Half a year ago これがはじまり 「レア王は俺、ルビィがコーネリア、マーカスが恋人役、ディレーネがシュナイダー王子、ジタンとブランクとシナがマーカスの友人役残った奴らは全員レア王の部下!以上!お前ら文句はねぇな!」 「なんでこれだけ野郎が揃ってるのに敢えて私が男役なの?」 「エフ姐さんが1番女子人気高いからじゃないっスか?」 「マーカス何言ってんだよ。1番人気はこの俺だろ?」 「ジタン、諦めるズラ。エフにはガチ恋勢もいるレベルズラ」 「なんやそれ、ブランクいつか刺されるんとちゃう?」 「?、私がジタンに刺されるんじゃなくて?」 「刺すかっての!?てか何時になったら付きあ「おっと危ねぇデカい蚊が」 パスコンと何故か子気味よく叩かれた方に振り向けば叩いた張本人のブランクが。 壁に背を預けるのが癖になっている彼は少し離れた位置に居たはずなのにわざわざ叩きに来たのだろうか。 というか流石に蚊だなんて嘘だとわかるし聞かれたくないなら耳を塞いでくれればいいのになんで叩かれた。私の頭はタンバリンか。 そのまま空いていた私の隣の椅子に座ったブランクは正面に座るジタンを睨んでるしマーカスとシナは呆れてるしルビィはにやにやしてるしで纏まらないこの場を崩したのはお前ら脱線しすぎじゃ!とのボスの大声とひっくり返ったテーブルだった。 実はこれはただの芝居ではない。 劇団タンタラスを隠れ蓑にした誘拐計画なのだ。 私にシュナイダーをやらせるにも何か理由があるのだろう。 そうでなければ公演時間の都合、省いたところで問題のないシュナイダーの登場シーンを作る必要はないのだから。 実行役はジタンとブランクで予め決定済みだと聞いている。 仲違い後に舞台から客席へと降りた2人が剣劇を繰り広げ自然な流れで城内へと捌けるようにして侵入する。 堂々としていれば一般兵は上から許可はもらっているだろうと勝手に思ってくれるだろう、とのこと。 誰かが目で2人を追いきらないように滅多に出てこないシュナイダーを出すのか? いそいそと元に戻されたテーブルに各々頬杖をついたり腕を乗せたりとはしているがやっぱり私の配役が気になるのだろう。意識はボスに集中している。 「実行日までにターゲットに何かあっちゃあいけねぇ。ディレーネ、お前は先にうまいこと潜り込んでターゲットとその周囲を監視するんだ」 「奴さんの身に何か起こるかもしれない状態だと?」 「詳しくは知らねぇがな。ジタンとブランクと入れ替わるぐらいのタイミングで劇場艇入りすりゃあ着替える時間ぐらいできんだろ」 「…あー、逆にシュナイダーのシーンで時間稼ぎをするってことか」 「そういうこった」 金目のものを盗んだりは日常茶飯事だけど誘拐となると誰かから依頼されてだろう。 ボスには盗賊なのにも関わらずパトロンがいるらしく、幾ら金を積まれても外道の悪事に手を染めることは無い。 良くない黒い噂を持つ貴族の屋敷に盗みに入るなどといった大きな仕事の時に時々証拠品となるような物の窃盗もついでにと頼んできたりしたこともあったけど、あれは確実に証拠品がメインで窃盗がおまけだった。 それに、だ。 貴族はあの後すぐ悪事を白昼に晒されて捕まったと街中で配られていたビラで見た。 人質目的の誘拐じゃなければ虐待からの救出目的の誘拐でもない。 実質のところ誘拐というよりお迎えといった言葉が合う事案なんだろう。 しかもターゲットが一国の姫様とくれば依頼者はターゲットと知り合いではあるが自分は動けず人に任せるのに敢えて盗賊団のボスを選び、間違いを起こさないだろうとボスのことを信用している人物。 と、数人まで候補を絞り込んで考えを止めた。 余計な首突っ込んで巻き込まれに行くのはよそう。 「わかった。監視は前提としてターゲットにはどこまで近付いた方がいい?距離によっては色々準備が変わるけど」 「そうだな…姫様が気を抜いて話すようになるぐらいには接触した方がいいかもな。スムーズに潜入できるように外交官補佐の座は用意しといたから上手く使え」 「了解。ところでシュトラールは?」 「勿論留守番だ」 ギィ、と勝手に他人のベッドで寝ていた竜が鎌首を持ち上げて当たり前だろと言わんような鳴き声を上げた。 長い付き合いなのに中々に薄情なやつである。 可愛い相棒(ペット)で懐柔しようというのはダメなのかと伝えれば全員が全員可愛いの判定がおかしい、連れて行ったら城中パニックになる、反射的に動くものに噛み付こうとする習性の生物は決して大人しくないと首を横に振られてしまった。 普段はミニマム魔法で小竜サイズまで小さくなってて可愛いのに… 本人が付いてくる気がないならそれはそれで仕方がないとして、外交官補佐の立場で姫様に近付くことは可能なのだろうか? 私の知っている外交官というものは大使館や領事館に勤務し、駐在国の様々な情報を収集して日本の本省に報告することや当該国政府との協議や交渉、そのための下準備だったり、相手国が主催する行事に参加したりして両国の友好を深める者のことだが、国王が逝去してからあまり外交交流を行わなくなったらしいアレクサンドリアではたして外交官の立場はあるのだろうか? これは夜な夜な探りに行かなければならない気がするがやってやれないこともないだろう。 問題はとんでもないものを見つけてしまった時にシュトラールが使えないとなると手紙で伝えようにも最低1日は掛かってしまうということだ。 「それはないだろ」 「ディレーネは時々男以上に頼りになるズラ」 「ジタンさん前ナンパした女性、意図せずエフ姐さんに取られてたことあったっスよね?」 「「デート楽しんでね」の一言だけで持ってかれるとは流石に思ってなかった…」 「え、マーカスは私の敵なの?味方なの?」 「お前の無自覚行為でこれ以上余計な虫が付いたらどうすんだ」 「男の嫉妬は醜いでブランク」 「そんなんじゃねぇよ!」 「じゃかぁしい!」 ちゃぶ台返しの要領でひっくり返された机をいち早く回避できたのは私だった。というかキャスター付きの椅子を使ってたからちょっと床を蹴っただけで簡単に後ろに下がり過ぎた。 レア王か潜入かと言われたら潜入のが楽しいに決まってる。 けどブランクと離れるのは嫌だ。こわい。 もし彼と離れている間に私への関心がなくなってしまったら、見捨てられたらと思うとこわくてこわくて仕方がない。 自分勝手だというのはわかってる。 彼からしたら同情して拾った妹分のようなものとしか思っていないだろうけど、私はそれ以上の感情を持ってしまっている。 単独行動に反対されることで目を掛けられていると感じられるし、心配されることで自身に気を向けられていることを感じられる。 それが嬉しくて嬉しくて仕方がない。 「…いいか?絡まれたら即刻撃ち殺せ。もしくは身元がわからなくなるぐらいに潰すんだぞ」 「いやいやいや何言ってんだブランク!?」 「物騒!何これ以上にないくらい物騒なこと言うてん!?」 「りょーかい」 「了解するなよ!?」 ジタンが騒いでる最中に目が合ったマーカスが任せろと言わんばかりにこちらに向かって親指を立てて来たのを返す。 彼は知ってる。 私の中にある黒いどろどろしたこの感情を。だから何かと協力してくれる。 後ろに下がりすぎた私を椅子ごと引き寄せたブランクはそのままジタンと、それにルビィ相手に言い合いをしてる。 口では勝てない癖によくやるなぁ… ボスは私が返事せずとももう潜入させる気でいるようで、日程の書かれた紙を背後のボードに貼り付けている。 期間はガーネット姫の誕生日の半年前からリンドブルムに届けるまで。 私は外交官補佐としてアレクサンドリアに潜入し、ガーネット姫に近付く。 あわよくば仲良くなり誘拐をスムーズにすることが目的。 外交官補佐…ということは外交官までをも騙さなければならないってことか。大変そうだ。 横に軽く倒れ込むような感じになりながら隣にいるブランクに頭と肩を預ける。…脇腹に頭突きするような形になってしまったけど、何も言わずに頭を肘置きにされたから文句はなかったみたいだ。 「(顔あっか…)」 「(顔真っ赤ズラ…)」 「(おーおー、頭抱え込まなくても誰も取らないっての)」 「(アニキ…微笑ましい通り越してもどかしいっス)」 「(無理矢理引き離しゃあ逆にくっつくと思ったんだが、失敗か?)」 ブランクはディレーネ以外のこの場にいる者達が何を考えているのかなんとなく表情で察していた。 うるせぇ黙れ!タイミングが掴めねぇんだよ!そう言ってしまえたなら楽かもしれないが如何せん彼にだってプライドも羞恥心もある。 それに言ってしまったが最後、このネタで一生とまではいかないだろうがことある事にからかわれるのは目に見えている。 タンタラスに入る前から一緒にいるせいで彼女が自分から離れて行く想像ができない。 悪い虫はとことん駆除してきたし、元々人を見る目があったから悪い虫の特徴を教えたら自分であしらうようになっていた。 アジトと別に建てた家で当たり前のように2人暮らしをしているせいもあってか、今更付き合うだのどうのこうの言うのもおかしい気がしてしまうのだ。 それに思いを告げたとしてもし兄としか思われていなかったら、そこからこの関係が崩れてしまったらと考えると勇気なんて出なかった。 トレノでごろつきをやっていた時に揃いのトレードマークを持とうと額のベルトの予備を渡したあの頃の自分を、彼女の首と口元を隠すように掛かっているベルトを見る度に褒める程には臆病風に吹かれている。 互いに言いたいことを言えばいいものを、勝手に思考し、勝手に遠慮してしまっているが為に進展しないのだ。 全くもって前途多難である。 |