温泉へ行こう



やっと、やっと明日。
待ちに待った、何年ぶりかの家族旅行。







尚ちゃんが知り合いの旅行会社の人に頼んで、予約等を済ませてくれたおかげで、俺たちは楽していた。

2日前からうるさい問題児たちを頑張ってみんなで宥めながら、俺はお金の計算を担っていた。

社会人たちはもちろん忙しいし、隆兄も一兄も部活でのレギュラー争いでそれどころじゃないだろうし。


旅費を見てまず驚いたのは、予想以上に安かったからだ。

さすがに安すぎではと何度も計算したけど、金額が変わることはなくて、逆に心配になった。

尚ちゃん……どんなボロい旅館なの…これ。

聞いたけど、そこそこ良いところを安くしてもらったって言っている。

それにしても安いだろ!

……まあ、安いにこしたことはないから、大歓迎だし嬉しいけど。
不安にはなってしまう。



でも、今更どうこうできるわけないし、誰かに相談したって解決するわけでもないから、気にしないことにして、俺は自分の準備に戻った。



「隆兄〜。キャリーに俺の分も……」

「あ?キャリー?」

「……2人で一つの荷物にしようよ。その方が楽じゃない?」

「あぁ、そっか……準備してなかった…」

「え、そこから…?」

「いや、一利何してんだとは思ってたけど」

「そこで気づけよ!」

「……とりあえずキャリーな……え〜っと…」



確か一兄は孝介と一緒の荷物にするって言ってたから、荷物はここにないんだ。

のんびり現れた一兄はぐったりしていて、可哀想だなとは思ったけど、1番可哀想なのはアズ兄だから、ドンマイとしか言えなかった。



「どう?問題児」

「もう、やばいよ。部屋荒れてる」

「なんで部屋が荒れるの!?」

「どのゲーム持っていくかとか、どの服にしようか、どのおもちゃ持ってくか、明日の計画たてようとか、もう、色々」

「………」

「………」

「………あは、はは…その沈黙やめてよ」

「なあ」

「…?」

「俺だけ留守番ってあり?」

「「なし」」
















旅費削減のためにレンタカーすることになり、運転手のアズ兄と尚ちゃんは朝から大変そうだった。

忘れ物ないかー?荷物全部いれたかー?
って確認。そして誰かが、忘れ物をして取りにいくという繰り返し。

もちろん、俺の中では計算済みだ。

時間的には余裕がある。



「よーし、出発すんぞ」

「しゅっぱーーつ!」

「いえーーい!」



朝からこのテンション……
夕方までもつのか??




誰がどっちの車に乗るかも俺が考えた。
だってそうでもしなきゃ、あーでもないこーでもない、って無駄な時間過ごすからね。

とりあえず運転に慣れてるアズ兄のところに、俺と問題児たちだ。
そしてアズ兄よりは運転してない尚ちゃんのところに他の4人。うん、完璧だ。

普通車2台でギリギリだけど、電車賃は高いからしょうがない。みんな覚悟の上だ。




「梓〜。ラジオやだぁ!」

「はあ?…じゃあ、勇人変えてくれ」

「はいよー……あ、これいいんじゃない?」

「なんそれ。」

「お母さんが昔好きだったアルバム。懐かしい〜。これ、みんなして聞いてたよね〜」

「………あぁ、そうだっけ?」

「孝介はさすがに覚えてないかな…でも聞けば思い出すんじゃない?」

「聞きたい聞きたい!!な、廉!」

「う、うん!」



微妙な空気になったのは、気のせいだったのかな…
なんか一瞬、空気がピリッとした気がしたけど、そうでもなかったのかな。

家にあったCDをガサリと適当に誰かが積んだらしいから、邪魔なくらいにあるけど、偶然1番上にあったそれをかけた。


少し古めのメロディだし、歌手の名前もわかんないけど、それでもずっと聞けるのは、お母さんが常に口ずさんでいたからなのかもしれない。



「おー、懐かしいな〜」

「………俺これ知ってる!!なあ!俺知ってるこれー!」

「ええ!本当!?悠覚えてんのか〜。すごいな〜」

「……覚えてたんじゃなくて、なんかテレビとかでやってたんだろどうせ」

「え〜。そっかなあ?」

「そーなの。1歳で覚えてるわけねーだろ」


いつもみたいな宥めるような言い方じゃなくて、少し冷たい言い方な気がした。
けど今指摘することでもないから、俺はとりあえず音楽に集中した。

ぼんやりとお母さんの思い出に頭を巡らせていたら、いつのまにか眠ってしまった。

















「おい、勇人。」

「………ん、うう……アズ兄?」

「ついたぞ。お前ぐっすり寝過ぎだろ」

「あ、あれ?もう?」

「勇兄、すご、い、寝てた!」

「おー!俺たち騒いでんのに全く起きねーの!」

「どんだけ疲れてんだよ…大丈夫か?」

「いや、俺もびっくり。そんな疲れてるつもりなかったんだけどな…」

「とりあえず、旅館行こうな」

「う、うん!」



安い旅館。
どんなものかと思ったら、新しいわけではないけど、それなりの古さでいい雰囲気を醸し出していた。

みんなが、おお!と感嘆の声をあげる。



「いらっしゃいませ。よくお越しくださいました」

「あ、志賀です。お世話になります」

「あらまあ、ご丁寧に。さあ、こちらへどうぞ」








この時点では、あんなことが起こるなんて、誰が予想出来ただろうか。











「お部屋は一応3つ用意させて頂いてますけど、増やすこともできますがどうなさいますか?」

「え、増やせるんですか?俺たちは3つで平気ですけど……」

「あ、え、ええ……まあ、はい。」

「…?…どうする?増やしてもらう?」

「いや、迷惑だからいいだろ。今から準備してもらうのも申し訳ないし…」

「あらもう、そんなお客様なんですから。遠慮なさらずに」


申し訳ないけど、ニコニコしてるから。
じゃあ、4部屋にしてもらおっか。
と、一部屋だけ増やしてもらうことにした。



「部屋割どーするー?」

「アミダしよ!アミダ!」

「めんどくせぇ。」

「じゃあ、とりあえずジャンケンで負けた人から3人部屋ね」

「よしきた!」




じゃーーんけーーーん









「まあ、結果こうなりました。」


廉、文貴、尚治
孝介、梓
悠一郎、辰太郎、勇人
隆也、一利
(※ガチのくじ引きです!)



「……なんか、ある意味」

「バランス良いね」

「年も偏ってないねー。」

「じゃ、そういうことだから別れろー」

「「「はーーい!」」」







「廉、尚ちゃん、俺たち鈴蘭ってお部屋だって」

「すず、らん!」

「花の名前なんだなー……お、綺麗」

「あ、思ってたより広ーい!」

「お、おお!き、綺麗、だね!」

「安すすぎだ!って勇人不安になってたの分かるね……綺麗だし広いもん」







「うおーーー!広いなあ!つばき!」

「椿って部屋ね。ほんとだ〜。綺麗」

「………まじであの値段でいけてんの?すっごい不安なんだけど…」

「まあ、もういいじゃん。とりあえずゆっくりしようよ、勇人」

「……そうだね。楽しまなきゃ損!」

「そう!損!」

「そん!!………何が?」





「孝介、荷物は?」

「一兄の鞄の中〜」

「ふーん……え、広いなぁ……2人だけどこれでいいのか?」

「確かに……普通に4人でもいけそうだな」

「…まあいいや。えっと向日葵だな俺らの部屋は…」

「……なんか保育園の組みたい…」

「やめろ。それ俺も思ってたんだから」

「てかアズ兄、これからどーすんの?」

「いや、別に自由行動だろ」

「ふーん………」

「(なんか企んでんじゃねーだろうな…)」









「隆兄と同じ部屋って、なんかもう新鮮でもなんでもないね」

「まあ、それが吉と出るのか凶と出るのか」

「そういうこと言わないでよ…」

「問題児をバラバラの部屋にしたのが良かったのか悪かったのか」

「だからそういうこと…」

「なんかもう、不安しかないのは俺だけか?」

「………そういうこと、言わないでよ」













「よーし!俺廉の部屋行ってくるー!」

「いってらっしゃい。あ、俺隆兄のとこ行って荷物とってくるね」

「はいよー」


2人が出て行った部屋は、シンとしていて広く感じて、とりあえず俺は窓の方に行って外を眺めた。

綺麗な海が見えて、ホッと息をついた。


その、瞬間。



ーーーーーガタガタッ!!


「っ!!!……え?」



布団が閉まってある物置部屋から大きな音がした。
驚きと混乱で固まってしまう。




「………え?え?」



開けるの怖いけど、でも、もし誰か入っていたりしたら……どうしよう……

どう、しよう……。


固唾を飲み込んで、恐る恐る襖に手をかけて、一気に引いた。



「………え?」




そこには普通に布団が置いてあるけど、他にも、置いてあるのが、

小さな車のおもちゃだった。








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