水底の夜光虫 | ナノ

▽ 思い出す妖精と静聴する人間


「あのね、聞いて?私ね、貴方の話を聞いて思い出したことがあるの」
「ほうほう、何を思い出したの?」
「私、  と会う数日前に自分のことを異形って名乗る人と出会ってたの!その人ね、職務怠慢の所為で追いかけまわされてて、名前を口に出しても聞きつけて飛んできそうって名前教えてくれなかったのよ」
「それはまた……僕の奥さんもよく追っかけまわされてたなぁ」
「でもね、ニックネームなら大丈夫かもってことでニックネームで自己紹介しあったの!なんだか身分を隠して偽名を使ってるお姫様みたいでドキドキしたわ!!」
「ニックネームかぁ……あ。そういえば僕の名前言ってなかったね。僕はメルツ。でもメルの方で呼ばれることが多いかな?」
「私のニックネームはエル!あの人は…うん、……そう、クロノス。私が守ってた飲めば不老不死になれる生命の杯を奪いに来たのかと思ったけど『誰が好き好んで長生きするか』で済ましちゃった人」
「……」
「メル?どうしたの?」
「クロノス……エルちゃん、多分君は僕の奥さんに会ったことあるよ」



「どういうこと?」
「その人、クロノスは白磁の髪にアンバーの目ぇしてて左目の下に三連の菱形トライバルとかなかった?」
「!」
「そんでもって目は据わってるしヘビースモーカーだし横暴だし……」
「!!」
「変に博識だし好戦的だし感情に合わせて横髪動いたり……」
「!!!そうよ!えっ?!あれ?!何で私、  にクレイオスのこと教えてもらってる時に疑問に思わなかったのかしら?」
「多分、君と別れる時に記憶を消したんだろうね。記憶を持ってたら追っ手が君を襲うかもしれないし、なにより君をまた孤独にさせるのが忍びなかったんじゃないかなぁ?」




「貴方の奥さん…クレイオスはとっても優しかったわ」
「ん……」
「突然空から降ってきたり匿えって脅されたりして驚いたけどいろんな物語を聞かせてくれたの」
「いろんないろんな世界を、時代を見てきた人だからね」
「うん……中には悲しい結末のお話もあったわ。でもね、そんなお話の後には必ず『まぁ、全部法螺話だけどね』って笑うの。全部本当にあったことだってことぐらい心を読んでしまえばわかることなのに」
「うん」
クレイオスは負の表情は読み取りやすくても楽しいとかそんな表情は出してくれなかったから沢山心を読ませてもらったわ。でも全部が全部ぎこちなかった。多分嬉しい、とか、きっとこれが楽しい感覚なんだろう、とか」
「……多分、無意識のうちに心を殺しちゃってるんだと思う。毎回治してたのは僕だったけど……」



「  はクレイオスに会えたかしら?」
「  君?クレイオスを君に会わせたいって言ったっていう?」
「そう。記憶も朧気になるほど小さかった頃に餓死一歩手前で拾われて、  がエールを求めて各地を回るって決心した前日に行方不明になった、って言ってたから……」
「………それって屋根の下で二人っきりしかも記憶が朧気なほど小さい時ってことはお風呂一緒に入ったり就寝スタイルが全裸のクレイオスの裸見たってことだよね?やばい俺  君のことちょっと呪うかも」
「女の子の前で平気で全部脱いじゃうのはクレイオスに似たのね!!なんで生きてる間に直させなかったの?!」
「一緒に寝ると肌がすべすべで気持ちよかったんだよ!!(矯正しようとしたけど反撃されたんだよ!!)」
「内心と口に出してる言葉が反対になってる!……あ、そ、そういえばかかかか身体の隅々までみみ見合ったな、仲とかも言ってたわね」
「う、わああぁあん!! 、  君に足の小指をぶつけまくる呪いをかけてやるうぅう!」
「(慌てるメルって……面白いなぁ)」



「とにかく!  とクレイオスが再会できれば大団円でしょ?」
「……なんでさ?」
「  、生命の泉の杯を飲んだから不死者になったの。心を読んだからわかってたけどクレイオスを絶対に見つけ出すためだったみたい」
「……」
「それだけ想われてるのよ?お互いが互いにどういう感情を向けていたとしても競い、支え合えると思うの」
「……エルちゃん。えっと、その、エルちゃんは  君が好きなんじゃないの?」
「……そうね、私、  が好きよ。でもクロノスの…クレイオスのこと忘れてなかったら違ったかもしれない。今もクロノスに対しての好きが友達に対するものじゃない気もするの」
「?!(百合か?!ガールズラブラブなフラグなのか!?あ、クレイオス男体化できるんだった……)」
「初めて会った時も男の子だと思ったし……って、聞いてないわね」






「私、行くよ?」
「ううう……むうう、う?あれ?エルちゃん待って!俺一人で会うとかムリ!絶対無理!!」









死者の会話はこれにて。
だがしかし、メルツは静聴しない子(おっさん)。



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