Lindbulm Brand Castle
何処となく横暴な人


久し振りですリンドブルム。
そして相変わらずの作りのターミナル。
いや、十年以上の付き合いだから見慣れたっちゃー見慣れたけど、やっぱり私が懐かしいと思えるのは大判のガラス窓から見える、平地に何機も並んだ姿なんだよなぁ……
上から吊り下げられる式じゃなくってさ。

初めて来たらしいビビはあっちを見たりこっちを見たりと忙しそうにしている。
アレクサンドの銅像がある外壁門すぐの広場よりも広いもんね。
しかも来客者を歓迎するかのように敷かれたレッドカーペットに、惜し気もなくふんだんに使われている大理石。
果てには手摺りの金は混ざりけのない純金、金無垢だとか。
……これは噂だけど。

「おっきなお城なんだね。アレクサンドリア城よりも大きいかも……」
「そりゃそうさ、ビビ!天下のリンドブルム城だからな!」

故郷の城を誉められて嬉しいのはわかるけどジタン、このターミナル以外行ったことなかったよな?
ビビとは違い、ダガーはどちらかというと誰かを探しているような感じで見回してる。

「ダガーは来たことあるんだったね」
「ええ、小さい時に何回か。でもお父様が亡くなられてから来るのは初めてです」
「そうか」
「おっと、早速お迎えですぜ、お姫様!」
「古典的な盗っ人みたいな口調はやめなさい」

堅苦しい喋り方に戻ったダガーと軽く、冗談混じりな口調になってるジタン。
そういえばダガーの目的はリンドブルムに来ることだったもんな。
ここでお別れってことか。
一期一会、そう考えればいいような気もするけど、ジタンには無理なんだろうな。

下級兵から報告されて来たんだろう、二人の下級兵を連れた上級兵は私達を品定めするように見回し、顔を顰めた。

ん?私、こいつを見たことあるぞ?

「これはまた随分と型の古いカーゴシップですな」

あー……ちょこちょこ私に突っ掛かってくる奴だ。
私が書いた新型飛空艇をプロの方々に見てもらおうと持ってきたら、若者のくせにあーだこーだと技師でもないのに鬱陶しく嫌みったらしく口出してくれたっけ?
何回目かで服装の事まで言われたから私の中で文句の言い様もないような完璧な格好で来たら顎抜けてたよな。

一番先頭を歩いていたダガーが凜とした悠然な姿勢で上級兵に話し掛ける。
どんな人にでも最初は懇切丁寧に。
ダガーのいいところなんだろうけど、王女なんだからもっと胸張ってりゃいいのに。
シュトラールも同意見なのか小さくピィ、と鼻を鳴らしてる。

「わたくしはアレクサンドリア王国の王女、ガーネット=ティル=アレクサンドロスです。シド大公殿に会いに参りました」
「一国の姫君がそのようなボロ船に乗ってくる訳がありませぬ!第一、姫様の御付きがこのメンツとは……」

へー、初めて知った。
上級兵はその一国の姫様の顔を知らないんだー。超無礼。
フォローを入れなければならない立場のスタイナーは頭に血が上っちゃってるし、ジタンは言い返せる立場にいないし、ビビに至っては怯えちゃってるし……
フォローとか後始末するのは私って訳ですか、そうですか。
ジタンとビビの間を抜けてダガーの隣に立ち、フードを下ろす。

「上級兵さん、半年で私の顔を忘れたとは言わせませんよ?」

そう言いながら口元を隠しているハイネックをガッツリずり下ろせば、見たことのある顔が出て来て驚いたのだろう。
顔面蒼白、やっちまったって表情を隠せていない。

いつの間にか上官達と仲良くなっちゃってた私を目の敵にしてきたけど、全て上手くいかなかったもんね。
信用度からすれば顔パスできる私の方が高いもんなぁ。

「で、ですが、何か王族であるという証をお持ちですかな?」
「ダガー、あれを」
「はい……」

大きな水晶のペンダントを首から外し、見せるだけでいいのに渡してしまうダガー。
こいつ、他国の姫様の顔も知らないのに他国の王族の証なんて見てもわからないっしょ。
手渡されて訝しげな目で見て、顔面蒼白のまま目を見開いた。

「こ、このペンダントは天竜の爪!?……いや、似ているが、形が違うようだ……」
「いや、お前知らんでしょ。オルベルタさん呼べよ」

自分の上官は役に立たないと感じたのだろう。
左右にいた下級兵は私に向かって頷き奥へと消えて行く。
その間に私は上級兵からペンダントを奪い取りダガーに返した。

うん?私が何でオルベルタさんを知ってるかって?
大公ともその奥さんとも知り合いだよ。
養子縁組されそうになった時は逃げたけど、今は普通に霧機関以外の開発グループに入れてもらってるし。

ちなみにこのことは我らがボス、バグーしか知らない。
ここの開発部に私を売り込んでくれたのがボスだし、別に皆に言わなくてもいいんじゃね?と言ったのもボスだ。
だから後ろでエフって何者?と疑問を口に出してるジタンなんて知ったこっちゃない。

「これは何の騒ぎだ?」
「はっ、ブナンザ様が連れて来た怪しい者達が大公殿下との謁見をと願い出ていまして、その上、天竜の爪にそっくりなペンダントを所持しており、ますます怪しいのです」
「(ブナンザ様ぁ!?)」
「(名前強調しやがって……夜道は背後に気を付けろこの野郎)」

背中に一つの視線が突き刺さる。
なんだ、私がファミリーネームに様付けされてるのがそんなに違和感あることか。
オレンジ色のリボンで豊かな髭を結っているオルベルタさんはダガーがつけ直したペンダントを見、ダガー本人に視線を移してそれから私と目を合わせた。
それから、腕の中にいたシュトラールが警戒して鳴けば、その姿を見たオルベルタさんはひどく驚いていた。
やはり城内に魔物を持ち込むのはマズかっただろうか。
ダリでは文句は言われなかったけど、あそこは猫がいたからか?

「あとは私が引き受ける。お主達は下がってよい」
「はっ!」

オルベルタさんがまだ兵士達の方を見ている間に目が合った上級兵に向かって親指で首を切る仕草をして舌を出した。
悔しそうな顔してる。様ァ見ろ。

ダガーとオルベルタさんが感動の再開を遂げている間を使ってハイネックを上げてフードを被る。
するとすぐにフードの上から頭に乗ってくるシュトラール。
ガード無しで頭に乗っかられると鉤爪が痛いって言ってあるから乗れなかったんだよね。
ビビは乗ると潰れちゃいそうだし、ジタンはノーガードだし、スタイナーは固いし、ダガーは女の子に乗る訳にもいかないもんな。
……私は女扱いされてないってことなのか?
親代わりだからスキンシップ取ってるだけだと願いたい。

「失礼しました、ガーネット姫様。さっ、どうぞこちらへ。大公殿下がお待ちかねです。ディレーネ様もお疲れ様です」
「ん?」

どういうこっちゃねん。


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