西浦事件簿@
本日は荒れ模様。
心配しすぎ構いすぎにご注意を。
「………なんて?」
「だから、田島が廊下に立たされてたんだって!ちなみに泉も。」
「なんだよちなみにって。」
「いや、忘れてただけ。ね、なんかしでかしたのかな、あの2人」
「……ヤメロ。おれ、聞きたくねえ」
「現実逃避すんな主将。多分、あとでさっきの授業の先生が直々に言いにくるぞ」
「9組さっき、松Tだって。」
「げっ。松T野球部嫌いなんだよな…」
花井はうわぁぁ。と言いながら机に突っ伏した。
どうしてこんなに苦労ってもんを寄せ付けるんだろうね、この主将は。
と、どこか他人事に思った阿部。
変な引力あるんだろうな。
ちなみに引き寄せるのは、苦労と面倒事。
「なんで松T野球部嫌いなんだっけ?」
「あー……野球部っていうより、田島と泉が嫌いなんだよ…お前、知らなかったっけ?」
「え?知らない?何かあったの?」
「あのさー、多分夏ぐらいに…」
いつも通り朝練が終わって、あちぃあちぃ言いながら着替えて教室に戻っていく。
夏の部室は湿気が酷すぎてとてもじゃないけど、居座ることなんてできない。
我先にと部室を出て行くみんなを律儀に見送ってから、花井は最後にでた三橋に特に意味もなく声をかけた。
「三橋今日一限目なんだー?」
「え!……あ、こ、古典、だよ!」
「へー。先生誰だっけ?」
「ま、松永、せん せー……」
「げ。松T!俺あいつ嫌いなんだよなー」
「…?そ、う、なん、だ……どー、して?」
「なんか鬱陶しくねえ?それもさ、変な噂流れてるしそれもあながち間違ってなさそうだしさぁ」
「うわ さ?……おれ、しら な…い」
「あー……三橋は知らなくていいよ。大した噂じゃねえしな。」
「………うぉ!」
「何話してーんの!?」
返事をしようとした三橋を、後ろから突撃するように抱き締めたのは田島だ。
いつものことに花井は、はぁ…と溜息をつくと、いつものように田島の襟首を掴んで離れさせた。
やめろよぉー!と、騒ぐ田島。
ええい!早く教室行け!花井は怒鳴る。
ったく、三橋がようやく俺に心開いてきてくれてんだなら。邪魔すんなよ。
と心ん中で思ったのは、ナイショだ。
で、その一限目が古典のときに事件は起きたんだよ……
「じゃあ始めるぞー」
「きりーつ!」
礼!お願いしまーす!
ダラダラとした挨拶を少し怒られて、泉は鬱陶しいなあ、と思い聞き流していた。
それをなぜか目ざとく見つけられて、泉!と言われる。すいません、と素直に謝るとブツブツ言いながら授業が始まった。
しばらく授業を受けてると、三橋は後ろからトントンと静かに叩かれる。
睡魔と闘っていたけど、一気に覚醒して、ゆっくり後ろを向いた。
「三橋、悪りぃんだけど前のやつにこれ渡してくんね?」
「うぇ?あ、……う、うん…」
何やら手紙のようなもの。
授業中にそういうことをしたことがない三橋にとっては新鮮で、少し嬉しくなった。
クラスメイトは、サンキューと爽やかに微笑んでくれて、三橋もつられてふにゃりと笑う。
すると、
「三橋ー!」
ビクぅぅ!
突然名前を呼ばれて、三橋の肩が竦んだ状態のまま固まった。
ギギギギギ。
とロボットのようにぎこちなく先生の方を向く三橋。先生は怒るというより、何故かニヤニヤしていた。
「お前授業中に後ろ向いて話してる余裕あるのか〜?」
「………」
「あるのか?」
「な……ない…です……」
恐る恐る答えた三橋。
早速、田島と泉は三橋護衛隊として戦闘体制に入っていた。
浜田はその様子にハラハラと焦りながら見守るしかできない。
「………あとで職員室来なさい」
「うっ……は、はい……」
「えー!そんだけで職員室ってなんだよそれ!後ろ向いただけだろ!」
こーら!田島!口答えするなー!
と、浜田は心の中で言うが、もちろんそれは届かない。
泉は、田島やれやれと言わんばかりに身を乗り出していた。
「後ろ向いてたもんが悪い!」
「大体後ろ向かせたの森下だろ!」
「そーだって怒るなら森下怒ってくださいよ」
「え、ちょ!田島!泉!」
おいおい。こいつら本当に三橋のこと好きだな……確かに後ろ向かせたの森下だけど、フツーそこは言わないだろ。
と、クラスは最早生温い雰囲気で野球部たちを見守る。
何とかしろよ、と浜田をつつく者も現れるが、浜田はこうなってしまった2人を止めようとして無事でいたことがないので、あえて無視を決行した。
俺は知らない。関係ない。
とばかりに首を振って知らんぷりだ。
「とりあえずお前ら座れ。あんまり言い掛かりつけると志賀先生に報告するぞ」
「なんだよそれー!だいたい…「た、じま……く!」
珍しく声をあげた三橋に、クラスのみんなはバッ!と視線を送る。
それに些か恥ずかしそうではあったが、三橋は優しい森下くんを守るために、声を出す。
「お、れ…だいじょーぶ、 だ!」
「……本当か?」
「う、うん!」
「………ま、しょうがねえか…」
渋々と言った様子で座る田島に、一同は安堵の溜息をついた。
泉は密かに舌打ちをしたけど、それは前の席の安藤くんしか知らない。
授業は、とりあえずといった様子で再開した。
「あの、三橋…」
「う、ん?」
「ごめんな、俺のせいで呼び出し。」
「あ、ぜん ぜん!いいんだ!森下、くん……悪く、ないよ!」
「(あ〜〜!なんて良いやつなんだ!純粋すぎて綺麗すぎて眩しい!)」
このときの三橋は神様かのように後光がさしていたとかなんとか(後森下談)。
だけどそれで三橋を見つめすぎていたせいで、三橋がいなくなった後泉からの制裁が待ち構えていた。
そのとき泉の向こう側に真っ黒い闇が見えていたとかなんとか(後森下談)
「で……どーなったの?」
「三橋……松Tのお気に入りらしくてさ。職員室で、軽いセクハラみたいなのあったらしいよ」
「え!セクハラ!?」
「……松永の噂ってまさか……」
「そう………実はそっち系の人なんじゃねえか、って…」
「「………」」
ゾワァァと寒気のした2人は、思わず顔を見合わせた。
「でもさ……」
「ん?」
「なんか、三橋だったら……分かる気がする」
水谷の言葉は妙に説得力があって、いつもは馬鹿にする阿部と花井も、少し考えてからうんうんと頷く。
三人同時に、溜息をついた。
「三橋…あいつ無防備すぎんだよ。色んな意味で」
「確かにねー。高校生に失礼かもしんないけどさ。ケーキあげるって言われたらついていきそう…」
「それは否定できない。……あ、そう。セクハラされてるのをさ、田島と泉見てて」
「え!そーなの!?」
「そう、あいつら三橋追いかけてて。そんで、職員室に入ってって邪魔して」
「それで嫌いなの?2人のこと」
「らしい…」
また三人同時に溜息をつくと、ガタン!と大きな音をたてて教室の扉が開いた。
それは、今話していた話題の人物で。
花井は痛くなる胃を抑えながら机に突っ伏した。
「なー!聞いてー!」
「まじムカつくんだけど!」
「お、落ち着いてよ2人とも…どーしたの?」
「「三橋が松永に連れてかれた!!」」
はあ?
嫌な予感はあたる。苦労はひきつける。くじ運は悪い。ハゲてる。こいつと同じクラスはもう嫌だ。
阿部はそう思った。
continue…
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