あなたの代わりに
「今から会いに行っても良い?」
その声はいつもの気だるそうな声ではなく
今にも泣き出して壊れてしまいそうな声だった。
ガラガラと門を開く
今は夜中の12時を少し過ぎている
近所の迷惑にならないよう、寝ているであろう弟を起こさないように注意する
「…銀さん」
目の前に来た彼を見上げるとガバッと抱きつかれる
いつもなら「何しやがるこの天パが!!」とか「セクハラは止めてくださいクルクルパ―」と憎まれ口を叩くが
今回は出来なかった
彼は泣いていたのだから
「悪いな…仕事ねーから早く寝たかったろ」
こんな…自分が傷ついているのに人の心配をするあなたは馬鹿だ
ホントに馬鹿…
「…みんなは狡い」
「え?」
「銀さんがこんなに傷ついてるのに頼ってばかり」
「…めろ」
「みんな自分のことばかり。銀さんに利益はない」
「やめろ」
「自分が可愛いから汚いことは全部押し付けていく」
すると、ガッと抱き合っていたからだが離れる
「違う」
「違わない!」
少し怒鳴って言うと
彼の瞳が揺れる
「違いません。私はあなたが言わないことを代弁してるのよ」
あなたはこんな酷いこと
言えないじゃない
彼は目を揺らしていたが泣き顔は見せなかった
でも視界はぼやけた
彼の指が頬に触れる
「泣かない女…が泣くたぁ驚きだ」
あなたの代わりに
私が涙を流してあなたが言えないような愚痴を溢してあげる
あなたは少しでも楽でいて
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