん、と何度も謝ってくれる彼に胸が苦しくなる
銀さんは辛そうな…苦しそうな笑みを見せる
それを見てもっと胸がきゅっとしまる
「ねえ銀さん」
「ん?」
「待ってるだけの私は…必要?」
「…なんで?」
「だって…無力じゃない」
そう、無力
待つだけの人なんて無力だ
貴方が危険な目に遭っても助けられやしない
すると抱き寄せられていた力が少し強くなったのが分かった
「…銀さ」
「無力じゃねーよ」
「え」
「無力じゃねェ。お前が俺を待っててくれるから…俺は強くなる。待っててくれるから生きて帰れる。お前が俺を支えてくれてんだよ」
「…。」
「お前が俺の最大の戦力になる」
貴方がそう力強く言ってくれるから安心して涙がこぼれ落ちる
その優しさが甘い罠
一度罠にはまると逃れられない
罠だとしても逃れようなんて思わない
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