Starting point

多き恋のライバルに、皆が皆、
火花を散らす。


俺だって、負けないんだから。








「廉、とりあえず、今日は帰ろうぜ。」

「え、で、も…おれ、練習が……」

「いいや!前みたいに遅い時間だったら迎えに行くの遅くなるし!俺が送ってやりたいから、今もう帰ろう!」

「しゅ、修ちゃん、おれ、大丈夫!」

「おお。大丈夫だぞー。俺たちが送るし」

「それがヤダから先に帰るんだ!」

「そういう問題以前に、俺たちだって練習しなきゃなんねーの。」

「くっ………廉、最悪、防犯ブザー鳴らせよ」

「どれだけ俺たち信用ないんだよ!」


叶は渋々帰ったけど、いつまでたっても、田島の機嫌がなおることはなく、とりあえず練習は再開した。







帰り道、絶対一緒に帰ると聞かない田島の勢いに負けて、しょうがなく2人で帰らせた。

三橋の手をギュッと握った田島は家とは違う方へ走っていたのだった。


「大丈夫かな……三橋…」

「…さすがに田島も、ちゃんと家まで送るだろ」

「……暴走しなけりゃいいけど」

「え、泉それどーいう意味?」

「好きな女と二人きりで嫉妬まみれで……暴走っつったら一つだろ……」

「ちょ、やめてよ、そんな、さすがに………」


嫌な沈黙がみんなを包んで、俺はサーっと血の気が引くのが分かった。
助けを求めて泉を見ると、泉もこくりと頷いた。


「俺たちは三橋たちを追いかける。……とりあえず、お前らは帰ってて大丈夫だ…」

「おお…無理すんなよ……ってのもおかしいか。ほどほどにしとけよ」

「分かってる。殴るだけにするから」

「それもやめろ!」


冗談なのか本気なのか分からない言葉を残してから、泉は走っていって、俺もそれについていった。









街灯が照らす、小さな公園。
西浦高校からはそんなに遠くない、よく近くの小学校の子どもたちが集まるところだ。

そこのベンチに座って、2人は肉まんを頬張っていた。意外にほのぼのする光景でホッとしたけど、次の田島の言葉に、そんなの吹き飛んでしまった。


「三橋は、叶のこと好きなのか?」


いきなりすぎるだろ!泉と顔を見合わせる。


「え、あ…しゅ、か、叶くんは、幼馴染み、だよ」

「ほんとか?恋人にしたいではないんだな?」

「うん…それは、違うよ」

「……そっか。良かった。」

「田島く…おれ、おれは、ね……しょーじき…」


ああ、三橋、頼むから…
とりあえず田島を傷付けるようなこと、言わないでくれ。

嘘をつけないのが君の良いところだけど。
素直で綺麗な心を持っているのが君の魅力だけど。

でも、現実は思っていたのと違っていた。



「好きな、人……できないん、だ……男の人、が、怖くて…」

「え?でも、俺たちとは、普通に…」

「と、友達として…男の人としてみなければ、平気なんだっ。だけ ど、恋愛対象で、男の人として、みるのは……怖くて………」



中学生のころに男の人に告白され、ほぼ無理やり恋人にさせられたらしい。最初は三橋も戸惑い焦り、不安で泣いた日もあったが、徐々に優しさや誠実さに惹かれ、ちゃんと好きになった。

しかし、まだキスさえできるほどの関係性ではなかったのに、彼は突然三橋を押し倒し、襲った。

偶然家に寄った叶によってなんとか最悪の事態は免れたが、それ以来男の人が怖くなったらしい。


涙目で話す三橋に、田島もさっきまでの嫉妬や怒りも消え、優しく頭を撫でた。ただ、ずっと、頭を撫でた。













「犯人分かったぞ。」


突然9組に押しかけ、叶が放った一言だった。

昨日栄口と、三橋と田島の会話を聞いてしまい罪悪感に苛まれていたが、そんなもの吹き飛んで、ガタリと田島と一緒に立ち上がった。

三橋はそれにビクっと肩を震わせ、焦った。


「な、な、なに、するの……」

「……話をつけにいくだけだよ。暴力はしない」

「ほ、ホント??ホントに?」

「本当だよ。約束する」


俺は笑いながら三橋の頭をポンポンと撫でた。
それにムッとする田島。とついでに叶。


「……ありが、と。」


照れながらお礼をいう三橋に、周りの男子の心臓が撃ち抜かれた瞬間だった。









ずっと三橋と側にいたせいか、犯人から呪いの手紙のようなものを受け取り、それを調べていたら辿り着いたらしい。

どう調べたのか気になるが、とりあえず犯人をボコ…じゃなくて犯人を捕まえるのが先だ。


バンッ!!!
大きな音をたてて扉を開けたその先に、無意識だったけど今にも人を殺しそうな目つきをした3人が立っていたのが、かなり恐怖だったらしい。

(後日談by花井)















ストーカー騒動が終わり、文化祭に向けた練習に毎日明け暮れることとなった軽音部。
練習は順調だった。


「三橋、もっと本気で歌えよ、リハでは」

「え、お、おれ……ほんき…」

「んー…なんつうか。もっとできる気がするんだよな、俺は。多分、本番に強いタイプなんだろうけど」

「………」


阿部の言葉に田島も同じように頷いていた。
今の時点でめちゃくちゃうまいのに……本当はもっとうまいのか。
だったらもう敵なしじゃねえか。

俺も、本気で頑張んねえとな。

全員がさらに、気合のスイッチをいれたのだった。
するとバカ水谷が、また余計なことを言った。


「この歌も、サマーソングも恋の歌なんだからさ、三橋も恋すればいいんだよ!」

「ふぇ?こ、こい…?」

「そう!恋!三橋初恋いつ〜?」


クソが!キレる前に、三橋は何も感じていないかのように、普通に答えた。


「お、れ……保育園、だと、おもう?」

「思う??何?前来てた叶くんって子?」

「…………う、ん…???」

「なんでそんな疑問系なの?」

「おれ、は 覚えてない けど、しゅ…叶くんが言ってた!」


…それ、初恋って言えんのか?

声には出してないけど、全員思ったと思う。
それに構わず、水谷はそっか〜なんて呑気に相槌。
ったく…危うく殴るとこだった。


「恋しよーよ、三橋も♪」

「う、うん……そー、だね…」


あ、もう、ムリ。

そう思って水谷に殴りかかったのは、結局いつも通り、俺と田島だった。










「……おれ、の 歌……心、こもって、ないのかな…」

「……阿部が言いたいのはそういうことなのかもな。うまいのは十分うまいんだけどなー!」

「あり、がと……」

「水谷の言うことなんか気にすんなよ。お前は今のままでも、十分うまいんだから!」


田島くんの無邪気な声が、おれを落ち着かせてくれた。


でも、みんなが必死に練習しているこの"音楽"をおれが壊してしまうことになるんじゃないか、って。
不安や緊張だけは、拭えなかった。














そして、本番当日を迎えるのであった。




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