Ice Caves
美しく妖しく


シュトラールが産まれたことにより、明るくなった皆の雰囲気だけど、それに比例して暗くなってきた空に疲れているであろうガーネット姫とビビ、それにシュトラールを寝かせて火の番にジタンを、交代役にスタイナーを置き、自分は周囲のモンスター狩りに出掛けに来ていた。
今日は何があっても寝れそうにない。自らにスリプル掛けるなんて魔力の無駄遣いしたくないし、そんなことしたって休めてる訳じゃないから余計に疲れる。

灯りと人の気配に気付いて寄ってきた命知らずなモンスターを蹴散らしながら片手銃に馴れてゆく。もう一方の銃を取りに行けるのは何時になることやら。
片方で撃っている間に、もう片方をリロードする方法が使えない今、タイミングを逃す訳にはいかないと骨身に教え込む。
そうして馴れてきた頃にはいつの間にかキャンプ地より少し離れた魔の森から伸びる川まで来てしまっていて、そういえばワイバーンの好物はある魚だったと思い出した。

「あれがいる訳ないだろうけどね……砂海の魚だったし」

食べなければ私達の朝食になるだけだと思いながら、普通の弾から針弾に換えて幾度か大きめの魚影に向かって放てばモンスターではなくちゃんとした魚が痙攣しながら浮かんでくる。
何度かそれを繰り返してビビサイズを5、6匹捕まえた所で持ち運ぶのに限界を感じ、キャンプ地に戻れば食いきれないと火の番をしていたジタンに怒られた。
いや、シュトラールが食べてくれると信じてる。

魚が焼けた頃に起きてきたガーネット姫と三人で焼き魚を食べながら今後の予定を話し合う。
ブランクからもらった地図によれば南の方角に霧の上に行ける洞窟があるらしく、一旦そこを目指すらしい。
と、ここでシュトラールが匂いに釣られてきた訳だが、産まれたばかりの所為か食い意地が凄かった。私とガーネット姫が二人で一匹なのに対して丸々二匹を余裕で食っていた。いや、あれはもう食らい付くといった表現が正しいんだろう。

全員が揃い、テントを畳み終えた頃にはすっかり日も昇り、出発するには丁度良くなった所で私達は南下を始めた。振り返りはしなかったけど、ブランクには行ってくると心の中で言っておいたからきっと届いているだろう。
まだ上手く飛べないシュトラールは私の肩に乗っていて、モンスターが出てくる度に大旋風とは言えない小旋風で援護してくれている。洞窟の入り口に着いた時には既に立派な戦闘員になっていた。

「弱点は水だって知ってたけど……寒いのも嫌いなんだね」
「あら?エフはこの子が何の種族か知っているのですか?私はてっきり新種かと……」
「見たことのない装飾品、それに飛行形だとすれば貿易の時に聞きそうであるが……」
「私がいた所ではこれがワイバーン稀少種の子供で、成体は人一人くらいは余裕で乗れるかな」

冷気を放つその洞窟を前に、パーカーの中に入り込んで私で暖を取ろうとするシュトラール。
腹出しスタイルでは流石に寒いだろうと中に入ったシュトラールをそのままに、ジッパーを胸元まで上げてやればそこからひょっこり頭だけ出して外を眺めている。
肘までたくし上げていた袖も下ろしてしまい、寒さ対策を済ませてしまえばエフズルいとジタンに文句を言われた。ズルいと思うなら薄着の長袖でも着ればいいと思うのは私だけだろうか。

ビビが祖父から教えられた情報によると、この洞窟はそのまま氷の洞窟と言うらしい。もう亡くなってしまったというビビの祖父に感謝しつつ寒いのを覚悟で入って行けば、ガーネット姫が目を輝かせ始めた。

「まぁ……なんて美しいところなのでしょう。噂には聞いていましたが、これ程までに美しいとは……」
「花なんて凍ってるというより氷の花って感じだしね」
「姫様もエフ殿も無闇矢鱈に触ってはなりませんぞ!」

晒されてる腕と顔が寒そうなスタイナーがジャンプしながら注意してくるけど、私もスタイナーに言いたいことがある。この寒い中で鎧なんか着てたら肌とくっつくぞ。

「どうでもいいけどさ、寒いんだし、早く行こうぜ……」

どうでもいいとは何事か。上手くいけばこの花から異状状態を解除する薬が作れるかもしれないのに、これだからジタンは……。ブランクだったらきっとわかってくれるだろうな。

モンスターの勘なのか、風が吹いている所を行かせまいと喚くシュトラールに従い少し回り道をしたり、氷壁に隠された宝箱を見付けてビビの魔法で壁を溶かして取り出したり、途中の分かれ道になった一方で氷付けになった口の悪いモーグリーを助けたりしてそれなりに順調に先へと進んで行く。

斬撃の効きにくいプリンに鉛弾を撃ち込んだ時にビビが遅れているのに気付き、先頭切っていたジタンに声を掛ければ止まってくれる。

「ビビ、何やってんだ!早くしないと置いていくぞ!」
「う、うん……」
「あっ!」
「あ、落ちた」

段差下に落ちたビビを上から見ていたら、何時の間にか横に関節が曲がらないくらいに固まったスタイナーが立っていて、そのままビビ同様に段差下に落ちて行った。
……不味い。スタイナーの気配もわからなくなるくらい勘と神経が鈍くなってる。このままだったら私も落ちるからと下がったのはいいけれど、雪に足を取られてしまい仰向けに寝転んでしまえばもう、そこから落ちるのは早かった。








夢を見た。十年と数年前、まだ私が故郷にいた頃の夢だ。
皇帝になのにも関わらず暇を作っては私と遊んでくれた故郷の若き君主。その日は両親共々空賊業に行ってしまい、何時も預けられる砂漠の空賊の兄ちゃん達もいなくてその君主の許に預けられていた。
国が一望できる彼の執務室で父さんからもらった飛空艇に纏わる本にのめり込む私を見て暇しているように見えたのだろう、彼は横に控えていた秘書に茶請けを用意するように言ったあと、私に近付き休憩を促した。頷く私。
不思議だな。薄れてきていた思い出を夢で、第三者視点で見ることになるなんて。

今とは似付かない上品な蔦模様のカッターシャツにハイウエストのクラシックスカート。完全にお嬢様系の格好をした幼い私は彼に連れられて着いたテラスでアップルパイを食べながら彼とのお喋りを楽しんでいる。

ふと、私が産まれる前に起こっていた出来事の話になって、それから何時の間にか母さんの話になっていた。

「エフさんのお母様には僕もお世話になりました。あの方は答えこそ言わないものの、それに至るまでの伏線を提示し、己で導き出せるように何回も誘導してくれたんですよ?」
「お母さんすごい人だったの?」
「いえ、違いますよエフさん。凄い人だった。ではなく今でも凄い人なんですよ」
「エフもすごい人なれる?ラーサーくんみたいにくにのいちばんになったらすごい?」
「フフッ、貴女は充分凄い人です。いくらライセンスを取ったからって詠唱を破棄して魔法が使える人なんてエフさんとお母様ぐらいですよ?」

そっかぁ!なんて笑顔になる幼い私。……もう、なんか恥ずかしい。ラーサーさんとの会話に夢中な幼い私には見えてないだろうけど、ガードマン達の微笑ましいといった表情がものそっこい恥ずかしい!!
どうせこれは夢なんだし、飛んだって現実では死にやしないよね!

飛び降りても所詮夢だし風を感じることもない。ただ、高い高い所から落ちている間に見えた純白のワイバーンに何故か安堵を覚え、地面に激突する瞬間、起きろと言われた言葉はきっと幻聴だろう。



鈴の音が聴こえた。





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