■ 遅かった

タイミング悪く、私が皆のもとに戻った頃には作戦会議の真っ只中だった。
人数の配分から三チーム別れて行動するのは決まったらしいのだが、問題はどう分けるからしい。

魔法の使える三人は強制的に分けられるとして、誰が先駆け隊を務めるか。
三人というのは私を含め、ティナとロックが連れてきた脱帝者セリス元将軍で、あまり使ってなかったはずなのに、私が魔法を使えることは皆に広まってるっぽい。
誰だチクったやつ。

こちらは実質闘える人数が若干の八人しかいないというのに、奴らはきっと全力で来るだろう。
ロックの足止めは成功したみたいだけど一人の討伐人数がノルマ何人になるのやら……
それを考えると先駆け隊は残りの二チームが体力温存したまま敵の大将と当たれるように人一倍量をこなさなければならない。

「って、私が行けばいいんじゃないの?手加減しなくていいならば奥の手でこいつ使えるし」
「あ、よかった。アレースと合流してたのね」
「かのような小さき魔物が奥の手……?」

ひょこっとコートの中から顔(といっても眼球が毬栗纏ってるような一頭身だけど)を見せた黒毛玉を摘まんで掲げてみせれば集まる訝しげな視線。
なりはちっちゃくて弱そうでも多分、見かけによらずここにいる中で一番強いのはこいつだ。

本人もやる気で溢れているらしくむいむい憤ってる。

「こいつの特技は侵食でね、有機物だったら何でも侵す。奴さんらが突っ込んできたらこいつ投げてやれば即全滅させれるよ。ちょっとミイラが何体かできるけど」
「……」
「……」
「それはホントに奥の手で、アレースの魔法で一斉に感電とかさせられないのか?」

皆が雪原に横たわるミイラを想像しているであろう時にマッシュはバレンの滝でのことを思い出したらしい。
確かにあれならば炎のように雪を溶かしてしまわないから雪崩の心配もしないで済みそうだが、また感電したいのだろうか。

「できないことはないけど……そこら一帯静電気凄いことになるよ?」
「そんくらい何てことないさ」
「よし、では先駆けとしてアレース、補助にカイエンとガウ、それにティナ。敵の大将、ケフカの相手は私にマッシュとロック、セリスで行こう」








「帝国兵が来たぞ!」

村長の家に転がり込んできたガードの言葉で立ち上がったバナンさんに続いて出て行く皆の一番後ろをついて行きながら、誰も見ていないことを確認してから左の義眼もとい黒毛玉を突っ込む。
やる気満々だったのにお役御免となったからか、普段より入りたがらない黒毛玉を無理矢理押し込んでるシーンが自ら眼球を抉ってるように見えたのか、私の前を歩いていたセリスにドン引かれた。
多分、いやきっと頭おかしい人だとか思われただろうな、てか嫌われてるかも。
レオタードじゃ寒いと思って色々渡したのに装備してくれてないし……



アレースは知らなかった。
柄でもないと思いながらも、渡されたスキニーパンツやビスチェ、それに合わせた外套をセリスは気に入り、汚しては勿体ないからとそれらはジュンの家に預けられたこと。
言いそびれた礼を言おうと振り向いた時、黒毛玉を押し込んでいたアレースを、実験で抉られた目が痛んでるのだと勘違いし、何も言えなかったこと。

厚着をしてる所為で体格がわかり辛いことになってるアレースを、セリスが男だと勘違いしてること。




頂上一歩手前付近で陣を張り最後の確認をしている間、大人達の会話に飽きたガウはアレースの眼帯を取り外して見えた痣に興味を示したらしく、窘める者(カイエン)が来ないからとアレースの顔をむちゃくちゃ覗き込んできていた。
視界の端にその姿が映っているものの、特にコンプレックスというわけでもないアレース本人はそのまま自由に放っておいているのだが、何より気にしていたのがそう、セリスだ。
兵士になるために育てられてきた彼女からしてみたら子供と接するなど未知の領域であり、そこまでされて鬱陶しくないのか、そこまで接近できて羨ましいと感情がごちゃ混ぜになった視線をガウと片手だけガウに構っているアレースに向けている。

確認が終わり、触ったら痣が感染(うつ)って指が落ちるぞとガウを脅して逃がしたアレースはセリスに気付かずティナの方へと歩んで行く。

「ティナ、何があってもティナはティナだよ。出会えてそう時間は経ってないけど、私はティナが好きだからね」
「ありがとう……アレース」
「来たぞ!」

束の間の平穏はいとも簡単に奪われてしまったみたいだ。

「ワシの所まで攻め込まれたらアウトじゃ。戦士達よ、頑張ってくれ」

その言葉と共に出陣する私とカイエンとガウ。
動きが素早く、すぐさま登ってきた犬達を二人に頼んで素早く前に出る。
さて、やりましょうかね。

「なぁ、基本の魔法三種の中で最も広範囲に広がる魔法が何か知ってる?私、ゴミを一掃できるコレが得意なんだ」


サンダラ


蒼白い稲光がその場を支配し、全てを包み込む。
この雪原の地を溶かすわけでも凍て付かせるわけでもなく、稲光は雪を舞い上がらせ、兵士達を黒く焦がした。
一瞬にして消し炭(服が全焼に皮膚が焦げたぐらいで止めといたからね)になった兵士達の奥で、残っているのは牛のような大型の魔物に乗った兵……ヘルズハーレーとケフカだけだ。

作戦通りだとすれば稲光を合図に移動してくるエドガー達を先へ進める為、合流してきたティナ達とヘルズハーレーの始末に取り掛かる。
眼帯を剥ぎ取り、黒毛玉の入った左目を開いて奴に視線を向ければ表示される弱点箇所に属性。
義眼として使われている間、黒毛玉は周りの神経を侵食して完全に私と結合しているから常にライブラ状態ってわけだ。



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