始めはお互いみんなとは違う変わり者で、彼は冬にしか、私は暗がりにしか生きられないものだから、みんなが眠る冬の見回りを担当することになったのだ。

「もう1年経ったんだ」
「ああ、そうだな」
「相変わらず冷たいねえ」

初めて彼と出会ったときのことはあまり記憶にない。
彼が、あまりに白く、あまりに鋭い硝子を双眼に湛えていたものだから、音も香りもこの世から逃げ去ってしまったのだ。
見た目通りのツンと刺すような言動に、当初はよくたじろいだものだった。
そのうち、彼は言葉通り真っ直ぐな質だとわかり、共に長い冬を越すことが苦ではないどころか、一つの楽しみになっていた。
今年はそこに末っ子も加わると本人に聞いていた私は、軍人気質な彼とマイペースな彼の絡みを楽しみにしていた。

「なぜ起きている!フォスフォフィライト!」
「あはは、驚きすぎだよアンターク」
「笑うな!おい、名前!」

想像通り、末っ子は流氷割りに苦戦していたが、彼らの掛け合いは私にとっては面白いもので、毎日退屈しなかった。
もちろん、彼がいる毎日に退屈など始めからなかったが。

「ねえ、アンターク」
「何だ」
「きみって結構面倒見がいいんだね」
「お前と何十年も組んでるくらいだからな」
「ちょっと、今馬鹿にしたでしょ」

冷たい口調が暖かく感じるようになった。
他の子よりも高いヒールの音を無意識に追うようになった。
冷たい硝子の目が、細まる瞬間を探していた。
偶然、私が先生と月人がやってきたときの対策を考えているとき、フォスの腕が無くなったと知らされ、あまりの衝撃に言葉が出なかった。
彼と二人きりの頃にこんなことは起きなかったものだから、彼が酷く動揺しているのがわかった。
少しでも彼の苦痛を和らげたかった。

「お前はいつも通り流氷割りに行ってくれ」
「でも、」
「頼む、皆を起こすわけにはいかないだろう」
「...アンターク、」
「名前」

有無を言わせない彼の口調に、大人しく従うしかなかった。
彼の言うことはいつも正論だった。
独りで流氷を割るときも、自分の動き一つに彼を重ねてしまい、一度足を滑らせた。
早く、彼に会いたかった。
あのぶっきらぼうな言葉を聞きたかった。

「アンタークチサイトが攫われた」

また、音と香りが逃げ出した。

「冗談でしょう、彼が、アンタークがいなくなる訳が、」
「名前」
「嫌、聞きたくない...」
「名前、」
「...アンターク」

耳を塞いで蹲った。
そんな事をしても現実は変えられないのに。
先生が困った様に眉尻を下げて、末っ子は以前よりも元気がなくなったような気がした。
末っ子が僕に近づいて来るのがわかったが、耳を塞ぐのを止められなかった。

「名前、アンタークから伝言があるんだ」
「...、」
「冬は暗くて仕事もキツかったけど、」

名前といると苦にはならなかった、って。

ええ、私もだよ、大好きな私のアンターク。